サイエンス

「シャボン玉を使って受粉させる」という奇抜な方法がミツバチの代わりになる可能性


種子植物は花粉がめしべに付着する受粉で有性生殖を行いますが、近年は花粉を媒介して受粉で重要な役割を果たしているミツバチなどの個体数が減少していることが指摘されており、農作物の受粉を行うロボットの開発も進められています。そんな中、北陸先端科学技術大学院大学都英次郎准教授らの研究チームが、「シャボン玉を使って花粉を媒介する」という奇抜な方法を開発し、ミツバチの働きを補完する可能性もあると報じられています。

Soap Bubble Pollination: iScience
https://www.cell.com/iscience/fulltext/S2589-0042(20)30373-4

Soap bubbles pollinated a pear orchard without damaging delicate flowers
https://phys.org/news/2020-06-soap-pollinated-pear-orchard-delicate.html

If we can't save bees, soap bubble pollination could help - CNN
https://edition.cnn.com/2020/06/17/world/soap-bubble-robotic-pollination-study-scn/index.html


果物などの農作物は受粉作業の多くをミツバチに依存していますが、近年では農薬の使用や他の昆虫種または寄生虫、さらに気候変動などの影響を受けて世界的にミツバチの個体数が減少しています。植物が受粉しないと実が成らないため、農家は手作業での受粉を行うなどの対策を取っていますが、手作業による受粉は農家の大きな負担となっているとのこと。「農家は便利な自動受粉の方法を心から望んでいます」と話す都准教授は、新しい人工授粉の方法を開発する必要があると指摘しています。

人間や昆虫の代わりに機械を使って花粉を噴霧することもできますが、もしめしべに花粉が付着せずに受粉が失敗すれば実が成らず、花粉も無駄になってしまいます。そこで2017年、都准教授の研究チームは小さなドローンを使って花粉を媒介するという研究結果を発表しました。ドローンの全長はわずか2cmほどでしたが、自動制御システムがなかったため、ドローンが花にぶつかると花を傷付けてしまう点が問題だったとのこと。


花を傷付けない人工授粉の方法を模索していた都准教授は、公園で子どもと一緒にシャボン玉で遊んでいた際、シャボン玉の1つが子どもの顔にぶつかる様子を目にしたそうです。柔らかくて壊れやすいシャボン玉に当たっても、当然のことながら子どもの顔に傷は付きませんでした。この出来事から、都准教授は「シャボン玉を使って花粉を媒介することができるのではないか」というひらめきを得ました。

光学顕微鏡を使ってシャボン玉が花粉を運ぶことができることを確認した都准教授は、論文の共同著者であるXi Yang氏と共に5種類の異なる市販の界面活性剤をテストし、中和された「ラウリン酸アミドプロピルベタイン」という界面活性剤が最も受粉に適していることを発見しました。ラウリン酸アミドプロピルベタインを使うとバブルガンで効率的に多くのシャボン玉を作ることが可能であり、他の界面活性剤と比較して受粉後の花粉の発芽や花粉管の伸長についてよい結果が出たとのこと。

研究チームは受粉に最も効果的なシャボン玉溶液の成分を研究室で調べ、0.4%のラウリン酸アミドプロピルベタインが含まれた水溶液のpHを7.0に調節し、花粉の発芽などに重要であるカルシウムなどを添加したシャボン玉溶液を開発。実際にシャボン玉を使って媒介されたナシの花粉は受粉から3時間が経過しても活動量が低下せず、花粉そのままの状態や水溶液に混ぜて受粉させた場合よりも花粉の活動量が多かったことも確認されています。


そして都准教授とYang氏は、バブルガンにナシの花粉入りのシャボン玉溶液を詰め、実際にナシの果樹園でシャボン玉を散布する実験も行いました。散布から1晩経過した後に蛍光顕微鏡を用いてめしべを観察したところ、シャボン玉に含まれた花粉がうまくめしべに付着し、花粉管が伸長していたとのこと。この際、1つの花に50個ものシャボン玉を散布すると花粉の数が減少し、花粉管の長さも短くなってしまうことが確認できたことから、シャボン玉を必要以上にぶつけすぎると逆効果であることも示唆されています。

この結果を踏まえ、別の実験では1つの花に2~10個のシャボン玉を散布して経過を観察したところ、16日後にナシが果実を形成していることが確認されました。シャボン玉による受粉が行われた群が果実を形成する割合は95%であり、手作業での受粉作業とほぼ変わらず、人工的な受粉が行われなかった場合の58%よりはるかに高かったそうです。なお、シャボン玉1個当たりに含まれる花粉の数は2000個ほどであり、手作業や噴霧器を使った受粉作業よりもはるかに少ない量の花粉で人工授粉が可能になるというメリットもあります。

「複数の受粉方法の間で有意な差は観察されませんでした。実際、シャボン玉で受粉が行われたナシの果実の大きさや形は、手作業で受粉が行われたものと同じように見えます」「他のタイプのリモート受粉と比較して、機能的なシャボン玉は革新的な潜在能力とユニークな特性を持っています。たとえば、効率的かつ便利に花粉をターゲットの花に届け、高い柔軟性で損傷を避けることができます」と、都准教授はコメントしました。

by Satoru Fujiwara

最後に研究チームは、毎分約5000個ものシャボン玉を作る自動シャボン玉生成機と、GPSで制御された自律型ドローンを組み合わせる実験も行いました。造花のユリにドローンを使ってシャボン玉をぶつける方法を試みたところ、ドローンは動きが遅い方が効果的にシャボン玉をぶつけることができたそうで、秒速2mの速度で90%近い成功率を達成できたとのこと。

ハーバード大学で農薬とミツバチの健康に関する研究を行っているJames Crall氏は今回の研究結果を受けて、「シャボン玉をデリケートで小さい花と相互作用する手段として利用し、受粉のために使用するというこの方法は本当に賢いものです」と述べています。

その一方で、シャボン玉は風や雨の影響を受けやすいため、屋外で使用する際には気候への対処が一つの課題として挙げられています。また、都准教授の研究チームは、この方法だと依然として多くのシャボン玉が花に到達できずに壊れてしまうため、花粉を届ける過程で発生する廃棄物の問題に取り組む予定だとのことです。

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in サイエンス,   生き物, Posted by log1h_ik

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