サイエンス

海底の岩石中に1立方センチメートル当たり100億個の微生物が生息していると判明、火星に生命がいる可能性が急上昇


東京大学が主導した発掘調査と分析により、海底の地下深くにある岩の中には、1立方センチメートル当たりの細胞数にして100億個もの微生物が存在していることが分かりました。温度が低く、エネルギー源も少ないため生命がほとんどいないと考えられてきた場所で豊かな生態系が確認されたことから、同様の環境である火星にも生命がいるとの期待が高まっています。

Deep microbial proliferation at the basalt interface in 33.5–104 million-year-old oceanic crust | Communications Biology
https://www.nature.com/articles/s42003-020-0860-1

「常識覆す成果」海底地下の岩石1cm3当たりに100億細胞の微生物 - 東京大学 大学院理学系研究科・理学部
https://www.s.u-tokyo.ac.jp/ja/press/2020/6766/

Bacteria in rock deep under sea inspire new search for life on Mars | The University of Tokyo
https://www.u-tokyo.ac.jp/focus/en/press/z0508_00099.html

海の底にある海洋地殻の上部は、主にマグマが固まってできた玄武岩でできています。こうした岩石には、冷えて固まる過程で幅1mm未満の小さな亀裂が生じており、形成されてから1000万年程度までの岩石の層はまだ熱を帯びているため、亀裂に海水が染みこんで岩石と反応することで、微生物が生存するのに十分なエネルギーが供給されると推測されています。

一方、形成されてから1000万年以上が経過して冷え固まった玄武岩にはほとんどエネルギーが供給されないため、これまでは生命が豊富に存在しているとは思われてきませんでした。また、海底には堆積物が厚く積もっており調査が難しいことから、実態の解明も進んでいませんでした。

そこで、東京大学地球惑星科学専攻の鈴木庸平准教授らの研究グループは、2003~2013年に日米の主導で行われた統合国際深海掘削計画(IODP)に参加し南太平洋の海底を掘削。海底から約122m下にある3350万年前と1億4000万年前の岩石層から玄武岩のサンプルを採取しました。

by Caitlin Devor

このサンプルは、これまで豊かな生態系が存在することが確認されている熱水噴出孔などの付近で発掘されたものではないことから、「サンプルにたまたま付近に生息する微生物がまぎれこんだ可能性」はほとんどないとのこと。

また、鈴木氏は念のため人工海水洗浄と瞬間焼却という手法によりサンプルの表面を滅菌して、外部の生物による汚染を防止しました。この手法について、鈴木氏は「炙り寿司を作るようなものです」と説明しています。

鈴木氏の研究チームは次に、医師が患者の体組織サンプルを薄切りにして生体組織診断を行うことから着想を得て、スライスした岩石の内部を調査する手法を開発。岩石の薄片を特殊な樹脂で固めることにより、幅1mm未満の亀裂に生息する微生物を、そのままの状態で観察することに成功しました。

by Caitlin Devor

研究チームがサンプル中の微生物の細胞数を計測したところ、なんと岩石1立方センチメートル当たり100億個もの細胞がひしめいていることが判明しました。これは、人間の腸内と同じ密度だとのこと。一方、海底に堆積した泥の中の細胞数は、せいぜい1立方センチメートル当たり100個程度であることを考えると、岩石の中にいかに多くの微生物が生息しているかが分かります。

以下の画像の内、オレンジ色の部分は玄武岩の亀裂の中に長じた粘土鉱物です。また、緑色の部分は微生物のDNAを染色した部分です。


さらに、微生物のDNAや脂質などを解析を行ったところ、岩石中の微生物は無機物をエネルギー源とする独立栄養生物ではなく、人間などと同様に有機物をエネルギー源とする従属栄養生物であることも分かりました。

こうした発見について鈴木氏は「岩石の亀裂は生命にとって良好な環境なようです。粘土鉱物は奇跡のような材質で、地球上のどこであれ粘土鉱物があればそこに生き物が息づいていることでしょう」と説明して、岩石中に生じた粘土鉱物の豊富な栄養素が海底深くの生態系を支えたとの見方を示しました。


また、今回の発見により地球の海底だけでなく火星にも注目が集まっています。火星の表面も玄武岩でできていることが分かっているほか、最近の観測により「火星の地表のすぐ下に水がある」ことも判明しているためです。

鈴木氏は「低温で適度な塩分があり、鉄分が豊富で中性からややアルカリ性の玄武岩であることなどの条件は、火星と地球の深海とで同じです」と述べて、今回の発見がなされた海底の岩石と火星環境の類似性を指摘しました。

鈴木氏の研究チームは今後、NASAのジョンソン宇宙センターと共同で、火星探査機が火星から採取した岩石を調査する計画を策定していく方針だとのことです。

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in サイエンス,   生き物, Posted by log1l_ks

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