平和裏に始まった抗議デモが暴徒化し警察と衝突してしまうのは一体なぜなのか?
2020年5月25日に、ミネソタ州ミネアポリスで警察官に拘束された黒人男性ジョージ・フロイド氏が死亡したことに端を発する暴動では、警察側と暴徒化した抗議者との間で激しい衝突が繰り広げられています。このように、「平和に始まったデモが一体なぜ暴力の応酬に発展してしまうのか?」について、政治や世論形成に焦点を当てたニュースサイトFiveThirtyEightが考察しています。
De-escalation Keeps Protesters And Police Safer. Departments Respond With Force Anyway. | FiveThirtyEight
https://fivethirtyeight.com/features/de-escalation-keeps-protesters-and-police-safer-heres-why-departments-respond-with-force-anyway/
アリゾナ州立大学の犯罪学教授であるエドワード・マグワイア氏は、過去50年近くの間に蓄積された暴動と警察の鎮圧に関する事例の(PDFファイル)研究から、「警察が最初から対暴動用の装備で身を固めて対応すると、平和的な抗議活動がエスカレートしてしまう原因となる」と結論付けています。こうした事実が判明しているにもかかわらず、相変わらず警察側が催涙弾や武器を使用して鎮圧に臨み、抗議者がこれに暴力や放火で応酬するという構図が発生してしまうのは、警察と抗議者双方に原因があるとのこと。
マグワイア氏によると、1980年代から1990年代にかけての間、警察は抗議者を挑発するような高圧的な戦略をとっておらず、別の手段で対応を図っていたとのこと。ルイジアナ州のニューオリンズとテネシー州のナッシュビルの警察署長を遍歴し、退職後はニューオーリンズのロヨラ大学で犯罪学の教授を務めているロナール・セルパス氏は、「昔はもっとシンプルなシナリオがありました。警察は抗議活動の主催者と面談し、彼らが抗議する権利を正当に行使するためのルールを一緒に作ったのです」と述懐しています。
この警察と抗議者の信頼関係が崩壊する契機となったのは、1999年にアメリカのシアトルで開催された第3回世界貿易機関閣僚会議における警察と市民団体の衝突です。この時、抗議者らが往来を封鎖して関係者の交通を妨げたり、建物の窓を破壊したりしてそれまでとは一線を画す激しい抗議活動を展開したため、閣僚会議は混乱し貿易交渉は物別れとなってしまいました。また、この時警察は催涙ガスとゴム弾を使用した取り締まりを強行しました。「シアトルの戦い」とも呼ばれるこの一件以来、警察と抗議者の間の信頼関係は失われてしまったとのこと。
by Steve Kaiser
警察が最初から重装備で警戒にあたるのは「デモが平和裏に終わるという保証はなく、抗議活動が予測不能な方向へと発展する場合があるため、適切な武力の範囲を見積ることが困難なこと」も要因の1つです。ニュージャージー州カムデンの元警察署長スコット・トムソン氏は「デモは友だちを作る場所ではないので、親しみやすい態度で登場すればよいというわけではありません」と話しています。
また、現場からは、常日頃から警察と抗議者の信頼を醸成しなければ、対話は不可能だと指摘する声もあがっています。インディアナ州エバンズビルの元警察官であるジェームズ・ジンジャー氏は「いざデモが発生してから丸腰で出て行って話が分かる人を探すのは、率直にいって得策とはいえません。豆を植える前に、まず土を耕やす必要があります」と述べました。
しかし、警察が胸襟を開く戦略に方向転換するのは容易ではありません。例えば、アトランタ警察署のエリカ・シールズ署長は5月30日に発生した暴動で、自ら半袖の制服を着て群衆の前に出て抗議に耳を傾ました。この時、シールズ署長は人種差別に苦しむアフリカ系アメリカ人の立場に共感するメッセージを発信すると共に、「重要なのは、警察官に訓練を施し、悪い警察官を排除することです」と述べて、警察官の意識改革を行う考えを示しました。
This is the kind of police chief I want... One who speaks the truth. Atlanta Police Chief Erika Shields being open & honest on live TV w/ #CBS46 about what happened in Minneapolis #JusticeForGeorge pic.twitter.com/Ij7SAI5A1x
— Emily Gagnon (@Emily_Gagnon) May 30, 2020
このシールズ署長の行動はSNSを中心に大きな称賛を集め、アトランタ警察と抗議者のわだかまりは解消に向かうかのように思われました。しかし、同日中にアトランタで「銃を所持しているとして、アトランタ警察署の警察官がスタンガンで若い大学生の男女を車から引きずり出して拘束したが、銃は押収されなかった」という事件が発生し、シールズ署長と市民の間に芽生えた信頼関係は水の泡になってしまいました。
このように、警察署の中でも意識に大きな差があるのは、階級が違う警察官同士や、幹部同士で大きな断絶があるため、組織が一丸となることができないという風土が警察署の中にまん延していることが原因だとされています。
ウィスコンシン州マディソンの元警察署長であるデビッド・クーパー氏は、抗議者の声に耳を傾け、共感を示す警察官を派遣することで警察と抗議者のコミュニケーションを図る「マディソンモデル」を提唱しています。クーパー氏は自著の中で「『俺たちがケツを蹴り上げるから秩序が守られるんだ』というような警察官を根こそぎ排除して『マディソンモデルが、民主主義を維持する方法であり、我々が期待されている仕事だ。納得できないなら、申し訳ないが他の仕事を探せ』というしかありません」と述べています。
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