謎だらけの新型コロナウイルスの特徴について他のコロナウイルスから学べることとは?
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)はワクチンや特効薬の開発が急がれていますが、2020年4月時点で起こっている流行の第1波にワクチン開発は間に合わないという見方が一般的です。まだ研究段階で未知の点が多い新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)ですが、他のコロナウイルスから学ぶ点が多いと疫学者のタラ・スミス氏が新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の特徴についてまとめています。
What Can Other Coronaviruses Tell Us About SARS-CoV-2? | Quanta Magazine
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SARS-CoV-2は哺乳類や鳥類に病気を引き起こすコロナウイルスの1種。これまでに家畜や野生動物に感染する数十のコロナウイルスが確認されていますが、ヒトに感染して一般的な風邪の原因となるウイルス株は「HCoV-OC43」「HCoV-229E」「HCoV-NL63」「HCoV-HKU1」の4種とされています。なお、HCoVは「ヒトコロナウイルス」の略。2003年に流行したSARSや2012年に流行したMERSは、より深刻な症状を発生させるコロナウイルスです。
SARS-CoV-2は多くのことが研究段階であり、過度な推測はすべきではありませんが、一方で他のコロナウイルスの歴史から学べることもあります。たとえば、MERSコロナウイルスとSARSコロナウイルスは症状が現れる前に感染が広がるようには見えませんが、SARS-CoV-2は発症前に高い感染力を持つとみられています。これは、MERSコロナウイルスやSARSコロナウイルスが下気道で増殖するにに対し、SARS-CoV-2が上気道で増殖することが理由だと考えられています。
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◆COVID-19で胃腸に症状は出るか?
COVID-19は発熱やけん怠感、せきといった症状が一般的ですが、下痢や嘔吐といった胃腸症状も報告されています。この点について、スミス氏は2003年に流行したSARSにおいても胃腸症状が報告されていたと指摘。胃腸症状はブタ流行性下痢ウイルス(PEDV)でも主要な症状であり、牛・犬・猫などに感染するコロナウイルスでもみられます。ウイルスに対する各臓器の感受性についてはまだ明らかではありませんが、胃腸症状はCOVID-19の症状の1つとして考えるべきだとスミス氏は考えています。
◆味覚の消失は他のコロナウイルス感染症でも起こるか?
COVID-19の感染者から、味覚や嗅覚の消失は多く報告されています。一部の研究では、SARS-CoV-2が中枢神経系の組織を標的とするために味覚や嗅覚が失われるという可能性を示していますが、これは神経障害を含むより深刻な結果につながるともみられています。
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SARSコロナウイルスや他のコロナウイルスの研究では、動物を対象とした実験で、ウイルスが味覚情報処理に関わる嗅球を介して脳に侵入できることが示されました。2020年4月時点で、COVID-19についても脳への影響は指摘されています。
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またウイルスが味覚ニューロンに作用していた場合、急性の感染症から回復しても、感染が他の神経疾患を引き起こす可能性が残されます。2000年の研究結果では、多発性硬化症を含む神経疾患の患者の多くは、健康な人よりも脳にHCoV-OC43が存在する可能性が高いことが示されています。
◆流行を止めるために必要なもの
感染症の終息にはワクチンが必要ですが、ワクチンの開発には年単位の時間が必要です。このため、ワクチン以外の可能性についても検討すべきとのこと。例えばPEDVは、記事作成時点では有効なワクチンが存在しますが、長い間農家はワクチン以外の方法で感染症の流行と戦う必要がありました。その解決策として利用されていたのが「自家ワクチン」です。
PEDV流行時、農家や獣医師は感染症で倒れた豚の腸からPEDVのサンプルを採取し、この腸組織をウイルスに対する免疫を備えた別の雌ブタに移しました。組織を移植されたブタは病気になる可能性がありますが、比較的症状は軽くなります。これら雌ブタの体内で作られた抗体は、胎盤や授乳を通して子ブタに与えられ、感染保護につながるとのこと。
もちろん、この方法はそのまま人間に適用できるわけではありませんが、ある意味でスウェーデンの取っている戦略と近いといえます。スウェーデンでは厳格な行動制限を設けずに、重症化するリスクが低い人が自由に動きウイルスに感染することで集団免疫を獲得するという方法を取っています。
◆ウイルスへの暴露量が重症度に影響するか?
多くの医療従事者は若く健康であるにも関わらず、COVID-19で深刻な症状を呈しています。ブタ呼吸器コロナウイルス(PRCV)の実験でも、PRCVの分離株を気管内から摂取したブタが自然に病気になったブタよりも重症化することが示されており、感染するウイルスの量が多いほど、ウイルスの複製と拡散を制御できなくなるとみられています。
◆COVID-19に2回感染することはありえるか?
HCoV-229Eを被験者に摂取させた(PDFファイル)実験では、時間の経過と共に被験者の抗体反応は急激な低下を示し、多くの被験者が1年後に同じウイルスに感染することが示されました。またSARSに関しても、患者の抗体反応は時間の経過とともに低下することがわかっています。
加えて、猫などの一部の動物において、ウイルスが持続的に感染しつづけることも確認されています。猫の場合、数カ月以上も感染状態が続くとのこと。この際、ウイルスは変異を起こし、比較的軽度な胃腸の不調から始まり、最終的には深刻な結膜炎に発展します。このような猫コロナウイルスは、非常に致死率が高いとされています。
記事作成時点でSARS-CoV-2が特定の変異を起こすという証拠は見つかっていません。一方で、偽陰性の可能性もあるものの、一度陰性反応を示した人が再び陽性反応を示したケースも報告されています。
◆SARS-CoV-2は風土病になるか?
ワクチンが開発された場合、ウイルスの進化能力が制限される可能性はありますが、封じ込めができなかった場合は、今後も人類は何度にもわたってCOVID-19の流行を経験する可能性があります。
このプロセスの中で、症状が比較的穏やかになっていくことも考えられます。HCoV-OC43は変異するうちに、宿主の重症化が困難になったといわれています。またPRCVも突然変異により致命的な腸の疾患をもたらす病原体から、穏やかな呼吸器病原体に転換しました。このような変異がSARS-CoV-2で起こることも考えられるとのこと。
一方で、2017年に同定された犬コロナウイルスの新規株は既存の犬コロナウイルスと牛コロナウイルスが合わさったものだと考えられているように、SARS-CoV-2が他のコロナウイルスと組み合わさる可能性もあります。ただし、このような出来事を人間が予測するのは不可能であり、次の流行に対処できるよう、ウイルスの監視を続けるほかないとのことです。
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