睡眠不足の影響を調べるため実際に4時間睡眠で2週間生活し続けて認知機能をテストした結果とは?
「睡眠不足は認知機能に悪影響を与えて仕事や勉強の効率を低下させる」ということは多くの研究者らによって主張されていますが、実際に自分が睡眠不足に陥ったらどれほど認知機能が低下するのか正確に知っている人は少ないはず。実際に睡眠不足が自分に与える影響が気になったブロガーのAlexey Guzeyさんが、「2週間にわたって4時間睡眠で生活して認知機能への影響を確かめる」という体を張った実験を行ったところ、驚くべき結果が出たと報告しています。
The Effects on Cognition of Sleeping 4 Hours per Night for 12-14 Days: a Pre-Registered Self-Experiment - Alexey Guzey
https://guzey.com/science/sleep/14-day-sleep-deprivation-self-experiment/
睡眠不足による認知機能の低下は睡眠科学で最もよく研究されている話題の1つであり、研究者ではない一般の人々にも広く知れ渡っています。特に、「1日6時間睡眠を続けた人は徹夜した人と同じくらい認知機能が低下する」「睡眠不足による認知機能の低下は自分で気がつくことが難しい」といった研究結果は、多くの人々の興味を喚起するものです。Guzeyさんも睡眠科学への関心を深めた人物の1人であり、「実際に自分の体を使って睡眠不足による認知機能への影響を調べる実験」を行うことにしました。
まず、Guzeyさんは実験前に自分の睡眠を整えるため、実験開始前の1週間にわたって23時30分~7時30分の8時間を睡眠に充てることにしました。睡眠に割り当てた時間の全てを眠りに費やせたわけではないものの、平均して1晩あたり7.78時間ほど眠ることができたとのこと。なお、Guzeyさんは医学的、精神医学的、または睡眠関連の障害を持っておらず、過去2年間は夜間業務や交代シフトの仕事に従事していなかったそうで、過去3カ月間は昼夜逆転したこともありませんでした。
1週間にわたって1日8時間の睡眠をとった後、Guzeyさんは14日間にわたって3時30分~7時30分の4時間睡眠で生活する実験を開始しました。実験期間中は昼寝などを禁止しており、実験終盤に認知機能をチェックするテストを行いました。なお、Guzeyさんは実験開始の2週間前から実験期間中にかけてカフェイン・アルコール・タバコ・医薬品を摂取しておらず、食事は12時~20時の間しか摂りませんでしたが、食事内容に制限は設けなかったとのこと。日中は仕事やビデオゲーム・映画鑑賞・インターネットサーフィン・読書などをして過ごしましたが、屋外に出ることはなく、激しい運動や日光浴もしなかったそうです。
Guzeyさんは睡眠不足時と平常時の認知機能の差を調べるため、1日4時間睡眠を始める前日と、1日4時間睡眠生活を始めてから12日目・13日目・14日目、そして実験が終了し、睡眠時間を増やしてから4日目・5日目の計6日にわたって認知機能テストを行いました。Guzeyさんが認知機能のテストとして実行したのは「Psychomotor Vigilance Task(PVT)」「guzey_arena_0」「大学進学適性試験(SAT)」の3つ。
「PVT」はティッシュ箱くらいの大きさのモニターをじっと見つめ、ランダムに点灯する光に反応してボタンを押すという単純な覚醒調査です。一般的に覚醒調査でよく使用されているPVTでは、反応が遅すぎると失敗となり、テストは10分間連続で実施されます。「guzey_arena_0」はGuzeyさんが開発したFPSゲームであり、アリーナの周囲にランダムで出現する20体の敵を探しだし、できるだけ早く倒すというもの。Guzeyさんによると、このゲームを認知機能テストに用いることで、敵に対する反応速度や敵を追跡するための戦術的思考力、キーボードやマウスを使った細かい作業能力などをテストできるとのこと。「SAT」は語学と数学に関する計3時間のテストであり、毎年何百人もの高校生が受験するものです。
これらの結果を分析し、Guzeyさんは睡眠不足になった状態がどれほど自分の認知機能に影響を与えたのかを調べました。以下が「PVT」の結果。薄い赤色の部分が平常時の結果を示しており、青い部分が睡眠不足になっている最中の結果を示しています。Guzeyさんは、「平常時と実験中でPVTのパフォーマンスに統計的に有意な差はありませんでした」と述べています。
これが「guzey_arena_0」の結果。やはり統計的に有意な差は認められません。
「SAT」の結果からも、平常時と睡眠不足時の間で、認知機能が大きく変化することはありませんでした。
睡眠不足のはずなのに、認知機能に大きな影響が出ないという結果には、Guzeyさんも困惑した模様。実験開始前のGuzeyさんは、「単調でつまらない『PVT』ではうっかり居眠りしてしまったり気が散ったりしてパフォーマンスが低下するが、面白いタスクである『guzey_arena_0』ではパフォーマンスが低下しない」という仮説を立てていましたが、結果的にPVTテストでも有意な認知機能の低下は確認されませんでした。
今回Guzeyさんが行った認知機能テストでは、いずれも「睡眠不足の最中に、認知機能に大きな低下はなかった」と示唆されました。その一方で実験中のGuzeyさんは、大まかに起床中の85%の時間を完全な覚醒状態で過ごし、10%を眠気を感じながら過ごしたとのこと。そして5%はほとんど眠りそうなほど強い眠気に襲われていたそうで、ビデオゲームを15分~20分ほどプレイすることで覚醒状態に戻っていたと述べています。
また、Guzeyさんは1日4時間睡眠を始めてから10日目に、友人と1時間ほど学術論文に関する複雑な議論を行いました。この議論が終わった後、Guzeyさんは友人に「実は1日4時間睡眠の生活を始めて10日目なんだけど、何か気づいたことはあった?」と尋ねました。友人はこの質問に対し、「(笑) 全然気づかなかった」と答えたとのこと。また、実験の存在を知っていたルームメイトに、「実験中と実験後で何か変わった?」と聞いたところ、特に大きな変化はないとの回答が得られたそうです。
それでも、時にはビデオゲームをプレイする気力すら起きず、数秒ほど寝落ちしたり、イスに座ったまま数分ほど眠り込んでしまったりすることもあったそうです。「長い時間をかけて実験をデザインし、結果を公表することに強い熱意を注いでいなかったら、14日間にわたってこのスケジュールを維持できたとは思いません」とGuzeyさんは認めており、実際に4時間睡眠生活を続けることは非常に困難だったと述べました。
一連の実験で得られた結果はあくまでもGuzeyさんだけをサンプルとしたものであり、データの品質もそこまで高くない可能性があるとのこと。また、そもそもGuzeyさんは「起きていることが好きで、寝ていることは好きじゃありません」と述べており、睡眠不足が認知機能に悪影響を与えないことを発見する動機があったと認めています。この点が、睡眠不足の期間中に受けた認知機能テストで高得点を取る動機となったかもしれないとGuzeyさんは指摘しています。また、実験中に体調を大きく崩すことはなかったものの、健康状態の厳密な追跡も行っていないそうです。
Guzeyさんは今回の実験だけでなく、さらに「75時間連続で眠らない状態での実験」「1日4時間睡眠を30日以上にわたって続ける実験」も行う予定だと述べました。
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