5億3000万人もの人々がロックダウンなどにより新型コロナウイルスから守られたとの研究結果
外出制限などの厳しい新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策が行われたアメリカでは、都市封鎖(ロックダウン)の是非や効果をめぐり、激しい抗議活動が展開されています。しかし、新たに発表された2件の論文により「ロックダウンなどの政策には、実際にCOVID-19の拡大を大きく抑制させる効果があった」ことが示されました。
The effect of large-scale anti-contagion policies on the COVID-19 pandemic - s41586-020-2404-8_reference.pdf
(PDFファイル)https://www.nature.com/articles/s41586-020-2404-8_reference.pdf
Estimating the effects of non-pharmaceutical interventions on COVID-19 in Europe - s41586-020-2405-7_reference.pdf
(PDFファイル)https://www.nature.com/articles/s41586-020-2405-7_reference.pdf
Lockdowns May Have Helped Prevent Half a Billion Covid Cases - Bloomberg
https://www.bloomberg.com/news/articles/2020-06-08/lockdowns-may-have-helped-prevent-half-a-billion-covid-cases
Lockdown and school closures in Europe may have prevented 3.1m deaths | Imperial News | Imperial College London
https://www.imperial.ac.uk/news/198074/lockdown-school-closures-europe-have-prevented/
WHOの統計によると、COVID-19の感染者数は記事作成時点で714万5539人に達し、死者数は40万8025人にのぼっています。こうしたCOVID-19の被害に対応するため、世界各地で大規模なロックダウンが実施されました。
カリフォルニア大学バークレー校で公共政策について研究しているSolomon Hsiang氏らの研究チームは、これまで行われてきたCOVID-19対策の効果を検証するためアメリカ、中国、韓国、イタリア、イラン、フランスで行われた公衆衛生対策についてのデータを収集しました。そして、経済政策の効果を測定するのに使われる計量経済学の誘導型モデルの手法を応用して各国で行われた対策の効果を評価し、対策が行われなかった場合の被害をシミュレーションしました。
その結果、COVID-19の発生初期に何の対策も行われていなかった場合、感染者数は1日当たり平均約38%も増加した可能性が高いことが判明。これを加味した、「対策が行われなかった場合」における検査によりCOVID-19と診断された確定症例数と検査からもれた潜在的な感染者を含む総症例数の推定結果は、以下のとおりとなりました。
中国:確定症例数3700万件、総症例数2億8500万件
韓国:確定症例数1150万件、総症例数3800万件
イタリア:確定症例数210万件、総症例数4900万件
イラン 確定症例数500万件、総症例数5,400万件
フランス:確定症例数140万件、総症例数4500万件
アメリカ:確定症例数480万件、総症例数6000万件
合計:確定症例数6180万件、総症例数5億3100万件
各種政策の中でも、特に大きな効果があったのが「ロックダウン」「自宅隔離」「企業の営業停止」でした。さらに、イタリアやイランでは「渡航制限」と「集会の禁止」も効果を示しましたが、アメリカでの効果は明確ではなかったとのことです。また、「学校の閉鎖」はいずれの地域でもはっきりとした効果は得られず、研究チームは「学校の閉鎖の影響を評価するには、より多くの調査が必要」と結論付けています。
この結果についてHsiang氏は「もし、COVID-19の感染拡大を抑える政策の展開がわずかでも遅れていれば、今日とは劇的に違った結果になっていた可能性が高いと思われます」と話しました。
また、別の研究でも同様の結果が示されています。インペリアル・カレッジ・ロンドンで感染症について研究しているSamir Bhatt氏らの研究チームは、欧州疾病予防管理センターのデータを利用してオーストリア、ベルギー、デンマーク、フランス、ドイツ、イタリア、ノルウェー、スペイン、スウェーデン、スイス、イギリスの計11カ国で2020年3~5月に発生したCOVID-19感染者数を調べました。そして、致命率や感染から死亡するまでのタイムラグから逆算した実際の感染者数から、「現行の公衆衛生対策下におけるCOVID-19感染者の推移」と「公衆衛生対策が行われなかった場合の感染者数の推移」を算出して比較しました。
その結果が以下のグラフで、赤色の部分が公衆衛生対策が行われた場合のCOVID-19感染者数、青色の部分が公衆衛生対策が行われなかった場合のCOVID-19感染者数の推移を表しています。2つの感染者数の推移を比較した結果、公衆衛生対策の効果により減少した死亡者数は310万人にのぼることが分かりました。
Samir Bhatt氏はこの結果について「今回の研究により、ヨーロッパ諸国ではこれまで推定されていたよりもはるかに多くの感染者が発生していたことが示唆されていますが、同時にロックダウンなどが行われなければ死亡者はもっと多かった可能性があることも分かりました。従って、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の広がりを抑制する措置の継続について、今後も慎重に検討する必要があります」と述べました。
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