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世界最大規模の「民間空軍」を所有する人物が手がけるビジネスとは?

by Air USA

2020年3月、「アメリカに住むドン・カーリン氏という人物が、オーストラリア空軍から大量の戦闘攻撃機・ F/A-18ホーネットを購入した」と、乗り物系メディアのThe Driveが報じました。長年にわたって世界中からさまざまな戦闘機や航空機を購入してきたカーリン氏は、世界最大規模の「民間空軍」を所有する人物として知られており、The Driveがカーリン氏の手がけるビジネスについて解説しています。

This Man Owns The World's Most Advanced Private Air Force After Buying 46 F/A-18 Hornets - The Drive
https://www.thedrive.com/the-war-zone/32869/this-man-owns-the-worlds-most-advanced-private-air-force-after-buying-46-f-a-18-hornets


パイロット業や不動産業などで財をなしたカーリン氏は、アメリカで初めてソ連の戦闘機・MiG-29ファルクラムを個人所有した人物としても知られ、世界最大規模のプライベート空軍である「Air USA」の創立者でもあります。1994年、カーリン氏は初めて外国の軍用ジェット機であるチェコスロバキア製のL-39アルバトロスを購入・輸入し、それ以来数十年にわたって各国から軍用機を購入してきたとのこと。

また、カーリン氏はアルコール・タバコ・火器及び爆発物取締局の認可を受け、軍用機関銃や大砲および大量の弾薬の所有だけでなく、発砲することも許されています。そんなカーリン氏のAir USAが手がけている事業が、「アメリカ空軍の訓練時に仮想敵軍を再現する」というもの。つまり、アメリカ空軍に雇われて、Air USAが所有する大量の軍用機を使って仮想の敵空軍を再現し、リアリティのある訓練を行うための支援を行っているそうです。

Air USAは軍に雇われて仮想敵を再現する「仮想敵業務」の分野に、かなり初期から参入していた企業の1つです。2000年代初頭には仮想敵業務の代行を行う民間軍事会社のAirborne Tactical Advantage Company(ATAC)の下請けとして、アメリカ海軍から「戦闘機や巡航ミサイルなどを模倣する仮想敵を提供する」仕事を受注しました。それ以来、Air USAは仮想敵業務の分野で大きな存在感を発揮しており、大量の軍用機を所有して国防総省向けの事業を展開しています。

by Air USA

2020年3月にはAir USAが46機ものF/A-18ホーネットをオーストラリア空軍から購入して話題となりましたが、2018年にはカナダ空軍が25機のF/A-18ホーネットをオーストラリア空軍から購入したことも報じられていました。この点からも、Air USAが保有する戦闘機の数が相当なものであることがうかがえます。なお、オーストラリア空軍はF/A-18ホーネットを全てF-35ライトニングIIに置き換えることを計画しており、2021年末までに既存のF/A-18ホーネットは退役する予定となっています。

Air USAがオーストラリア空軍と交わした契約の詳細は明らかになっていませんが、Air USAが購入したのはF/A-18ホーネットの機体だけではなく、オーストラリア空軍が所有するスペア部品やテスト機器も含まれていました。Air USAの事業においては、購入した機体を全て飛行可能な状態にすることが重要であるため、こうしたメンテナンス用の部品は非常に価値があるとのこと。

by Commonwealth of Australia, Department of Defence

もちろん中古品だからといって、オーストラリア空軍から購入したF/A-18ホーネットの状態が悪いというわけではなく、オーストラリア空軍は代替品のF-35ライトニングIIが到着するまでF/A-18ホーネットを良好な状態に保ってきました。また、購入したF/A-18ホーネットには、Elta EL-L/8222という世界標準のジャミングポッドも搭載されています。Elta EL-L/8222はさまざまな国の軍用機に搭載されており、敵のレーダーを妨害してかいくぐることで、敵軍にとって脅威となる存在です。

また、仮想敵業務市場に存在するどの製品よりも優れたレーダーであるAN/APG-73レーダーや、イスラエルのラファエル社が開発・設計した照準ポッドのAN/AAQ-28 LITENING、パイロットの状況認識能力や照準能力を高める統合ヘルメット装着式目標指定システム(JHMCS)など、最新鋭の装備をAir USAのF/A-18ホーネットは備えています。

by Commonwealth of Australia, Department of Defence

カーリン氏によると、オーストラリア空軍から購入したF/A-18ホーネットは、アメリカ海軍が所有するF/A-18ホーネットと比較して腐食の兆候がほとんどないとのこと。この理由についてカーリン氏は、アメリカ海軍のF/A-18ホーネットが塩の影響を受けやすい海上の空母に搭載されているのに対し、オーストラリア空軍のF/A-18ホーネットが高温で乾燥した状態で運用されていたからだろうとみています。機体の状態が良好なことから、カーリン氏は購入したF/A-18ホーネットが2035年まで、場合によってはそれ以上の長期にわたって運用可能だと考えているそうです。

新たな軍用機を購入する際の指針として、カーリン氏は「何年にもわたって保管されてきた機体ではなく、実際に使用され飛行していた機体を購入する」ことを掲げています。オーストラリア空軍が所有するF/A-18ホーネットはこの指針に適していただけでなく、製造メーカーがアメリカに本拠を置くマクドネル・ダグラス(現ボーイング)であり、メンテナンス面でも優れていたとのこと。また、Air USAはF/A-18ホーネットを購入すると同時に、オーストラリア空軍から練習機のピラタス PC-9も5機購入しており、パイロットの訓練に役立てています。

by Commonwealth of Australia, Department of Defence

Air USAは単にできるだけ最新の軍用機をそろえるだけでなく、幅広い種類の軍用機をそろえています。新たに購入したF/A-18ホーネット以外にも10機のBAe ホーク、2機のL-39アルバトロス、4機のL-39ZA、4機のMiG-29ファルクラム、軍事用にカスタマイズされたCessna T337 Turbo SkymasterなどがAir USAに配備されており、Elta EL-L/8222をはじめとする最新鋭の電子補助装置も搭載されているとのこと。

カーリン氏が仮想敵軍業務を行う上で重視している点が、さまざまな種類の軍用機をそろえることで、顧客の予算や要望に応じて仮想敵軍の幅広いオプションを提供するということ。レーダーを使った迎撃訓練をはじめとする基本的な訓練と、戦闘機同士の空戦を想定した訓練では、適した軍用機の種類も変わってきます。また、複数の航空機を組み合わせて訓練の複雑さを増すことで、空軍の訓練生に対してより困難なシナリオを提供することも可能となります。

また、Air USAはパイロットだけでなく、近接航空支援や航空阻止といった戦術爆撃作戦の一端を担う統合末端攻撃統制官(JTAC)の育成にも適しています。地上の戦場に関連する3次元空域を的確に把握し、前線の航空機に対して効果的な指示を下して戦闘を支援するJTACは非常に重要な存在ですが、国防総省が所有する高性能の戦闘機を使用した訓練には少なくとも1時間あたり2万ドル(約220万円)ものコストがかかります。一方、Air USAは比較的安価な軍用機を使用して、JTACの育成を行うこともできるとのことです。

by Air USA

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in 乗り物, Posted by log1h_ik

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