サイエンス

寄生バクテリア「ボルバキア」で蚊を根絶させることに成功

by Scott O'Neill

蚊は不快なかゆみを引き起こすだけでなく、近年では日本国内でも蚊によるデング熱の媒介が危惧されており、防疫の観点からも蚊の対策が急務となっています。そんな中、蚊の繁殖をコントロールしてしまうバクテリアにより、蚊をほぼ根絶させることができたとの論文が学術誌Natureに掲載されました。

Incompatible and sterile insect techniques combined eliminate mosquitoes | Nature
https://www.nature.com/articles/s41586-019-1407-9

World’s most invasive mosquito nearly eradicated from two islands in China
https://www.nature.com/articles/d41586-019-02160-z

Parasite brings down mosquito numbers in parts of Guangzhou | New Scientist
https://www.newscientist.com/article/2210190-parasite-brings-down-mosquito-numbers-in-parts-of-guangzhou/

蚊を駆除する方法としては、これまで大量の殺虫剤を使用する方法がとられてきたほか、放射線により不妊化させたオスの蚊を放出する方法などが研究されてきました。しかし、殺虫剤を使用すると環境への負荷が大きいほか、放射線でオスの蚊を不妊化させると生殖能力も低下してしまい効率が悪いため、目覚ましい効果は得られませんでした。

by James Gathany

そんな中、ミシガン州立大学で蚊媒介感染症について研究しているZhiyong Xi教授らの研究グループは、自然界に広く分布しているあるバクテリアを利用して蚊を94%も減少させることに成功しました。研究グループが実験に使用したバクテリアはボルバキアという共生細菌で、蚊を含む節足動物の体内に高い確率で存在しています。

Xi教授らがこのボルバキアに着目したのは「オスに感染したボルバキアは、自己と同じ株に感染していないメスの繁殖を阻害する」という能力を持っているためです。ミトコンドリアのように母系伝播するボルバキアは、自己と同じ株に感染していないメスの妊娠を妨げることで有利に自己を繁殖しているのだと推測されています。

以下の図では、白い性別マークがボルバキアに未感染の個体で、赤い性別マークがボルバキアに感染した個体を意味しています。一番上の例でボルバキアに未感染のオスとメスではボルバキアに感染していない子孫が生まれるのは当然ですが、その下の未感染のメスと感染したオスの例では、子孫が生まれないことが分かります。

by Stephen L. Dobson

実験が行われた、中国の広州市にある小さな島の蚊は既に2種類のボルバキアに感染していたため、研究グループはオスの蚊をその地域に存在していない第3のボルバキア株に感染させ、1ヘクタールあたり16万匹も放出しました。これにより、その地域のヒトスジシマカを94%も減少させることに成功したということです。

ボルバキアを利用する方法は新しいものではなく、ブラジルでは2014年にデング熱の感染を抑えることを目的に、ボルバキアに感染させたネッタイシマカを放出する試みが行われていました。

伝染病を媒介する蚊の生殖能力を奪うことで個体数を80%以上も減少させる実験に成功 - GIGAZINE


しかし、この手法には、放出する蚊の中にボルバキアに感染したメスが混じっているとボルバキアの感染が拡大してしまい、繁殖を防止するメカニズムが破綻してしまうという問題がありました。メスのサナギはオスのサナギより大きいため、99%は機械的に除去することは可能だとのことですが、残り1%は人間の目視に頼らなくてはならず、コストが増大してしまうという課題がありました。

しかし、研究チームは低線量の放射線を照射することで、オスの生殖能力をほとんど保ったままメスの蚊のみを除去することに成功。これにより、「低コストかつに確実に、ボルバキアに感染したオスの蚊を大量に生産することが可能になりました」とXi氏は話しています。


ケンタッキー大学の昆虫学教授で、既にボルバキアによる駆除法を採用している害虫駆除業者MosquitoMateの創設者でもあるスティーブン・ドブソン氏は、「殺虫剤を使用する方法や、蚊が卵を産んだ水を捨てるという方法では、もはや蚊を駆除することは不可能です」と語っています。なぜなら、蚊は既に一般的な殺虫剤に耐性を持っており、また人間の目が届かないような場所でも繁殖できるからだとのこと。

オーストラリアのクイーンズランド医科学研究所の分子生態学者Gordana Rasic氏は、「ボルバキアを使用した方法は、ある地域の蚊が特定の株のボルバキアに感染していないことが条件となるため、大規模な公衆衛生対策には不向きです」と指摘しつつも、今回の研究が蚊媒介感染症のリスクを低減させる予防策として有望だと述べていました。

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in サイエンス,   生き物, Posted by log1l_ks

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