サイエンス

32歳で没したインドの天才数学者ラマヌジャンの研究結果は現代でもなおさまざまな分野で応用されている

by Oregon State University

インドの数学者、シュリニヴァーサ・ラマヌジャンは、32年という短い生涯の中で3900以上の恒等式や方程式をまとめており、「インドの魔術師」の異名を取ったことで知られています。ラマヌジャンの数多くの数学的発見は、当時の数学界を驚かせただけでなく現代の数学者にも依然として大きな影響を与えています。

Srinivasa Ramanujan Was a Genius. Math Is Still Catching Up. | Quanta Magazine
https://www.quantamagazine.org/srinivasa-ramanujan-was-a-genius-math-is-still-catching-up-20241021/


1887年に南インドのタミル・ナードゥ州タンジャーヴール県クンバコナムで極貧のバラモン階級の家庭に産まれたラマヌジャンは、その貧しさから幼少期に正式な教育を受けることができませんでした。しかし、15歳の時に「純粋数学要覧」という数学の公式集に出会ったことでラマヌジャンの人生は大きな転換点を迎えます。

「純粋数学要覧」を元にさまざまな種類の数値特性やパターンについて独学で研究したラマヌジャンは、1904年に地元のガバメント・アーツ・カレッジから全額奨学金が授与され入学するも、数学以外のすべての科目で落第し、1年以内に自主退学しています。

その後も独学で研究を進めたラマヌジャンは数学教師などを務め、1912年にMadras Port Trustで事務員としての仕事を確保。その傍らで数学の研究を続け、その結果の一部をインドのジャーナルで発表しています。また、より権威があり、広く読まれている出版物に掲載されることを望み、一部のイギリス人数学者に向けて自身の研究結果を同封した手紙を送りました。


ケンブリッジ大学の整数論と解析の専門家であるG・H・ハーディはラマヌジャンからの手紙が届いた数学者の1人です。ラマヌジャンは自身が考案した方程式について「神々から授けられたもの」と述べ、多くの場合証明を残しておらず、送られた手紙にも証明は同封されていませんでした。しかし、ラマヌジャンの研究を高く評価したハーディは、ラマヌジャンとの文通を1年間にわたって続け、最終的にはラマヌジャンをイギリスに招聘(しょうへい)しています。ハーディはラマヌジャンについて「私のこれまでの研究を完全に超えています。これまで同様の研究は見たことがありませんでした」「ほかの数学者には見えない数学の世界にアクセスできた」と高く評価しています。


ラマヌジャンの著名なエピソードとして、ハーディが自身の乗ったタクシーのナンバーが「1729」であることをラマヌジャンに伝えた際、ラマヌジャンは即座に「2つの正の整数の立方数の和として2通りに表される最小の正の整数」と答えたことが語られています。ラマヌジャンの天才的なひらめきを示すこのエピソードから「1729」はタクシー数と呼ばれています。

4年間に渡ってイギリスでの研究を続けたラマヌジャンは1919年にインドに戻り、1920年に32歳という若さで没しましたが、その短い生涯で数多くの成果を残しています。その一つが複雑な無限和と無限積を結びつける「ロジャース=ラマヌジャン恒等式」と呼ばれる恒等式です。


ロジャース=ラマヌジャン恒等式は現代でも多岐に渡る分野で応用されており、1970年代にオーストラリアの物理学者であるロドニー・バクスター氏は、相転移研究の統計力学的なアプローチとして格子気体模型を解析したところ、ロジャース=ラマヌジャン恒等式が重要な役割を果たすことを発見しました。

また、ラトガース大学の数学者であるジェームズ・レポウスキー氏とロバート・ウィルソン氏は、ロジャース=ラマヌジャン恒等式が表現論でも応用できることを証明。レポウスキー氏らの発見によって「頂点作用素代数」と呼ばれる分野が生まれたほか、ロジャース=ラマヌジャン恒等式は弦理論にも利用され、群論では「モンストラス・ムーンシャイン」の証明にも応用されました。

さらに、「P(Xt+1​∣Xt​​,Xt−1​​,…,X1​​)=P(Xt+1​∣Xt​)」を満たすような確率変数の列を示す「マルコフ連鎖」の研究にもロジャース=ラマヌジャン恒等式が応用できることが証明されており、現代ではさまざまな現象のモデル化にも使用されています。

ラマヌジャンの研究は多項式方程式で定義される曲線や曲面を研究する「代数幾何学」の分野にも影響を与えており、フランスの数学者であるフセイン・ムルタダ氏は、ラマヌジャンの研究を基に「特異点」と呼ばれる曲線の交点や鋭角な点の構造を理解するために利用しました。ムルタダ氏は「ラマヌジャンは、私のような人間には想像できないことを想像できる人です。しかし、数学の新分野の発展は、ラマヌジャンが想像だけで見つけられた研究結果を我々も見つけられる可能性を与えてくれています。だからこそ、数学がとても重要なのです」と語りました。

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
「しかのこのこのここしたんたん」がマルコフ連鎖で現れる確率がどれほど奇跡的なのかがわかる動画 - GIGAZINE

天才数学者ラマヌジャンのように数式を予測して生み出してくれるAI「ラマヌジャン・マシン」が誕生 - GIGAZINE

旧ソ連に数学の天才が多いのは幼少期の「数学サークル」教育の影響か - GIGAZINE

Googleのページランクにも使われているマルコフ連鎖を利用して文章を要約、もしくは意味不明にする「マルコフ連鎖ジェネレーター」 - GIGAZINE

偏りのあるコインを使ってより厳密に五分五分の確率を判定するにはどうすればいいのか? - GIGAZINE

数学を解ける言語モデル「Qwen2-Math」が登場、GPT-4o超えの数学性能 - GIGAZINE

in サイエンス, Posted by log1r_ut

You can read the machine translated English article here.