サイエンス

「8時間睡眠は全人類に必要ではない」ことが徐々に明らかに


「大人は1日7~8時間の睡眠を必要とし、人よりも短い睡眠しかとらないショートスリーパーは不眠症やうつに悩まされている」とこれまでは考えられてきましたが、最新の研究では「遺伝子変異によってそもそも多くの睡眠を取らなくとも、ポジティプに考え、活動的に動き、長生きすることができる人」の存在が明らかになってきています。

Not Everyone Needs 8 Hours of Sleep, New Research Reveals | Time
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睡眠不足は脳卒中や糖尿病、がんアルツハイマー病といったさまざまな疾患と関係していると考えられており、一般的には「大人は1日7~8時間の睡眠が必要」といわれています。睡眠が健康にとって重要であり、多くの疾患リスクと関係していることは疑いようのない事実ですが、一方で睡眠時に体の中で何が起こっていて、体の機能がどう調整されているのかは、実際のところよくわかっていません。

そして1日7~8時間の睡眠が必要な人が存在する一方で、1日4時間ほどの睡眠しか必要がない人や、朝型・夜型人間がいるのも事実。これには生活様式のほか、遺伝子が関係しているとみられています。

朝型・夜型と関連する遺伝子座を約70万人の遺伝子を分析して研究者が特定 - GIGAZINE


カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)で生物物理学を研究するシーメイ・シュー准教授は自分自身の睡眠習慣について、「1日4時間睡眠の生活リズムが最も活気に満ちた状態になる」と述べており、7~8時間眠るとむしろ気分が悪くなるとのこと。このように近年は、「全ての人間には1日7~8時間の睡眠が必要」と考えるのではなく、個々人によって必要な睡眠時間が異なるという見方での研究も進んでいます。

UCSFで神経学教授を務めるルイス・プタチェック氏と、その妻であり同じく神経学教授であるイン・ホイ・フー氏は、このような新しい睡眠分野のパイオニア的存在です。フー氏は2009年に「個人が必要とする最適な睡眠時間は遺伝子の変異体が関係している」ということを初めて発見し、2019年には生まれつき短時間の睡眠で足りるショートスリーパーの遺伝子座特定しました。フー氏の研究によると、睡眠に関する特定の遺伝子変異が存在する人は、遺伝子変異が存在しない人が8時間睡眠から得られる利益を、6時間睡眠から得ることが可能とのこと。

プタチェック氏とフー氏らの研究チームは、前述のシュー氏を含むショートスリーパーたちからデータを収集し、研究を続けています。シュー氏が特定の遺伝子変異を持っているかどうかはまだ明らかではないものの、研究者らがシュー氏の母親にインタビューを行ったところ、母親も同様にショートスリーパーだったことが判明したそうです。このため、シュー氏とその母親の2人から血液サンプルが採取され、解析に回されています。

多くの医師はこれまで「ショートスリーパーは不眠症に悩み、うつ状態にある」と考えがちでした。しかし、研究はまだ初期段階ではあるものの、研究チームは「ショートスリーパーは効率的に睡眠を取れるだけでなく、長時間の睡眠を取る人よりもエネルギッシュで楽天的。そして痛みに耐性があり、長寿の傾向がある」という新たな発見をしています。実際にシュー氏は活動的・ポジティブな人柄で、痛みに耐性があるため気づかないうちに打撲を作ってしまっているそうです。


また人によって体内時計が異なるのはもちろんのこと、同じ人の体でも脳と各臓器の時計が異なると、ハーバード大学メディカル・スクールのスティーブン・ロックリー氏は語ります。心臓・肺・腎臓といった各臓器に概日リズムが存在し、代謝やホルモン、免疫系、生殖機能、DNA翻訳などあらゆるものが概日リズムの影響を受けるとのこと。

加えて、臓器の体内時計のシステムは非常に複雑で、1日のどのタイミングによってコレステロール値に異常があるように見えたり、薬の効き目が変わったりすることが、これまでの研究で示唆されています。また、ジュリアン・ジエラス氏の研究では、2型糖尿病を患う11人の男性に高強度インターバルトレーニングを行ってもらったところ、朝8時に運動を行ったグループは、夕方4時に運動を行ったグループよりも、血糖値が高くなることが示されたとのこと。「時間帯」が運動の効果に影響することも示されているわけです。

体内時計の研究はまだ初期段階にありますが、研究が進み、睡眠と遺伝子の関係が明らかになっていけば、「睡眠が体の各機能をどのように制御しているのか」もわかってくると考えられています。これにより、一律の医療ではなく、個々人に最適化された医療行為が行われるようになると、研究者は考えています。

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in サイエンス, Posted by darkhorse_log

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