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Intelの先進研究機関「Intel Labs」がどのような問題に取り組んでいるのかを中の人が解説


Intelはプロセッサなどの製品を開発・製造する事業部とは別に、量子コンピュータやニューロモーフィックコンピューティングシリコンフォトニクスなどの最先端分野に関して先駆的な研究を行う部門「Intel Labs」を抱えています。そんなIntel Labsがどのような研究に取り組んでいるのかといったさまざまな質問について、Intel Labsを率いるリチャード・ウーリッヒ博士が答えています。


The Intel Moonshot Division: An Interview with Dr. Richard Uhlig of Intel Labs
https://www.anandtech.com/show/16515/the-intel-moonshot-division-an-interview-with-dr-richard-uhlig-of-intel-labs

IntelはCoreプロセッサファミリーで知られる半導体企業ですが、半導体だけでなく量子コンピューティングなどの先駆的分野に関する研究も行っています。通例では企業が行う研究は「1~3年で製品化にこぎ着ける」ということを前提にしていますが、10~20年先を見据えた長いスパンの研究を行う企業もあります。Intelの場合、長期的な研究を専門的に手がける研究機関が「Intel Labs」です。

IT系ニュースサイトのAnandTechが行ったのは、Intel Labsを率いるリチャード・ウーリッヒ博士のインタビューです。ウーリッヒ博士は2013年から2018年にかけてIntel Labsのシステムおよびソフトウェアリサーチチームを率いて、仮想化技術やクラウドコンピューティングシステム、ソフトウェア定義ネットワーク、ビッグデータ分析、機械学習、人工知能などの広範な研究を主導した人物です。


AnandTechがまずぶつけたのは、「Intel LabsはGoogleの秘密研究機関Google Xのように次世代のイノベーションを見つける研究機関だと解されていますが、実際はどういった部署なのでしょうか?」という質問。ウーリッヒ博士は「おっしゃるとおり、我々が行っているのはIntelの未来を探求し、将来のビジネスのあり方を一変させるような破壊的テクノロジーを追い求めています」と回答。研究範囲としては「回路に関係するものの全て」と答えました。

ウーリッヒ博士によると、Intelは独自のプロセッサ開発部署を有しており、Intel Labsもプロセッサのプロトタイプを作成したりファブリケーション施設を利用したりしているものの、大半の研究はプロセッサとは無関係とのこと。Intel Labsは主にソフトウェアに関する新たなイノベーションや、システムを構成方法や構成要素のレベルから組み替えるという試みを手がけているそうです。

「予算、従業員数、オフィスなど、Intel Labsの規模はどの程度でしょうか?」という質問に対しては、「Intel Labsが手がける研究分野の博士号を持つ研究者がおよそ700人。オレゴン州とカリフォルニア州西海岸に研究拠点を有していますが、インド・中国・ドイツ・イスラエル・メキシコにも研究室を持っています。さらに社内研究だけでなく世界の一流大学の研究者とも密接に直接連携をとっています」と回答しました。


Intel Labsは2020年12月に独自イベント「Intel Labs Day」を主催しており、その中で「統合フォトニクス」「ニューロモーフィックコンピューティング」「量子コンピューティング」「連合学習に関するセキュリティ」「機械プログラミング」という同研究所の主要5分野に関する講演を行いました。これに対し、AnandTechは「この主要5分野以外にも世界にアピールしたい研究分野はありますか?」と質問。ウーリッヒ博士は「イベントで講演を行ったのは我々が研究している全てではないというのは事実です。我々が研究しているのは主に新しいコンピューティングモデルであり、ニューロモーフィックコンピューティングや量子コンピューティングなどはその一例です。一方、近年はディープニューラルネットワークなどのAIアルゴリズムのエネルギー効率改善に業界の注目が集まっているため、我々もAIアルゴリズムの作業負荷を改善する研究も行っています。そのほかにも、ストレージやメモリに関する先進技術や新型センシングテクノロジー、接続性テクノロジー、シリコンフォトニクス、ワイヤレス技術、ミリ波通信、5Gと5G以降の無線通信システムにも多額の投資を行っています。また、システムのプログラムを効率化する手法や、システムの設計手法の改善に関しても力を入れています」と回答しました。

AnandTechはIntelがAppleにモデム事業を売却した一件に触れて、「モデム事業を売却したのにもかかわらずミリ波通信技術に取り組んでいるのでしょうか?」と質問。これに対し、ウーリッヒ博士は「モデムはエンドポイントであり、デバイスに組み込まれるものですが、Intelは『5Gインフラストラクチャの構築』に賭けています。ですので、ミリ波通信だけでなく無線アクセスネットワークやネットワークインフラストラクチャコアなどの構築に必要な全てを検討しています」と述べました。

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「Intel Labsのソフトウェア研究とハードウェア研究の比率は?」という質問に対して、ウーリッヒ博士は「ハードウェアの研究にはソフトウェアの研究が必須なので、ソフトウェアが3分の2、ハードウェアが3分の1という比率でしょうね」と回答。ただし、「ソフトウェアやハードウェアで区分するのではなく、我々はそれらをひっくるめて『システム』を研究していると考えています」と答えています。また、「常に非公開とされる研究はありますか?」という質問については、「一流の場で発表することで自分自身を試せると考えているため、基本的にはほとんどの研究を発表しています。ただし、製品化に際して秘めておきたい場合は例外です」と回答しました。

Intel Labs発の技術の中で最も普及している技術は「USB」と「Thunderbolt」とされています。ウーリッヒ博士はこうしたIntel Labsの成功例に触れて、「Thunderboltは『さまざまなIOコネクタタイプを全て統合し、1つのコネクタ内にまとめ、複数のプロトコルを同一的に扱えるようにすべき』というビジョンのもとで開発されたものです。私が個人的に手がけた成功例としては、仮想化技術です。私はIntel Labsに技術者として15年間籍を置いていましたが、仮想化技術に関するごく初期の提案と、仮想化を容易にするためのプロセッサとプラットフォームに関する研究を行っていました。こうして生まれたのがインテル バーチャライゼーション・テクノロジーですよ」とコメント。対照的に「行き詰まったプロジェクト」については、「環境からエネルギーを収集することで充電不要で扱えるデバイスについては実験には成功したものの製品化が難しかったため、Intel LabsもIntel自体も手放したアイデアです」と語りました。


シリコン基板上に発光素子や受光器、光変調器といった素子を集積する技術であるシリコンフォトニクスについては、Intel Labs傘下から離れた技術であるものの、Intel Labsも開発を継続しているとのこと。Intel Labsが手がけているのは主に「シリコンフォトニクスをパッケージに統合する方法」であり、イノベーションをプロトタイプによって証明後、製品部門と緊密に協力して製品化を目指す予定だと語りました。

こうしたIntel Labsの取り組みについて、ウーリッヒ博士は「今後もIntel Labs Dayを毎年開催し、社外に取り組みを公表することに力を入れる予定です」とコメント。今後のイベントに期待してくださいと締めくくっています。

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in ソフトウェア,   ハードウェア, Posted by darkhorse_log

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