新型コロナウイルスのパンデミックにより「人々の時間の認識」が変化している

世界や自分の身の回りで何があろうと時計は常に一定の速度で進みますが、個人の主観的な体感速度は一定ではありません。デラウェア大学で心理学准教授を務めるPhilip Gable氏は、「新型コロナウイルスのパンデミックにより、人々の時間の認識が変化している」と主張しています。
The stay-at-home slowdown – how the pandemic upended our perception of time
https://theconversation.com/the-stay-at-home-slowdown-how-the-pandemic-upended-our-perception-of-time-139258

多くの人々が「ネガティブな気分だと体感時間が遅くなり、ポジティブな気分だと体感時間が速くなる」と考えており、そのことを裏付けるような研究結果も発表されています。Gable氏も、人々の感情が体感時間に与える変化について研究してきた人物の1人です。
人間の時間認識には感情と動機が複雑に絡み合っているとGable氏は指摘しています。人が興奮している時は物事にチャレンジする「アプローチ動機」が強くなり、何かを恐れている時は物事から逃げ出す「回避動機」が強くなるとのこと。
Gable氏の研究チームは2016年の(PDFファイル)研究で、アプローチ動機が強くなるほど人々の体感時間が速くなり、回避動機が強くなるほど体感時間が遅くなることを示しました。この現象は合理的なものだそうで、たとえば「パズルを完成させる趣味に熱中している」人はアプローチ動機が強くなり、体感時間が短くなったことでより長い時間を趣味のために使うことができます。一方、「車にひかれそうになっている」人は回避動機が強くなり、体感時間が長くなったことで迅速に行動して危険から逃れることができます。

新型コロナウイルスのパンデミックがアメリカで起きた時、Gable氏は日常生活への不安と不確実性が高まることでアメリカ人の間で回避動機が強くなり、「時間の認識」に変化が出るのではないかと考えました。パンデミックという危険から明確に逃げ切ることは困難であり、買い物や運動といった日常的な行為の中に感染の危険性が潜む状況は、回避動機を絶え間なく引き起こし得る環境だったとのこと。
そこでGable氏の研究チームはアメリカ国立科学財団から6万5000ドル(約700万円)の助成金を得て、パンデミックに直面した人々の感情・認識・行動を記録するスマートフォンアプリを開発し、アメリカ人が体感している時間の変化について分析を行いました。

1000人のアメリカ人を対象にした調査では、約半数が「2020年3月は通常よりも時間の経過が遅く感じた」と回答しました。4分の1は「時間の流れは変わらなかった」と回答し、残った4分の1は「3月は時間が経過するのが速く感じた」と回答したとのこと。
人々が報告した体感時間の変化は人々の感情と強く関連しており、パンデミック中に緊張やストレスを感じたと報告した人は「時間がゆっくりと経過した」と回答しがちでした。その一方で、幸せや喜びを感じたと報告した人は「時間の経過が速くなった」と回答する傾向がみられたそうです。
また、「時間の経過が遅くなった」と回答した人ほど他者との社会的距離を保つ行動を取る傾向があったことも、今回の調査で判明しました。体感時間が遅くなるのは不安や回避行動の不快な副作用かもしれませんが、時間の遅れを経験した人々の行動は社会的に利益をもたらしたとGable氏は指摘しています。
4月になると、全体の10%が「遅かった時間の流れが速くなった」と回答したほか、多くの人々が気分の向上を報告しました。そして興味深いことに、4月になると「ポジティブな気分である」「時間の流れが速く感じる」と報告する人ほど、社会的距離を保つ行動を取る可能性が高くなることも判明。3月とは違う傾向が見られた理由についてGable氏は、気分の向上や時間認識の変化が、社会的距離を保つ行動への意欲を刺激した可能性があると考えています。

パンデミック中に時間の流れが遅くなることは不快ですが、運動や趣味に打ち込んだり、これまで通りの日常生活を送ったりすることは、時間の流れを速くするのに役立つとGable氏は述べました。
・関連記事
大人になると「時間があっという間に過ぎてしまう」と感じてしまう理由とその対処法とは? - GIGAZINE
脳は「時間」や「タイミング」をどのようにして認識しているのか? - GIGAZINE
締め切りが存在すると持ち時間の認識に影響を与えるという研究結果 - GIGAZINE
上司が無茶な仕事の予定を組むのは「時間の認識がゆがんでいる」から - GIGAZINE
「時間を見ることができる」という驚くべき共感覚を持つ人 - GIGAZINE
人が認識する「連続した世界」は幻であるという調査結果 - GIGAZINE
脳は時間をどのように記憶するのか? - GIGAZINE
科学に裏付けられた「自由時間を確保する3つのポイント」とは? - GIGAZINE
・関連コンテンツ
in サイエンス, Posted by log1h_ik
You can read the machine translated English article 'People's perception of time' is cha….