古代ギリシアのアテナイでは「税金の支払い」が名誉であり納税者は自慢していた
by chialinshih
現代では多くの人々が税金の支払いを嫌がっており、富裕層や大企業がタックスヘイブンを利用して税金逃れをする事例も後を絶ちません。ところが、古代ギリシアの都市国家として栄えたアテナイでは非常に裕福な人だけが支払う直接税が存在し、納税者のほとんどが税金として支払った金額を自慢していたと、ホーリークロス大学のトーマス・マーティン教授が解説しています。
Only the richest ancient Athenians paid taxes – and they bragged about it
https://theconversation.com/only-the-richest-ancient-athenians-paid-taxes-and-they-bragged-about-it-147249
紀元前4~5世紀のアテナイには自由な市民や奴隷を含めて30万人以上の人々が住んでおり、国際貿易によって大きく繁栄していました。そんなアテナイでは都市国家を維持するため、国防組織を支援したり飲料用の噴水などを設置したりする資金が必要でした。
都市国家運営に用いられる資金は事業者に貸し出された公有農地や銀山の収入に加え、貿易品の輸出入に対する課税、移民や売春婦からの金銭徴収、訴訟の敗者に科せられた罰金などでまかなわれました。これに対し、一般的に収入や富に対する直接税は導入されていなかったとのこと。
アテナイが大きく成長するにつれて海軍も増強され、三段櫂船という当時最先端の軍船を数百隻も抱えるようになりました。三段櫂船は建造や装備に加えて大勢のこぎ手を維持するためにばく大な費用が必要であり、この資金を提供したのがアテナイの金融エリートたちだったとマーティン教授は述べています。
by Dimitris Kamaras
アテナイを含めた古代ギリシアにはレイトゥルギアという公共奉仕のシステムが存在し、トップ1%の富裕層が特別な公共事業に私財を支出してサポートしていたとのこと。
三段櫂船の造船や装備を調えるための資金もレイトゥルギアから供出されており、指名された富裕層は三段櫂船の司令官となり、運用コストを1年間にわたり負担して乗組員をミッションに導きました。もちろん三段櫂船の運用コストは安くありませんでしたが、富裕層のほとんどはこの義務を受け入れたそうです。
富裕層は三段櫂船に限らず国防のさまざまな面で責任を負っており、アテナイが戦争している間は富裕層が「eisphorai」と呼ばれる資金を兵士に与えていたとのこと。これらの義務を負うかどうかは各人の財産に基づいて決定されていたため、ある意味で富裕層に対する直接税として機能していたとマーティン教授は指摘しています。
また、アテナイの人々は都市を守るために直接的な軍事力を増強するだけでなく、「神々の好意」を得るために精巧な寺院を建立し、大きな祭りも実行しました。こういった事業にも富裕層の資金が用いられており、祭りにおける演劇上演の合唱隊で「リーダー」を務めた富裕層は、パフォーマーのトレーニングや衣装代、生活費を負担したそうです。
現代のアメリカでは支払われるべき税金のうち6ドル(約630円)に1ドル(約105円)が支払われていないと推定されており、大企業や富裕層は支払う税金を最小限にとどめるためにさまざまな税金対策を行います。しかし、アテナイ人はこうした税金逃れを嘲笑しただろうとマーティン教授は指摘。
アテナイの富裕層は税金を納めることを誇っており、「三段櫂船や合唱団の費用を必要以上に多く支払った」ことを公の場で自慢していたとのこと。もちろん、中には「自分より多い財産を持つ者が税を負担するべきだ」と主張して支払いを逃れようとする人もいたそうですが、税金逃れを試みるのは多数派ではありませんでした。
富裕層が納税にプライドを持っていた理由について、マーティン教授は「富裕層は税金の支払いが示すコミュニティへの投資から、公の尊敬を集めて高い利益を得ることを期待していました」と述べています。アテナイの市民は納税による貢献を高く評価していたため、「たくさん納税した」という事実によって築かれる社会資本は貴重だった模様。一方、納税を逃れようとした人は嘲笑され、貪欲な人間だとのレッテルを貼られたとのこと。
税金の支払いによって富裕層が得た社会的報酬はかなり長続きしたそうで、コンテストで勝利した合唱団に資金を与えた富裕層は自身の功績をたたえ、目立つところに記念碑を建設しました。記事作成時点でも、リュシクラテス記念碑と呼ばれる記念碑が現存しています。
by Andrew Barclay
マーティン教授は、アテナイの富裕層が「有用で善良な市民」として認められ、社会的な成功を得ることを望んで積極的に税金を支払ったと主張。「善良かつ有用な富裕層の納税者として市民から見なされることは、銀行のお金よりも重要なことでした。こうして提供されたかけがえのない公共サービスは、何世紀にもわたって民主主義を持続させ、全てのアテナイ人に利益をもたらしました」と、マーティン教授は述べました。
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