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インターネットの「無限の複製」能力を封じる可能性を秘めたコピー不可能なデジタルデータ「NFT」とは?

by beeple

非代替性トークン(NFT)」は、元は暗号通貨関連の用語であり、読んで字のごとく代替不可能なトークンを指します。このNFTの特性を利用し、アート作品や映像データを「コピー不可能なデジタル作品」として取引することが注目を集めています。そんなNFTは一体どこからやってきたのか、そして既存のNFTコンテンツが抱える問題点とは何なのか、暗号通貨関連メディアのDecryptがまとめています。

The NFT Craze Offers Easy Money—And Hard Copyright Questions - Decrypt
https://decrypt.co/60394/nft-craze-easy-money-hard-copyright-questions

デジタルコンテンツをNFTとして販売することが近年大きな注目を集めており、「2021年を象徴する単語を選ぶなら、『NFT』が選出されるでしょう」とDecryptは記しています。実際、2021年3月11日にはアーティストのbeeple氏が作成したNFTアートが、6934万6250ドル(約75億円)というNFTコンテンツとしては史上最高額で落札されました。

1枚のNFTアートが史上最高額の75億円で落札される - GIGAZINE

by beeple

デジタルデータをNFT形式で最初に販売したのはDapperLabsという企業。同社が2017年に「CryptoKitties」と呼ばれるネコのイラストを販売し始めたところから、デジタルデータをNFT形式で販売するという行為が普及していきます。CryptoKittiesの中には数百万円で売られたものもあるそうですが、2021年時点のNFTコンテンツの流行っぷりと比べれば、当時はまだまだ小さなトレンドに過ぎなかったそうです。


2021年時点で販売されているNFTコンテンツには、デジタルデータに変換できるほぼすべてのものが含まれています。


例えば、アメリカのロックバンドであるKings Of Leonは2021年3月5日にニューアルバム「When You See Your Self」をNFT形式でリリース。発売から5日間で200万ドル(約2億2000万円)を超える売上を記録したと報じられています

「When You See Your Self」に収録されている楽曲のひとつが以下から視聴可能です。

Kings Of Leon - When You See Yourself, Are You Far Away (Audio) - YouTube


他にも、プロバスケットボールリーグの最高峰であるNBAが、試合のハイライト映像をNFT形式で販売する「NBAトップショット」が人気を博しています。「NBAトップショット」はNFTコンテンツの中でも最も勢いのあるもののひとつで、過去1カ月間での取引高は2億5000万ドル(約270億円)にも上ると報じられています。

ブロックチェーン利用「NBAトップショット」で稼ぐクジラたち - WSJ
https://jp.wsj.com/articles/the-whales-of-nba-top-shot-made-a-fortune-buying-lebron-highlights-11615527050


さらに、イギリスを拠点に活動する匿名アーティストのバンクシーが、自身のアート作品「Morons(能なし)」を燃やし、元データをNFTとしてオークションで販売しました。「Morons」には「I can't believe you morons actually buy this shit(こんなクソな作品を買うお前らのようなバカのことはわからない)」と書かれているのですが、オークションでは3万2500ドル(約3500万円)で作品が落札されています。


NFTコンテンツが流行していることは明らかですが、結局インターネット上で公開されているデータであるため、基本的な知識を持っている人ならば、合法か否かにかかわらず、簡単にデータをコピーすることができてしまいます。また、ツイートやムービーはウェブサイト上に埋め込むこともできるため、「なぜそんなデータを所有するために金銭を支払う必要があるの?」と思う人もいるはずです。

実際にNFTコンテンツを購入した場合、インターネット上にあふれているコピーデータと同じもののように見えるデータを入手することができます。しかし、このオリジナルデータには固有の所有権証明書が付属しています。この証明書はブロックチェーンに刻印されているため、改ざんすることができず、誰の所有物であるかが常に記されている点が特徴で、いわばデータに「シリアル番号」が刻印されているようなものです。

NFTコンテンツの特徴について、Decryptは「これは有名アーティストのサイン入りオリジナル作品が数億円の価値を持つのと同じように、NFTコンテンツも『本物』の所有者はただひとりであるということが保証されている点が重要となります。インターネット上に無数のコピーデータが存在しているとしても、作者の署名付きのオリジナルデータはNFTコンテンツを購入した人しか持ち合わせていないという点が、NFTコンテンツの価値を上げているわけです」と説明しています。


そして、NFTコンテンツの所有者は、コンテンツの著作権も得ることとなります。そのため、NFTコンテンツの所有者はデータを用いてグッズを製作したり、インターネット上でデータを利用したりすることも可能となります。

ただし、スポーツや音楽分野では、NFTコンテンツの著作権に関する独自の厳格なルールが設定されている点には注意が必要です。例えば、「NBAトップショット」の購入者は、ハイライト映像を変更したり、NBAが嫌悪・不快とみなすような方法でハイライト映像を使用したりすることはできない、と明確にライセンスに記されているとのこと。こうした制限は、NBAの選手の写真を用いた「NBAカード」の場合と比べて厳しいものです。NBAはNFTコンテンツの「NBAトップショット」とNBAカードをたびたび比較するそうですが、Decryptは「NBAカードの場合、所有者はカード上に印刷された選手の写真に口ひげを描いたり、コラージュにカードを使用したりすることができます。しかし、NFTコンテンツの『NBAトップショット』で同じことをすれば、規約に違反してしまう可能性が高いでしょう」と記し、NBAのNFTコンテンツに対する制限は少し過剰になっていると指摘。

NBA Top Shot | Officially Licensed Digital Collectibles


このようにNFTコンテンツの台頭により、インターネット上では著作権の役割についての議論に拍車がかかっています。「NFTはクリエイターとテクノロジープラットフォーム間の長きにわたる緊張を和らげる可能性がある」とNFTに好意的な意見を述べる人もいれば、「NFTが新しいタイプの著作権侵害を引き起こしている」と指摘する人もおり、まさに賛否両論です。

ペンシルベニア州立ディキンソン・ロースクールの知的財産の専門家であるTonya Evans氏は、近年呈するNFTコンテンツについて研究する人物です。同氏は「NFTはクリエイターがファンとつながり、ファンからお金を稼ぐための重要な新しい方法となる」と信じているとのこと。Evans氏によると、NFTブームの最前線にいるのはClubhouseのようなプラットフォームで自身の作品を売り込み、販売している黒人アーティストだそうです。そして、NFTがインターネットの有する「無限の複製能力」を打ち消す対抗策となり、アーティストがデジタル作品をリリースすることをサポートしてくれると主張しています。

Evans氏は「インターネットの普及は音楽業界を脅かし、誰もがオリジナルの完璧なデジタルデータをコピーできるようにしてしまいました。しかし、そういったいびつな状態をNFTにより正すことができるかもしれません」と語りました。


NFTという新しいデータの形を用いることでお金を稼いでいるのは、beepleやKings Of Leonのような著名アーティストだけではありません。Nifty GatewayOpenSeaといったプラットフォーム上では、名も知れぬアーティストたちがNFTコンテンツを販売して生計を立てています。

しかし、NFTコンテンツの流行に目を付け、金もうけをたくらむ人もいます。アーティストの@WeirdUndeadさんは、自身の作品がいつの間にかNFTコンテンツとして販売されていたことを知り、Twitter上で抗議しています。


他にも、暗号通貨業界で強い影響力を持つCoinSharesのMeltem Demirors氏やCoinCenterのNeeraj Agrawal氏らは、自身のツイートがNFTコンテンツとして販売されていることに不快感を示しています。


他人のコンテンツやツイートを勝手にNFTコンテンツ化して販売するという行為も、NFTを取り巻く新たな著作権侵害問題のひとつであるとDecryptは指摘。また、NFTの根幹にあるブロックチェーンの性質上、アーティストが著作権を侵害するユーザーを見つけて訴えることは非常に難しいというのも問題として挙げられています。

このようにNFTコンテンツを扱う上での問題点も挙げられているわけですが、前述の通りNFTがアーティストにとっての新しい収入源となるという良い影響が問題点を上回ると楽観視する人も多くいるとのこと。

インターネットはアーティストや作家を含むさまざまなクリエイターにとって多くの祝福をもたらしてきましたが、コンテンツを無断でコピー・配布する海賊版の登場により、音楽業界や映像業界は大きな打撃を受けています。また、Spotifyのようなストリーミングサービスはデジタルコンテンツのクリエイター側に十分な収益を支払うことができていないという指摘もあります。

20年にわたりエンターテインメント業界は「ハイテク愛好家たちが著作権侵害を助長している」とインターネット支持者たちを批判し、それに対してインターネットの支持者たちは「過激すぎる著作権法を見直すべき」と著作権法の見直しを求めてきました。

そのため、現状のコンテンツクリエイターの収益構造を一変させる可能性のあるNFTには強い期待がかかっています。ベンジャミン・N・カードーゾ・ロースクールのブロックチェーン専門家であるAaron Wright氏は、NFTの台頭がデジタルコンテンツにまつわる著作権論争を収束させることにつながる可能性があると指摘。さらに、NFTはアーティストがインターネット上で希少かつユニークな作品を販売する方法となり、その特性上、転売などの問題も気にする必要がなくなる可能性があります。

また、インターネットユーザーがFacebookのような巨大なプラットフォームに飽き飽きしており、Clubhouseのようなコミュニティでクリエイターとファンがより親密につながるようになってきている点を指摘し、こういった流れはNFTコンテンツでお金を稼ぐには好機であるとDecryptは記しています。

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in メモ,   動画, Posted by logu_ii

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