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2025年の数学における3つの大きな躍進とは?


科学系メディアのQuanta Magazineが「2025年は数学にとって歴史的な年になった」として、2025年の数学における3つの大きな躍進についてムービーで解説しています。

The Biggest Breakthroughs in Mathematics: 2025 - YouTube


◆1:「ヒルベルトの第6問題」の部分的解決
一つ目はヒルベルトの第6問題に関連する、気体分子の挙動を記述する方程式の接続に関する証明です。ヒルベルトの第6問題とは、「本来帰納的に導かれる物理学の法則を数学のように公理から導出できるか」という問いです。例えば、物理学者は気体の挙動を、ミクロな視点ではニュートンの運動法則、中間的な視点ではボルツマン方程式、マクロな視点ではナヴィエ・ストークス方程式を用いてモデル化します。しかし、3つの方程式は同じ気体の状態を説明するための式でありながら、それぞれの前提が異なるため、1つの理論といて統一されているわけではありません。


2025年3月、数学者のユー・デン氏、ザハー・ハニ氏、シャオ・マ氏が、ニュートンの運動法則から、ボルツマン方程式やナヴィエ・ストークス方程式を数学的に導出することに成功しました。つまり、ニュートンの運動法則を公理として、そこから演繹的にボルツマン方程式やナヴィエ・ストークス方程式へ至ることに成功したというわけです。

125年越しに解決したかもしれない「ヒルベルトの第6問題」とは? - GIGAZINE


ただし、量子論や一般相対性理論など、現代物理学の基盤となっている理論についてはまだ未知の量子重力理論が必要であるとされており、あくまでも部分的解決であるという点には注意が必要です。

◆2:ハイパーボリック(双曲的)曲面の幾何学に関する研究
ハイパーボリック曲面とは馬の鞍のような形をした、負の曲率を持つ図形のことです。この曲面上の情報の伝わりやすさや接続性の良さを表す数値が「スペクトルギャップ」と呼ばれる数値で、このスペクトルギャップが大きいほど、曲面上のどこからでも他の場所へ効率よく移動できることを意味します。


数学者の間では、ランダムに選ばれた曲面が、理論上の限界値である1/4以上という高い接続性を持つかどうかが長年の議論の的となっていました。


2017年に急逝した数学者のマリアム・ミルザハニ氏は、Weil-Petersson測度という手法を用いて、ランダムに選ばれた双曲曲面の性質を調べる基盤を築きました。ナリニ・アナンタラマン氏とローラ・モンク氏は、ミルザハニ氏の研究にフリードマン・ラマヌジャン関数という新しい道具を導入したのがポイント。両氏は、曲面の複雑さを表す種数gが非常に大きい場合、ほとんどすべてのハイパーボリック曲面においてスペクトルギャップが1/4以上になることを証明しました。


この証明の鍵となったのは、複雑に絡み合った測地線を持つ特殊な曲面を、計算の結果に影響を与えない例外として除外するフィルタリング技術です。これにより、ランダムな曲面の大部分が、理想的なネットワーク構造を持っていることが数学的に確定したとのこと。

この研究成果は、幾何学の枠を超えて物理学の分野にも大きな影響を与えます。例えば、量子力学において粒子が不規則に運動する量子カオスという現象を解明する上で、スペクトルギャップの理論は不可欠です。また、この理論は効率的な通信ネットワークの設計など、実社会におけるインフラストラクチャの最適化にも応用できる可能性を秘めています。


◆3:掛谷予想の3次元における証明
掛谷予想は、1917年に数学者の掛谷宗一氏が提唱した「長さ1の線分を1回転させるために必要な領域の最小値はどれだけか」という問題に端を発しています。


この問題については、ロシアの数学者であるアブラム・ベシコヴィッチ氏によって、「面積自体はいくらでも小さくできる」ことが以前から証明されており、現代数学では「その領域がどれほど複雑に空間を占有しているか」という次元の性質に注目が集まっています。3次元空間における掛谷予想とは、あらゆる方向に長さ1の線分を含む集合(掛谷集合)の次元は必ず3にならなければならないという主張です。


2025年、ホン・ワン氏とジョシュア・ザール氏は、最新の解析手法を用いてこの3次元の予想を完全に証明しました。彼らが用いたマルチスケール解析という手法は、針を半径δの細いチューブとして捉え、顕微鏡の倍率を変えるようにミクロからマクロまで段階的に観察するものです。彼らは、多数のチューブが空間内で特定の場所に過度に密集しない「非クラスタリング」という性質を厳密に証明しました。これにより、異なるスケール間で情報を引き継ぐ際に生じる情報のぼやけを制御し、掛谷集合が空間を3次元的に埋め尽くしていることが示されました。


この証明は、調和解析や偏微分方程式といった、現代数学や物理学の屋台骨を支える分野に貢献するとのこと。例えば電波などの信号がどのように空間を伝わり重なり合うかといった現象を正確に記述する計算モデルの向上に寄与します。長年、多くの数学者が挑んできた難問が3次元において決着を見たことで、さらなる高次元への挑戦や、新しい解析手法の発展が期待されています。

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in 動画,   サイエンス, Posted by log1i_yk

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