サイエンス

世界で一番使われている除草剤に含まれる有効成分が「動物のけいれん」に影響を及ぼす


1970年にアメリカのモンサントという化学メーカーが開発した除草剤「ラウンドアップ」は、世界で最も売れている除草剤と言われています。そんなラウンドアップに含まれる有効成分・グリホサートが「動物のけいれん」に及ぼす影響を調べた最初の研究結果が発表されました。

Roundup and glyphosate’s impact on GABA to elicit extended proconvulsant behavior in Caenorhabditis elegans | Scientific Reports
https://www.nature.com/articles/s41598-022-17537-w

FAU | Study First to Link Weed Killer Roundup® to Convulsions in Animals
https://www.fau.edu/newsdesk/articles/weed-killer-study

ラウンドアップは非常に強力な除草剤として知られており、本来除草するべきではない作物も接触すれば枯れてしまいます。そのため、近年ではラウンドアップの有効成分であるグリホサートに耐性がある遺伝子組み換え作物が世界中で導入されており、作付面積が急速に拡大中だとのこと。遺伝子組み換え作物の作付面積に占めるグリホサート耐性作物の割合は約80%に達しており、2005年~2014年の10年間には世界全体で610万トンものラウンドアップが散布されたと推定されています。

今やラウンドアップは大規模な農園に限らず家庭菜園でも使用されており、今後も数年間にわたりラウンドアップの使用量は増加していくとみられています。ところが、グリホサートに関しては「発がん性がある」などの声が研究者から挙がっており、ラウンドアップ散布による健康への影響が問題視されています。

by Mike Mozart

また、グリホサートにおいては「神経系に対する潜在的な影響」も懸念されているとのこと。そこでフロリダ・アトランティック大学ノバ・サウスイースタン大学の研究チームは、グリホサートが動物に及ぼす影響を研究しました。論文の筆頭著者であり、フロリダ・アトランティック大学の研究者であるAkshay Naraine氏は、「グリホサートが神経系に与える影響を私たちがあまりにも理解していないことが懸念されています」と述べています。

研究チームは、モデル生物として広く使われる線虫の一種であるカエノラブディティス・エレガンスを用いて、グリホサートがけいれんに及ぼす影響について実験しました。ラウンドアップの説明では「グリホサートの濃度が0.98%になるように薄めるのが最適」とされていますが、今回の実験ではわずか0.002%と推奨濃度の300分の1のグリホサート濃度で実験を行ったとのこと。

実際にカエノラブディティス・エレガンスをグリホサートを含むラウンドアップ溶液に暴露し、電気ショックで引き起こしたけいれんから回復する様子を観察した動画が以下。

Study first to link weed killer Roundup to convulsions in animals - YouTube


うねうねと動いている5匹のカエノラブディティス・エレガンスに、3秒間の電気ショックを与えます。


すると、カエノラブディティス・エレガンスはけいれんを起こします。このけいれんから回復する時間について、生理食塩水やさまざまなバージョンのラウンドアップ溶液で比較しました。


その結果、通常の生理食塩水に暴露されたカエノラブディティス・エレガンスは、けいれんから回復するのに平均で約34秒かかりましたが、グリホサートを含むラウンドアップ溶液ではその時間が20秒以上も長くなることが判明。さらに、5分が経過してもけいれんから回復しないカエノラブディティス・エレガンスの割合は、生理食塩水の場合よりラウンドアップ溶液の方が2倍以上多いこともわかりました。


研究チームがカエノラブディティス・エレガンスの神経系にグリホサートが与える影響を調べたところ、グリホサートが神経伝達物質の抑制に関わるGABAA受容体を標的としている可能性が示唆されたとのことです。

ノバ・サウスイースタン大学の生物科学教授であるKen Dawson-Scully氏は、「これらの製品がどれだけ広範囲で使用されているかを考えると、私たちは潜在的な負の影響について可能な限り学ばなければなりません」「現在のところ、グリホサートとラウンドアップへの暴露が、てんかんやその他の発作性疾患と診断された人間にどのような影響を及ぼすのかは不明です。私たちの研究は、グリホサートへの暴露が運動に著しい障害をもたらすことを示しており、脊椎動物についてのさらなる研究を促しています」と述べました。

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in サイエンス,   生き物, Posted by log1h_ik

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