せきをした時に肘や手のひらで口を押さえることに意味があるのか?
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行により、人々が集まる場所に行く時はマスクを着用し、せきやくしゃみをした際に飛沫(ひまつ)を拡散させないことがマナーとなっています。マスクをつけていない時にせきやくしゃみをする場合は、せめて肘などで口を押さえることも推奨されていますが、実際に口を肘などで押さえることに意味があるのかどうかを調べた結果が報告されています。
Universal trends in human cough airflows at large distances: Physics of Fluids: Vol 32, No 8
https://aip.scitation.org/doi/full/10.1063/5.0021666
Effectiveness of cloth masks depends on type of covering
https://phys.org/news/2020-08-effectiveness-masks.html
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は人々がせきやくしゃみをした際に拡散する飛沫に含まれているため、感染者がマスクを着用するなどの対策を取ることで、ウイルスの感染を抑えることができるとされています。インド宇宙研究機関のPadmanabha Prasanna Simha氏とスリジャヤデバ心臓血管科学研究所のPrasanna Simha Mohan Rao氏は、さまざまな「口の覆い方」でせきをした場合に、飛沫がどのように拡散するのかを調査しました。
Simha氏は、人々が飛沫の拡散を緩和して周囲の汚染を抑制できるのであれば、他の健康な人々にとって有益だと主張。研究チームは、せきの飛沫が拡散する場所は周囲よりも温かくなるという関係を利用して、シュリーレン法という手法を用いて飛沫の密度を視覚化したとのこと。
実験では、5人の被験者がさまざまな状態でせきをして、連続画像でせきの飛沫の動きを追跡しました。シュリーレンイメージングを用いると以下の画像のように、せきの飛沫は画像内の波打った範囲として見ることができます。
被験者は「a:マスクをしない状態」「b:医療用マスクを着けた状態」「c:N95マスクを着けた状態」「d:片手で口を押さえた状態」「e:両手で口を覆った状態」「f:たたんだハンカチで口を押さえた状態」「g:医療用マスクを着けて口を押さえた状態」「h:服の袖なしの肘で口を押さえた状態」「i:服の袖ありの肘で口を押さえた状態」でせきをして、それぞれの状態で飛沫の拡散具合がどれほど違うのかが調査されました。
シュリーレンイメージングで飛沫を視覚化した画像が以下。「a:マスクをしない状態」「b:医療用マスクを着けた状態」「c:N95マスクを着けた状態」を比較すると、医療用マスクやN95マスクを着けた場合、マスクを着けなかった場合より明らかに飛沫の拡散範囲が減少していることがわかります。研究チームによると、マスクを着けない状態だと飛沫は最大3メートル拡散したものの、医療用マスクを着けると50cmまで拡散範囲が減少したそうです。さらに、N95マスクを着けているとせきの初期速度が最大10分の1に軽減され、飛沫の拡散は10~25cmの範囲にとどまったとのこと。
一方、「d:片手で口を押さえた状態」「e:両手で口を覆った状態」「f:たたんだハンカチで口を押さえた状態」を比較するとこんな感じ。単に手で口を押さえただけでは隙間から飛沫が漏れ出る場合がありますが、ハンカチを口に当てて押さえると、かなり飛沫の拡散を抑制できる模様。
「g:医療用マスクを着けて口を押さえた状態」「h:服の袖なしの肘で口を押さえた状態」「i:服の袖ありの肘で口を押さえた状態」はこんな感じ。医療用マスクの上から手で押さえるとかなり飛沫の拡散を抑えることができますが、口を押さえた手に飛沫が付いてしまうため、その手で他の場所を触るとウイルスで汚染してしまう危険があります。他の場所に触れにくい肘で口を押さえる場合、袖がないと隙間から飛沫が拡散してしまいますが、袖ありの服を着ていると隙間が埋まって飛沫の拡散を減らせるという結果になりました。
Simha氏は今回の研究結果から、たとえ全ての粒子をキャッチできないマスクであっても、粒子が遠くまで広がるのを抑制する効果があると指摘。その一方で、マスクも完全なものではなく、基本的には他者との距離を十分に保つことが重要だと主張しました。
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