長期にわたる宇宙飛行は人の免疫を低下させてウイルス感染症を引き起こす可能性
アメリカ航空宇宙局(NASA)は、月に再び人類を送り出すアルテミス計画や火星への有人探査などを計画しています。しかし、数カ月あるいは数年という長い年月にわたって宇宙での任務に携わる中で、宇宙飛行士の免疫力が低下し、ウイルスへの日和見感染を起こす可能性が指摘されています。
Frontiers | Herpes Virus Reactivation in Astronauts During Spaceflight and Its Application on Earth | Microbiology
https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fmicb.2019.00016/full
Dormant viruses activate during spaceflight: The stress of spaceflight gives viruses a holiday from immune surveillance, putting future deep-space missions in jeopardy -- ScienceDaily
https://www.sciencedaily.com/releases/2019/03/190316162211.htm
宇宙で長期間の任務に携わる宇宙飛行士へのウイルスの影響を調査するため、NASAはスペースシャトルの搭乗員89人と国際宇宙ステーション(ISS)の搭乗員23人の唾液・血液・尿のサンプルを採取し、分析しました。
その結果、スペースシャトルの搭乗員89人のうち47人、ISSの搭乗員23人のうち14人が宇宙飛行中に提出したサンプルから単純ヘルペスウイルス、エプスタイン・バール・ウイルス、水痘・帯状疱疹ウイルス、サイトメガロウイルスが検出され、各飛行士の宇宙飛行前後でのサンプル、あるいは健康な対照群からのサンプルよりも多かったことがわかりました。さらに研究チームによれば、6人の宇宙飛行士でこれらのウイルスが再活性化し、日和見感染を起こしていたことが発覚しています。
人間には本来免疫が備わっており、病原性の低い常在細菌やウイルスの増殖を抑えています。しかし、何らかの原因で免疫機能が低下してしまうと、この常在細菌やウイルスの増殖を許し、結果として病気を引き起こす「日和見感染」を引き起こす事があります。
これらのウイルスはほとんどの成人が感染しているものですが、免疫機能によって尿や唾液に排出されるほど増殖することはほとんどありません。しかし、免疫機能を抑制することで知られるコルチゾールやアドレナリンなどのストレスホルモンの分泌が宇宙飛行中に増加した結果、宇宙飛行士の免疫機能が低下し、ヘルペスウイルスの再活性化が認められたと研究チームは報告しています。
by NASA Johnson
スペースシャトルの搭乗員は2週間前後、ISSの搭乗員は6カ月以上にわたって宇宙での任務に就くことになりますが、NASAが目指している火星の有人探査は年単位での任務が強いられます。NASAの研究チームは「ウイルス増殖の規模・頻度は宇宙飛行の長さと共に増加します」と述べ、ウイルスの再活性化が宇宙飛行士にもたらすリスクがもっと高まる可能性を示唆しています。
NASAのジョンソン宇宙センターの研究員であるサティッシュ・メータ氏は「NASAの宇宙飛行士は、微重力や宇宙線に数週間から数カ月にわたってさらされ、離陸時と再突入時には強烈なGを体感します。また、社会的に隔離され、長期にわたって閉鎖的な環境に置かれます」と述べ、宇宙飛行士には通常よりもはるかに大きなストレスがかかると指摘しました。
by NASA Johnson
メータ氏は、「理想的な対策は宇宙飛行士への予防接種ですが、対応するワクチンは水痘ワクチンしか存在しません。他のヘルペスウイルスワクチンの完成はほとんど期待できないので、私たちはウイルスの再活性化に対する治療法の開発に焦点を当てています」と語りました。
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