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突如「天才」としての能力が開花することがあるのはなぜなのか?

By Javier Castellano

一般に「天才」と呼ばれるような人たちは、生まれつき持っているものが違うのではないかと思われがちです。ところが、頭部への外傷がもとで突如「天才」としての能力が開花する事例がいくつか確認されており、「脳の損傷が原因で天才が誕生することもある」といわれています。

BBC - Future - The mystery of why some people become sudden geniuses
http://www.bbc.com/future/story/20180116-the-mystery-of-why-some-people-become-sudden-geniuses

1860年、サンフランシスコで書店を営んでいたエドワード・マイブリッジ氏が馬車に乗っていたところ、御者のミスで馬が暴走して事故を起こし、頭部を岩に打ち付けてしまいました。

9日後に病院で目を覚ましたマイブリッジ氏は一命をとりとめたものの、発作障害や嗅覚・聴覚・味覚障害などの後遺症が残ってしまったとのこと。ところが、最も大きかったマイブリッジ氏の変化とは性格の変容であったそうで、以前は穏やかなビジネスマンだったマイブリッジ氏は、大きなリスクをとるエキセントリックな人物になってしまいました。1874年には、妻の愛人を射殺するという事件まで起こしています。

事故後のマイブリッジ氏は書店経営をやめ、写真撮影と撮影技術の発明に打ち込むようになります。以前は発明とは無縁の生活を送っていたマイブリッジ氏は、事故後の20年で10もの特許を取得し、1878年には独自の技術を用いて走る馬の連続撮影に成功しました。等間隔に12台並べたカメラで馬の連続写真を撮影し、「ズープラクシスコープ」という投影機を用いて写真を連続投影することで、まるで馬が動いているかのような映像を披露したのです。この発明に触発されたエジソンが、後に映画を発明することになりました。


マイブリッジ氏のように突如天才的な能力を発揮する人は、何らかのアクシデントにより後天性のサヴァン症候群を発症した可能性があるといわれています。もちろん後天性のサヴァン症候群を発症した例は非常にまれであり、地球上で25件しか確認されていないとのこと。

例えば、1994年に整形外科医のトニー・シコリア氏は道を歩いていると、突然雷に打たれてしまいました。すると、それまでの人生でピアノを弾いたことがなかったにもかかわらず、突然頭の中にピアノのメロディが流れ始め、無性にピアノが演奏したくてたまらなくなったそうです。シコリア氏は仕事をしている時以外の時間をほぼすべてピアノの演奏に使い、妻に離婚されるほど没頭した結果、ついに「稲妻ソナタ」という自作のピアノ曲でコンサートを開催するまでになりました。

シコリア氏が稲妻のソナタを演奏している様子は以下から。

2013 Tony Cicoria is performing his "Lightning-Sonata" at Mozart House in Vienna - YouTube


整体師だったジョン・サーキン氏は脳卒中に見舞われた後、脳内出血などの影響で脳に変調を来しました。その後、リハビリの最中にクレヨンを手に持ったサーキン氏は、突然「絵を描きたい」という衝動に襲われたとのこと。それ以来抽象的な絵画を描き続けたサーキン氏の絵は、大きな評価を得るようになり、やがて1枚の絵を1万ドル(約110万円)で販売するほどになりました。

JON SARKIN
https://www.jsarkin.com/


バーでお酒を飲んだ後で強盗に襲撃され、脳しんとうを起こしたジェイソン・パジェット氏は、事件後に世界が幾何学的なグリッド線で構成されたように見え始めました。大学を中退したパジェット氏は数学的知識がほとんどなかったとのことですが、自分が見ている世界についての手がかりをインターネットで探していたところ、「自分は世界をフラクタル構造として捉えているのかもしれない」と気づきました。パジェット氏は自分が見たままの世界を描いて画家として有名になった他、数学の天才としても活躍しています。

パジェット氏の作品は以下のサイトで確認できます。

Jason Padgett - Artwork for Sale - Federal Way, Wa - United States
https://fineartamerica.com/profiles/jason-padgett.html


たとえば、パジェット氏が「手」を描くとこんな感じになり……


オウムガイの貝殻はこんな絵になる模様。


「天才的な洞察はいったいどこから来るものなのか?」という謎について、多くの人々が議論を重ねてきました。哲学者のプラトンは「天才とは神の狂気がもたらしたものだ」と述べ、精神分析学者のジークムント・フロイトは「性的欲求を昇華させたものだ」としています。

一説によれば、天才的な能力は脳内の幸福を感じさせるホルモンであるセロトニンの分泌が関係しているといわれています。人間はベッドで静かに横たわっている時、脳内にセロトニンが分泌されていますが、この脳内にセロトニンが大量に分泌されている状態は、LSDと摂取した時とほぼ同じ状態だといわれています。脳内にセロトニンが大量に分泌されると、脳内の2つ以上の領域が同時に活性化され、普段は結びつかない複数の感覚がリンクするとのこと。

脳が損傷すると死んだり死にかけたりした脳細胞が周囲の組織にセロトニンを漏らし、LSDを摂取した時のように脳内の領域を新たにつなげることがあります。つまり、脳に大きなダメージを負った結果セロトニンの分泌に異常が発生し、それまでになかった天才的な発想を思いついたり、通常ではあり得ない奇妙な感覚を持つようになったりする可能性があります。

by jessica mullen

また、「脳の障害が天才的な能力をもたらすこともある」とされています。ある神経科学者は前頭側頭型認知症という、脳の一部に影響を与える認知症を発症した患者の中に、突出した芸術的才能を持った人々がいることを発見しました。患者が芸術に興味を示したのは認知症を発症してからだったとのことで、科学者らが患者の脳をスキャンして調べてみたところ、脳の左半球の活動が損なわれている代わりに右半球の活動が活発化していることがわかりました。

一般に脳の左半球は言語や論理的な分野をつかさどっており、右半球は創造的な分野をつかさどっているといわれています。脳の片側だけに認知症を発症した人々の中には、反対側の脳が活性化して芸術的才能に目覚めるパターンもあるとのこと。天才には自閉症的な傾向を示す人々がいることも指摘されていますが、自閉症の人々の中には左脳のセロトニン分泌量が低く、反対に右脳がより活発化して天才的な活動を行う可能性があると指摘されています。

後天性のサヴァン症候群を発症した人々の多くは、自らが情熱を傾ける芸術作品をよりよいものに改善していこうという強い熱意を持っているそうです。絵画を描くサーキン氏は大量の作品を描いており、写真関係の発明を多数行ったマイブリッジ氏も、1883~1886年の間だけで、実に10万枚以上もの写真を撮っていたとのこと。天才といえども、ハードワークによってその能力を大きく開花させることができるのは、一般の人々と変わらないようです。

by mgstanton

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in メモ,   サイエンス, Posted by log1h_ik

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