サイエンス

「新型コロナウイルスワクチンが完成しても完全に元の生活に戻るにはかなり時間がかかる」という報告


2019年末に中国・武漢で発生し、瞬く間に世界中に感染拡大した新型コロナウイルスは、記事作成時点でも猛威を振るっています。少しでも感染拡大を食い止めるため、世界中で多くの科学者や製薬会社が新型コロナウイルスワクチンを開発していますが、「ワクチンが完成しても、2021年春までに元の生活に完全に戻るのは難しい」という報告書が発表されました。

SARS-CoV-2 Vaccine Development & Implementation; Scenarios, Options, Key Decisions
https://rs-delve.github.io/reports/2020/10/01/covid19-vaccination-report.html


Covid-19 vaccine alone won't defeat spread of virus, report warns | Coronavirus outbreak | The Guardian
https://www.theguardian.com/world/2020/oct/01/covid-19-vaccine-alone-wont-defeat-spread-of-virus-report-warns

世界中で多くの研究チームが新型コロナウイルスワクチンの開発に取り組んでおり、記事作成時点では11チームが第III相試験(フェーズIII)の段階まで治験を進めています。2020年9月時点における厚生労働省の(PDFファイル)資料によれば、日本国内では主に5つのワクチン開発プロジェクトが動いており、進捗が最も早いものはすでに第I相・第II相試験を開始しているとのこと。


ワクチンを接種すれば、ウイルスに完全に感染しないというわけではないものの、感染の可能性と病気の重症度の両方を軽減できます。そのため、ワクチンを接種することは集団免疫上、非常に重要といえます。しかし、イギリス王立協会のDELVE(ウイルス性伝染病の評価と学習)イニシアチブは「ワクチンがたとえ効果的であっても、2021年3月までに日常生活が完全に正常に戻る可能性はほとんどありません」と警告する報告書を発表しました。

インペリアル・カレッジ・ロンドンの化学工学科長であるニレイ・シャア教授によれば、ワクチンを2021年3月に利用できるようにする場合、ワクチンの治験結果がはっきりと確定する前に生産ラインを動かす必要があるとのこと。ワクチンの1次生産が終わって配備可能になった段階で、規制プロセスに合格して承認を得られるかどうかが重要です。

シャア教授は「もし生産と承認の問題を乗り越えて、2021年3月にワクチン接種が始まったとしても、最初に優先的に接種を行うべき集団に接種し、その後他の集団に接種を行うまで、最大で1年かかります」と述べ、感染対策はどうしても段階的に行う必要があるとしています。

また、新型コロナウイルスワクチンの開発が完了しても、しばらくは供給が限られてしまうため、「コミュニティの中でワクチン接種を優先するべきなのは誰なのか」というのが潜在的な問題となります。たとえば、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の重症化リスクが高いとされる高齢者は優先的にワクチンを接種するべきだといえますが、新型コロナウイルスワクチンの効果が薄い可能性を示唆する研究結果もあるため、ワクチンの効果を最大限に発揮するためにどの集団を優先するべきなのかは非常に難しい問題となります。


さらに、シャア教授は、「新型コロナウイルスワクチンを世界中の人々に接種するには、季節性インフルエンザの予防接種と比べておよそ10倍のペースで接種する必要があります」と報告。ワクチンや容器の材料、ワクチンを適切に保存できる設備や、接種に携わる人的資源の問題も指摘しています。

加えて、ウイルス免疫学者であるザニア・スタマタキ博士は「最初の新型コロナウイルスワクチンが発表されるまでに、私たちはワクチン接種を取り巻く作り話を払拭し、個人や家族を安心させるために最善を尽くす必要があります」と述べ、ワクチンに対する国民の信頼もワクチン接種のハードルになり得ると推測しています。

インペリアル・カレッジ・ロンドンの免疫学科長であるチャールズ・バンガム教授は「新型コロナウイルスに対して効果的なワクチンがいつ利用可能になるのか、どういった効果があるのか、そしてこれは重要なことですが、どれくらいすぐに提供できるようになるのかが不明です。たとえワクチンが効果的でも、2021年3月までに生活が完全に元に戻る可能性は低いといえます」と論じました。


なお、DELVEイニシアチブによる報告書に対して、イギリス保健省は「この報告書は、安全で効果的な新型コロナウイルスワクチンを迅速に展開するための、政府全体で行われた膨大な量の計画と準備を考慮していません」「私たちは新型コロナウイルスワクチンをできるだけ早く全国に展開するための適切な知識を持っていると確信しています」と反論しています。

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in サイエンス, Posted by log1i_yk

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