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Oracleが中国で「民衆の弾圧に使われるデータ分析ツールを販売している」との指摘


アメリカに本拠を置くソフトウェア企業・Oracleは、「Oracle Database」をはじめとするデータベース管理システムでトップシェアを誇る世界第2位のソフトウェア企業です。2020年にはTikTokの買収に成功したとして話題を集めたOracleが、「中国の法執行機関に民衆弾圧に使われるデータ分析ツールを販売している」と、海外のニュースメディア・The Interceptが報じています。

How Oracle Sells Repression in China
https://theintercept.com/2021/02/18/oracle-china-police-surveillance/

The Interceptによると、2018年にOracleのカリフォルニア本社で行われた開発者会議において、中国のOracleエンジニアが「遼寧省の警察が犯罪分析と予測に使用するOracle製品」についてのプレゼンテーションを行ったとのこと。

プレゼンテーションに使われたスライド資料では、遼寧省警察が犯罪捜査に使用するOracle製ソフトウェアについて述べられており、警察が膨大なデータセットに基づいて人物やイベントを追跡し、潜在的な容疑者を特定するのに役立ったとされています。また、スライド中の資料に遼東半島の地図も使用されていることも確認できます。


さらに、Oracleが作成した別のスライド資料にある「Oracleと国防産業」というタイトルのページには、中国の人民解放軍中国兵器装備集団公司中国兵器工業集団といった機関の名前が並んでいます。


The Interceptは、実際に中国の国防産業でOracle製品が使われているかどうかは不明なものの、Oracleのマーケティングにおいて中国の防衛機関がターゲットになっていることは明らかだと指摘。国際人権NGOのヒューマン・ライツ・ウォッチで主任研究員を務めるマヤ・ワン氏は、「Oracleは任意の公安機関とのビジネスを持つべきではありません。これは、中国が監視システムを構築する上で西側諸国が果たした役割について、疑問を投げかけています」と述べました。

Oracleの広報担当者であるジェシカ・ムーア氏はThe Interceptへの声明で、資料はあくまでも「Oracleの製品で何ができるか」を示すものであり、特定機関への販売や実際の使用事例を示すものではないと反論。中国などの公安組織との取引は、Oracleの中核的な価値観や人権に関する(PDFファイル)宣言と矛盾するものであり、Oracleの取引は全て法で規制されている範囲以上に保守的かつ慎重だと主張しています。

その一方で、Oracleの元シニアディレクターであるザビエル・ロペス氏は、2017年に開催されたOracleの年次カンファレンスで、中国警察による「Oracle製品の使用例」について発表したと証言しています。ロペス氏が行ったプレゼンテーションでは、中国の警察署がOracleの分析ソフトウェアを使い、文書・SNS・ウェブコンテンツ・チャット・飛行機の搭乗記録・ホテルの滞在記録といった公開されているデータを基に、容疑者を特定することに成功したと説明したそうです。

ロペス氏によると、プレゼンテーションで説明した中国の警察署が正確にどの都市のものだったかは忘れてしまったものの、行政府から提供されたデータを基にプレゼンテーションを行ったと主張。これに対しムーア氏は、「中国の警察署におけるOracle製品の実装は確認していない」と述べつつも、中国を含めた各国のサードパーティや事業者はOracleのテクノロジーを使って新たな製品を作ることが可能であると認めました。


The Interceptによると、Oracleがデータ分析ツールを提供しているのは中国だけではありません。シカゴ警察やイリノイ州警察などの複数のアメリカ政府機関に加えて、ブラジル・メキシコ・パキスタン・トルコ・アラブ首長国連邦などの法執行機関による人権侵害が懸念される国の警察でもOracle製分析ツールが使用されているとのこと。マーケディング資料では、Oracleのテクノロジーが犯罪捜査や予測に基づいて犯罪を防止する予測的ポリシングに役立つとされているものの、これは市民の権利が守られている国でさえ疑わしい主張だとThe Interceptは指摘。

特に中国のような市民への説明責任が十分ではない国において、警察はビッグデータを使用したあらゆる決定を正当化することが可能です。ヒューマン・ライツ・ウォッチのワン氏は、「一般的に民主主義システムは、差別を受けている人々からの抵抗と反発に応えなければなりません。しかし中国では、警察はいかなる圧力にも答える必要はありません。そのため、システムの不完全な設計がさらに拡張する可能性があります」と述べました。


Oracleのテクノロジーは、従来の警察が所有する犯罪に関するデータと、顔認証などの監視システムから収集したデータ、さらにソーシャルメディアの投稿を含む膨大なデータを照合し、分析することを可能にします。物理的世界とデジタル世界のデータを統合して犯罪捜査に当たることは、「統合ポリシング」という概念で説明されます。

The InterceptはOracle製品による統合ポリシングを強く推進した人物として、2010~2016年にOracleで働いていた元シンガポール警察官・Hong-Eng Koh氏を挙げています。Koh氏は中国・ブラジル・アラブ首長国連邦といった法執行機関による人権侵害が懸念される国々で、警察向けソリューションの導入に成功したとLinkedInに投稿していたそうです。なお、Koh氏は2014年ごろから2年間にわたり中国で活動した後、2016年にOracleを離れており、記事作成時点ではHuaweiで勤務しているとのこと。

以下の写真で中心に映っているのがKoh氏。その左右に立っているのは、Koh氏がOracle製品を売り込んだというリオ・デ・ジャネイロの警察関係者です。


世界中の警察との契約はKoh氏がOracleを離れた後も続き、2011~2019年にかけて、イスラム教徒への迫害が問題視されている中国・新疆ウイグル自治区の警察や公安当局とも取引を行っていたとThe Interceptは指摘しています。Oracleの広報担当者のムーア氏も、新疆ウイグル自治区の当局と取引を行っていたと認めましたが、2019年にアメリカが制裁を科した後は取引を行っていないと述べています。

これに対してThe Interceptは、Oracleが新疆ウイグル自治区の警察との取引を終了する少なくとも1年前から、新疆ウイグル自治区におけるウイグル族の迫害が世界的に問題視されていたと反論。Oracleは新疆ウイグル自治区の問題を認識していながら、アメリカ政府による制裁が科されるまで警察との取引を続けていたと非難しました。

また、Oracleが中国当局に製品を販売することの問題点は人権侵害の疑いにとどまらず、国家安全保障の問題にもなりかねないとThe Interceptは指摘。その実例として、Oracleが1970年代にCIAのデータベースを構築して以来、アメリカ政府と緊密に連携している点を挙げました。

テクノロジー企業が軍事機関や法執行機関に与える影響を調査する非営利団体・Tech Inquiryのエグゼクティブディレクターを務めるジャック・ポールソン氏は、「Oracleの幹部がアメリカの国家安全保障政策を決定すると同時に、中国の警察に諜報目的の技術を提供している点が懸念されます」と述べました。

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in ソフトウェア, Posted by log1h_ik

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