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新型コロナウイルス感染症のパンデミックの中でAmazonが市場支配力を増しているとの指摘、独占禁止法に抵触する可能性も

by MIKI Yoshihito

世界中で新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が猛威を振るう中、各国では外出規制の措置が執られており、実店舗ではなくオンラインショッピングで買い物を済ませる人が増えています。この状況下で大手ECサイトのAmazonが市場支配力を増していますが、「Amazonのやり方は独占禁止法に抵触する可能性がある」と、公益を目的とした非営利の報道機関・プロパブリカが指摘しています。

The Amazon Lockdown: How an Unforgiving Algorithm Drives… — ProPublica
https://www.propublica.org/article/the-amazon-lockdown-how-an-unforgiving-algorithm-drives-suppliers-to-favor-the-e-commerce-giant-over-other-retailers

COVID-19のパンデミックで多くの企業が悪影響を受けていた2020年3月中旬、プロテインバーを販売するRise Barという企業は、予想外の需要増加を経験しました。Rise Barは通常、Amazonの在庫を4000パッケージほど維持していましたが、Amazon側から「倉庫に保管するパッケージの在庫を1万8000に増やさないか」との提案があったとのこと。しかし、Amazon以外の実店舗に卸す在庫が不足してしまうという懸念から、Rise Barの社長であるPeter Spenuzza氏は、いきなりAmazonの在庫を増やすことには消極的でした。

そんな中、ついにAmazonのRise Bar製品が在庫切れとなってしまう事態が発生。これに伴って、Amazonのアルゴリズムが検索によって表示されるRise Barの優先順位を降格し、AmazonによるRise Barのスポンサー広告も表示されなくなり、食料品カテゴリの「ベストセラー」ランキングが約2000位から約8000位に急落してしまったとのこと。AmazonにおけるRise Barの売上は一気に25%も減少してしまったそうで、この影響を重く見たSpenuzza氏は在庫の多くをAmazonに送ることを決めました。


同様のプレッシャーをAmazonから受けているのはRise Barだけではないそうで、プロパブリカは「Amazonはパンデミックを長引かせ、独占禁止法の懸念を引き起こす可能性がある方法で競争力を強化しています」と指摘。シンクタンクのOpen Markets Instituteで執行戦略担当ディレクターを務めるSally Hubbard氏は、「Amazonは売り手やサプライヤーが要求に応じなかった場合、彼らを葬り去ってしまう力を持っています」とコメントしました。実際にはAmazonのアルゴリズムが多くの作業を行うものの、Amazonの在庫を満たすことを売り手に優先させ、ほかの小売店の在庫をなくすことも可能だとのこと。

新型コロナウイルス感染症の流行によってAmazonでは多くの家庭用品が在庫切れとなっており、多くの生活必需品や家庭用品を販売するメーカーに対し、在庫の量をパンデミック前の2倍、3倍に増やすように要求しています。もちろん、メーカー側もAmazonだけでなくほかの小売店に卸す在庫を考慮しなければなりませんが、在庫状況によってAmazonでの商品表示アルゴリズムが変動して売上が下がってしまうことを恐れて、多くのメーカーやサプライヤーはAmazonを優先しているそうです。

その結果、Amazonと競合する実店舗やほかのオンラインショッピングサイトが、商品の確保に苦しんでいるとのこと。Amazonの広報担当者は「Amazonはほかの全ての実店舗やオンラインショッピングサイトと競合する、比較的小さな勢力です」「小売業は競争の激しい業界で、顧客とサプライヤーの両方に多くの選択肢があります」と述べ、Amazonの影響力は決して大きな物ではないと主張。その一方で、Amazonのアルゴリズムについては「顧客が購入したいと思う商品、そして在庫が有る商品をフィーチャーするために設計されています」と述べ、在庫の有無で優先順位が変動することを認めました。

by www.quotecatalog.com

元Amazonのカテゴリーマネージャーであり、記事作成時点ではAmazonと共同でメーカー向けのコンサルティング企業を経営するFahim Naim氏は、一部のクライアントが「Amazonかほかの小売店か」の選択を迫られた結果、Amazonを選択したと述べています。Amazonで在庫切れが発生すると「ベストセラー」ランキングが低下し、売上に「回復することが困難」な悪影響が及ぶため、Naim氏はメーカー側に対してAmazonの在庫を優先するようにオススメしているとのこと。「Amazonはとても強力で、多くの顧客を抱えています。Amazonに在庫がないことの影響は、おそらく一部の実店舗に在庫がないことより大きいでしょう」と、Naim氏は述べています。

Naim氏のクライアントの1つである、ラスベガスに拠点を置くAlpha Pawというペット用品企業は、新型コロナウイルス感染症の流行によって中国からペット用品の原材料が入手しにくくなってしまいました。そこで、Alpha Pawは自社製品の供給を実店舗に拡大する方針を保留し、自社サイトで販売するための在庫までAmazonの倉庫に送ることにしたとのこと。さらに需要の急増を抑えるため、InstagramやFacebookでの広告を停止したそうです。Alpha PawのCEOであるRamon van Meer氏は、「Amazonの売り手にとって起こり得る最悪のことは、在庫切れになることです」「Amazonの在庫切れより、自社サイトでの在庫切れの方がマシです」と語っています。

以前からAmazonに対しては「反トラスト法(独占禁止法)に違反している可能性がある」との指摘がされており、ヨーロッパで少なくとも1つの訴訟に直面しているほか、アメリカでも独占禁止法に関する調査が行われています。プロパブリカの取材に対し、Amazonの広報担当者は独占禁止法に関する調査への具体的なコメントを拒否しました。

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by Steve Jurvetson

ジョージ・ワシントン大学の教授であり、アメリカ連邦取引委員会(FTC)の元議長でもあるWilliam Kovacic氏は、Amazonに対する独占禁止法訴訟を起こすには、会社が不適切な行為を通じて獲得・維持した市場支配力を持っていることを証明する必要があると指摘。売り手やサプライヤーがほかの小売業者よりAmazonを優先する動きは、Amazonが巨大な市場支配力を持っている兆候かもしれないとKovacic氏は考えています。

また、Hubbard氏はAmazonが持っているほかの競合他社にないメリットとして、「短期的には小売業から収益を上げられなくても問題がない」という点を挙げています。Amazonはクラウドコンピューティングなどの分野でも収益を上げているため、一時的にコストに見合わないレベルまで商品の価格を下げ、市場のシェアを奪い去っていくというやり方が可能だとのこと。


Amazonの広報担当者によると、アメリカの小売市場に占めるAmazonの割合は4%未満に過ぎず、2018年の小売売上高はウォルマートの3分の1未満だったとのことですが、Amazonがアメリカ国内のオンラインショッピング市場に占める割合は約40%に上ります。また、小売全体に占めるAmazonの割合はCOVID-19のパンデミック中に増加すると予想されているそうです。既にAmazonは「新型コロナウイルス特需」を経験しており、多くの従業員を新規雇用することも発表されています。

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また、Amazonは新型コロナウイルス感染症の流行に伴い、一部のサードパーティーが販売していた「重要でない製品」の発送を遅延させた一方で、自社ブランドの類似製品は数日以内に配送していたとの指摘もあります。プロパブリカは2020年3月下旬の調査で、サードパーティーが販売するバックパック・ワイヤレスマウス・目覚まし時計・ワイングラスなどの発送が3週間の遅れを示していた一方で、Amazonブランドの類似製品は数日で入手可能になっていたことを明らかにしたとのこと。なお、2020年4月中旬に行った再調査では、このギャップは解消されていたそうです。

Amazonの広報担当者は商品発送のギャップに関する質問に対し、「COVID-19による需要の増加に対応するために私たちが行った物流ネットワークの変更は、Amazonブランドの製品や小売業者、販売者に有利に働くような設計になっていませんでした。物流ネットワークの変更の変更は、従業員の健康と安全を確保することを助けながら、パンデミックの中で顧客に最善のサービスを提供する方法に基づいています」とコメント。

Hubbard氏はパンデミックの状況下で、外出せずに商品の購入が可能なオンラインショッピングサイトには価値があることを認めています。その一方で、「オンラインショッピングサイトが反競争的であるために悪となる必要はありません」「Amazonは価値のあるものを作成できますが、依然として競争市場をゆがめる活動に従事しています」と述べ、Amazonの姿勢を非難しました。

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in ネットサービス, Posted by log1h_ik

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