サイエンス

新型コロナウイルスパンデミックの収束にはどのレベルの「有効性」を持つワクチンが必要なのか?


世界規模の流行が続いている新型コロナウイルス感染症(COVID-19)について、世界の製薬会社や研究機関が感染を食い止める「ワクチン」の開発を急いでいます。しかし、仮にワクチンが開発されたとしても、そのワクチンでCOVID-19のパンデミックが収まるかどうかは「ワクチンの有効性」にかかっていると、ニューヨーク市立大学公衆衛生学部のブルース・Y・リー教授が解説しています。

Vaccine Efficacy Needed for a COVID-19 Coronavirus Vaccine to Prevent or Stop an Epidemic as the Sole Intervention - American Journal of Preventive Medicine
https://www.ajpmonline.org/article/S0749-3797(20)30284-1/fulltext

How effective does a COVID-19 coronavirus vaccine need to be to stop the pandemic? A new study has answers
https://theconversation.com/how-effective-does-a-covid-19-coronavirus-vaccine-need-to-be-to-stop-the-pandemic-a-new-study-has-answers-142468

麻疹(はしか)ワクチンによる発症予防効果は初回投与で85%、2回目の投与で95%とされており、「100%の予防効果」を得ることはできません。インフルエンザワクチンに至っては発症予防効果は小児で25~60%、成人で50~60%とされており、「接種しても感染しなくなる」とはとても言えない状況です。

この数値が示す通り、感染症の流行を本当に抑えるためには、ワクチンを開発するだけではなく「開発されたワクチンの有効性」も重要だといえます。リー教授は、「efficacy」と「effectiveness」という2つの単語を挙げて、ワクチンの有効性について解説しました。


「efficacy」と「effectiveness」は日本語に訳せばどちらも「有効性」となりますが、薬剤疫学においては異なる概念を意味します。通常、新薬はその効果をできるだけ純粋に引き出すために、合併症や合併疾患を持つ患者や、肝臓・腎臓の能力が低い高齢者・小児を除いた被験者に投与されて結果を測定します。そして、この整えられた理想の環境におけるワクチンの有効性が、「efficacy」と表記されます。一方で、「effectiveness」は現実環境におけるワクチンの有効性を指します。

アメリカのバイオテクノロジー企業Modernaが開発した「mRNA-1273」や、オックスフォード大学が開発した「ChAdOx1 nCoV-19」は「COVID-19に対する免疫獲得率100%」と報じられていますが、これはあくまで試験環境における結果であり、「efficacy」に分類されます。通常は現実環境の有効性は試験環境の有効性よりも低くなる傾向があるため、試験環境で「免疫獲得率100%」とされたとしても、開発されたワクチンが現実環境でどれくらいの有効性を示すかは、実際に使ってみなければわからないというのがリー教授の主張です。

コロナウイルスに対する抗体を生み出すワクチンをオックスフォード大学が開発、免疫獲得率100%で深刻な副作用も見られず - GIGAZINE


リー教授が率いるニューヨーク市立大学公衆衛生学部の研究チームはベイラー医科大学の研究チームと協力して、アメリカ全土のCOVID-19の流行状況をシミュレートするプログラムを作成。考えられるさまざまなシナリオを初期条件として入力し、「ワクチンを配布したら流行状況はどのように変化するのか」というシミュレーションを行いました。

ワクチンを配布した場合の流行状況は、ワクチンの「effectiveness」と「接種率」に応じて変化します。以下はパンデミック初期の「全人口の0%が感染者」というシナリオにおけるグラフで、ワクチン接種率に応じてそれぞれのグラフが分けられています。横軸はワクチンのeffectiveness、縦軸はCOVID-19の流行減少率を示しています。


パンデミック初期において流行を押さえ込むには、ワクチン接種率100%ならば60%のeffectivenessが、接種率75%ならば70%のeffectivenessが、接種率60%ならば80%のeffectivenessが必要とのこと。リー教授は年齢や健康問題が原因でワクチンを接種できない人々や自身の主義からワクチンを接種しないワクチン反対派を挙げて、「100%の接種率は不可能だろう」と述べています。

また、「全人口の5%が感染者」というシナリオのグラフが以下。アメリカでは全人口のおよそ1%が感染したことが確認されましたが、保健当局は実際の割合は1%よりはるかに高いと推定しています。このシナリオでは、最大でも流行減少率が85%までしか届きません。


これらのシミュレーション結果を踏まえた上でリー氏は、「effectivenessが60%のワクチンならば接種率が100%に達する必要があります。しかし、『安全性が確認された新型ワクチンを接種しますか?』というアンケートに対して『接種する』と回答したアメリカ人はおよそ75%だったため、effectivenessが60%のワクチンでは社会を正常に戻すことはできません。75%の接種率では80%のeffectivenessが必要です」とコメント。ワクチンが完成したとしても、そのワクチンのeffectiveness次第では「コロナ前」の時代に戻ることは不可能で、マスクの着用や社会的距離の維持など、「コロナ後」の生活を続けなければならないと主張しました。

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in サイエンス, Posted by darkhorse_log

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