月の裏側で「謎のゲル状物体が見つかった」と騒がれたものの正体とは一体何だったのか?
月は常に同じ面を地球に向けているため、月の裏側に何があるかを調べるには、直接探査機を送るしか方法がありません。そんな月の裏側で月面探査ローバーが発見した「謎のゲル状物体」の正体が、中国の宇宙開発当局の科学者らによって明かされました。
Impact melt breccia and surrounding regolith measured by Chang'e-4 rover - ScienceDirect
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0012821X20303228
Glistening 'Gel-Like' Substance on Far Side of The Moon Finally Identified
https://www.sciencealert.com/we-finally-know-what-that-gel-like-substance-on-the-far-side-of-the-moon-is
2018年12月に中国が打ち上げた無人探査機「嫦娥4号」は、2019年1月に南極エイトケン盆地に着陸し、世界で初めて月の裏側に到達した探査機となりました。さらに、2019年9月には、嫦娥4号に搭載されていた月面探査ローバー「玉兎2号」の活躍により、「月の裏側で謎のゲル状物体が発見された」ことが報じられました。
月の裏側で「謎のゲル状物体」が発見される - GIGAZINE
「玉兎2号」の操作チームは、日誌の中で「神秘光泽的胶状物(神秘的な光沢のある『胶状物』)」が見つかったと報告しました。この「胶状物」という中国語は、一般に「ゼリー状の物体」と訳されます。しかし、月面にゼリー状の物体があるとは考えにくいことから、発見当時から専門家は「そのように見えるものがあるとすれば、それは隕石の衝突により生じた火山ガラスではないか」との見方を示していました。
さらに、中国科学院の研究者らは新たに発表した論文の中で、「今回見つかった物質は、濃い緑色に輝くインパクトメルト角礫(かくれき)岩でした」と報告しました。以下の画像の赤枠で囲われている箇所が、「謎のゲル状物体」が発見されたとされている地点です。
by CNSA/CLEP
インパクトメルト角礫岩とは、月のレゴリスや岩石が、隕石の衝撃により融解した物質により接着されて固まり、セメント化したものです。アメリカによる有人宇宙飛行計画であるアポロ計画でも、複数のインパクトメルト角礫岩がサンプルとして回収されています。
今回、「玉兎2号」が発見したインパクトメルト角礫岩は52×16センチの大きさで、中に含まれているレゴリスの組成の一部は斜長石約45%、輝石約7%、カンラン石約6%でした。しかし、ガラス状の光沢を生み出している物質については、スペクトル分析に必要な光量が足りなかったため十分に解析することができず、斜長石が約38%ほど含まれていることが判明しただけでした。
以下の画像が、インパクトメルト角礫岩が発見時に「玉兎2号」によって撮影されたクレーターの写真です。インパクトメルト角礫岩が発見されたクレーターは直径2メートルほどで、52×16センチの大きさのインパクトメルト角礫岩を形成するには小さすぎることから、科学者らは「発見されたクレーターとは別の隕石衝突で放出され、新しいクレーターに落ちた可能性が高い」と結論付けました。
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