ストリーミングの効率を大幅に改善する新アルゴリズム「Fugu」とは?
新型コロナウイルスにより多くの人々が外出を控えており、その影響は映像ストリーミング配信サービス大手のNetflixが1時間ダウンするといった形で表面化しています。そのため、ストリーミング配信事業社らはビットレートや解像度を落してサービスを維持するといった対応を余儀なくされました。そんな中、映像の画質を落とすことなく、通信の効率を大幅に改善するアルゴリズムが登場したと報じられています。
Learning in situ: a randomized experiment in video streaming | USENIX
https://www.usenix.org/conference/nsdi20/presentation/yan
Computer scientists create a ‘laboratory’ to improve streaming video | Stanford School of Engineering
https://engineering.stanford.edu/magazine/article/computer-scientists-create-laboratory-improve-streaming-video
新しい通信アルゴリズム「Fugu」を開発したのは、スタンフォード大学でコンピュータサイエンスを研究しているフランシス・ヤン氏らの研究グループです。ヤン氏は、スタンフォード大学が提供するストリーミング配信サービス「Puffer」を構築し、そこで得られたデータをもとにした機械学習によりアルゴリズムを開発しました。なお、「Puffer」は英語でフグを意味する単語です。
現行の一般的なストリーミング配信には、映像を途切れなく再生することを目的としたバッファ・ベース・アルゴリズム(BBA)という技術が使われています。これは、データを一時的に格納するPCの領域であるバッファにどれだけの映像が蓄積されているかを確認し、それに応じて映像の品質を調節するというもの。
たとえば、BBAが「PCに保存されている映像が5秒分しかない」と判断した場合、BBAはPCに低品質の映像を送ってその場をしのぎます。逆に、「15秒間の余裕がある」と判明した場合は、通信に時間がかかる最高品質の映像を送ります。この方式により、映像のスムーズな再生を維持しつつ可能な限り高い画質を実現することができるので、BBAは長い間ストリーミング配信サービスに広く活用されてきました。
BBAはシンプルな一方で、洗練されていない古い方式であるため、多くの研究者がより効率的な通信アルゴリズムを模索してきました。しかし、そうした研究の大半は仮想的な環境で行われた機械学習に基づいたものだったため、実際のインターネット環境にうまく適合しない場合があるという問題がありました。
そこでヤン氏らは、実際に独自の無料ストリーミング配信サービスであるPufferを立ち上げて、6万3508人のユーザーに対し合計38.6年間分もの映像を配信。より現実的な環境のもとで得られたデータを使用した教師あり学習でディープニューラルネットワークのトレーニングを実施しました。こうして作られたアルゴリズムであるFuguは、データの送信時間などを先回りして予測することで、現在のバッファの状況だけを参照するBBAより効率的な輻輳(ふくそう)制御を行えるようになりました。
ヤン氏らが実際に、PuffeでFuguを含む5つのアルゴリズムの効果を検証したところ、Fuguは映像の画質や解像度、映像が止まる時間の短さのいずれの点でも優れたパフォーマンスを発揮しました。また、視聴者に対してランダムなアルゴリズムで映像を配信するテストでは、Pufferで配信された映像を見た視聴者は他のアルゴリズムに比べて5~9%も長い時間映像を楽しんだとのことです。
論文の共著者であるキース・ウィンシュタイン氏は「私たちは、機械学習が現実とシミュレーションの違いを乗り越える方法を発見しました。これにより多くの問題が解決されるだろうということを考えると、とてもエキサイティングです」と話しました。
また、論文の中でヤン氏らは「今回の研究により、現実のインターネット上で堅固な性能を発揮する学習型アルゴリズムを作るには、実際のストリーミング配信環境からのデータでリアルタイムのトレーニングを行うことや、そういったトレーニングに堪えるだけの洗練された構造とシンプルさを兼ね備えたアルゴリズムが必要なことが分かりました」と記して、実用的なアルゴリズムの開発には実用的な環境でのトレーニングが必須だとの知見を述べました。
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