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AIの戦闘機パイロットが人間のベテラン海軍パイロットに模擬戦闘で完勝、AIが人間より優れている点とは?


2020年8月18日にアメリカの国防高等研究計画局(DARPA)が、戦闘機F-16に搭載するAIシステムのコンテストを開催しました。その中で最も成績の良かったAIが、ベテランのアメリカ海軍パイロットとシミュレーターによる模擬戦闘を5回行った結果、5連勝しました。この結果を受けて、アメリカ海軍で飛行隊司令官を務めるコリン・ファーバ氏が、「AIパイロットが人間のパイロットよりも優れている点」について解説しています。

Navy F/A-18 Squadron Commander's Take On AI Repeatedly Beating Real Pilot In Dogfight - The Drive
https://www.thedrive.com/the-war-zone/35947/navy-f-a-18-squadron-commanders-take-on-ai-repeatedly-beating-real-pilot-in-dogfight


DARPAによるAIパイロットと海軍パイロットの模擬戦闘の様子はYouTubeでライブ配信されており、以下のアーカイブの4時間39分50秒辺りから見ることができます。

AlphaDogfight Trials Final Event - YouTube


アメリカ海軍では、パイロットは「Basic Fighter Manuva(BFM)」と呼ばれる空中戦闘用のトレーニングを毎日受けているとのこと。BFMは、パイロットが肉体的に過酷な3次元空間の中で敵との位置関係や状況を把握するためのもので、戦闘機を積極的に操縦する方法を理解するだけでなく、武器システムを正確に理解した上で「武器を発射するトリガーを引く必要があるか」を判断する能力もトレーニングします。ファーバ氏は「ダイナミックでストレスの多い環境が、より優れた戦闘機パイロットを生み出します」と述べています。


ただし、ファーバ氏は「パイロットが敵と鉢合わせするような状況はいくつかあります。もし戦場で敵と遭遇したら、目標はただ一つ。つまり、『敵が撃つ前に最初の1発で敵を倒すこと』です」と語り、トレーニングと実戦は大きく違うとしています。

例えば、模擬戦闘訓練で2機が接触してすぐに撃ち合ったとしても、どちらかがはっきりと勝者であると示されるまで、ドッグファイトは続けられます。そして決着がつき、お互いのパイロットが訓練結果の映像を見た時に初めて、最初の打ち合いでお互いに翼やエンジンに弾がかすめていたことに気づきます。模擬戦闘ではかすめた程度でも、実戦ではミサイルの衝撃で翼やエンジンが失われてしまう可能性もあるため、模擬戦闘の決着が実戦と同じとは限らないとファーバ氏は指摘しています。


一方で、「戦闘機のパイロットにとって真のスポーツとは、機銃だけを使ったBFM交戦訓練です」とファーバ氏は主張しています。機銃のみのBFM交戦訓練ではパイロットは戦闘機の燃料消費を考えながら、さまざまな動きを活用できるかどうかが試されるとのこと。パイロットは相手の動きに合わせて常に2つから3つの動きを考えているそうで、機銃のみのBFM交戦訓練はまさに空中のチェスといえます。

以下は、実際にF/A-18Eに搭乗してBFM訓練を行うパイロットの映像。

F A 18E Super Hornet BFM in Portland, OR - YouTube


DARPAのコンテスト内で行われたAIパイロットと人間パイロットの模擬戦闘も、この機銃のみのBFM交戦訓練の形式でした。ファーバ氏は、この模擬戦闘では以下の3点において、「AIが人間よりも優れていた」と判断しています。

・正確な機銃射撃
射撃の命中率を上げるために、パイロットは戦闘機の操縦中に、動作平面や射程、相手との距離を常に考えなければなりません。ファーバ氏によれば、相手を正面に捉えた時に射撃が有効な時間はわずか3秒とのことで、パイロットはその3秒以内に相手の追跡と評価、精神集中を行い、さらに相手に衝突しないように回避の動きも計算しながら引き金を引く必要があります。しかし、DARPAのコンテストで優勝した防衛企業Heron SystemsのAIはこの計算を一瞬で終わらせてしまいます。DARPAによって行われた5回の模擬戦闘では、AIによる有効射撃がおよそ15回あったのに対して、人間のパイロットによる有効射撃は1回もなかったそうです。

・効率的なフライト
戦闘機にとって、燃料は命綱そのものです。燃料消費をなるべく少なくしながら飛ぶためには、パイロットはコックピットにある機器から機体の角度や対気速度、重力加速度をチェックしなければならず、ベテランのパイロットでも常に燃費を最高で維持するのは至難の業だとのこと。しかし、AIにとってこうしたデータの処理はお手の物であり、必要に応じて戦闘機の速度や方向を微調整しながら、効率の良い飛行を実現します。

・生理的制限からの解放
今回のAIと人間の模擬戦闘で、5戦目のラストではお互いがお互いを追いかけながらグルグルと円を描くように飛び交うドッグファイトが展開されました。この時、現実であればパイロットの体には9Gもの重力加速度がかかることとなります。9Gという重力加速に耐えるため、パイロットは足と腹部の筋肉にかなりの力を入れ続けながら、操縦に集中し続ける必要があります。ファーバ氏は「人間は常に航空機の性能を制限する要因になります」と述べています。しかし、AIはどれだけGがかかっても何の影響もなく戦闘機を操縦し続けることが可能であり、人間の肉体には不可能な軌道で飛び続けることもできます。


ファーバ氏は「すでにAIをコックピットに搭乗させる準備はできています」と述べ、AIが戦闘機のパイロットとして配備されるのは遠くない未来であると予想。「いずれ自分の孫を抱きながら語るために、『あの頃はよかった』『おじいちゃんは海軍で史上最高のパイロットだった』という夢物語を準備しましょう」と語りました。

なお、今回はシミュレーターによる模擬戦闘でしたが、自律型無人戦闘機を使った現実のドッグファイトは2021年に行われる予定です。

有人戦闘機と自律型無人戦闘機の空中決闘が2021年に行われる予定 - GIGAZINE

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in ソフトウェア,   乗り物,   動画, Posted by log1i_yk

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