ハチやチョウと同じくらい「ガ」が花粉媒介者として重要な役割を果たしていると判明
被子植物の一部は、花の香りやミツなどで昆虫を誘引し、花粉を運ばせるという「虫媒」によって受粉を行っています。ハチやチョウが虫媒を行う昆虫の代表として知られてきましたが、「ガ」も虫媒において非常に重要な役割を果たしていると新たに明らかになりました。
Nocturnal pollinators strongly contribute to pollen transport of wild flowers in an agricultural landscape | Biology Letters
https://royalsocietypublishing.org/doi/10.1098/rsbl.2019.0877
Moths do the pollinator night shift – and they work harder than daytime insects
https://theconversation.com/moths-do-the-pollinator-night-shift-and-they-work-harder-than-daytime-insects-138472
ハチなどが行う日中の虫媒については盛んに研究が行われてきましたが、ガが行う夜間に行われる虫媒についての詳しい調査が始まったのはごく最近のこと。ロンドン大学地理学部環境変動リサーチセンターの研究チームは、イギリス・ノーフォークの農業地帯で虫媒に関する調査を実施。ミツバチやハナアブ、チョウなどの日中に虫媒を行う昆虫や、夜間に虫媒を行うガについて調べました。
調査の結果、捕獲した838個体のガのうち、381個体(45.5%)から花粉が確認され、虫媒を行っていたことがわかりました。さらに、体表の花粉を調べたところ、虫媒を行う昆虫を代表するハチやチョウと同等レベルの虫媒をガが行っているというだけでなく、虫媒を行うガの種は、虫媒を行うハチやチョウの種よりもはるかに多いと判明しました。
また、ハチやチョウは特定の植物種の花粉だけを主に運ぶという傾向がある一方で、ガは多様な植物の花粉をまんべんなく運んでいることも判明。この結果から研究チームは、ガがシロツメクサをはじめとする特定の植物の受粉において、非常に重要な役割を果たしている可能性があると指摘。ガが受粉において非常に大きな重要な役割を果たしているのにも関わらず、ハチやチョウばかりが虫媒の代表として挙げられてきたことに異議を唱えました。
今回の研究の背景には、虫媒を行う昆虫が多数絶滅しているという問題があります。イギリスのウォリングフォード水文生態学センターの研究チームは、1980年から2013年にかけて日中に虫媒を行う昆虫種の約3分の1が絶滅したという研究結果を発表しており、リンゴやラズベリーなどの昆虫が受粉に大きな役割を果たす果実などに問題が生じるのでは、という懸念が高まっています。
研究チームは今回の研究結果から、「受粉に対するガの貢献を過小評価すべきではない」と主張。サクラソウやジャスミンなどガの繁殖を促す植物を育てて、夜間に受粉に貢献してくれるガを保護する取り組みを行うべきだと述べています。
なお、今回の調査において、研究チームはガが「毛深い体毛」をしていることに注目。これまでの研究では主にチョウやガに備わる花の蜜を吸うためのストロー状の口吻(こうふん)が媒介する花粉のみに焦点が当てられてきましたが、「口吻のみならず、体毛にも多くの花粉が付着している」と指摘しています。体毛を媒介にした受粉を見過ごしてきたという従来の研究の問題点を挙げて、今回の研究ではガの体毛の花粉も採取してこの問題を解決したと報告しました。
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