「火星の氷は地表のすぐ下にも存在しておりシャベルで掘り出すことも可能」とNASAの研究者が報告

by nadjadonauer

アメリカ航空宇宙局(NASA)の研究者が火星の表面近くに存在する氷についての分析結果を発表し、「火星の氷は地表のすぐ下にもあり、シャベルで掘り出すことも可能」と主張しました。

Widespread Shallow Water Ice on Mars at High and Mid Latitudes - Piqueux - - Geophysical Research Letters - Wiley Online Library
https://agupubs.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1029/2019GL083947

NASA's Treasure Map for Water Ice on Mars | NASA
https://www.nasa.gov/feature/jpl/nasas-treasure-map-for-water-ice-on-mars

NASA finds Mars water ice deposits astronauts could reach with a shovel - CNET
https://www.cnet.com/news/nasa-finds-mars-water-ice-deposits-astronauts-could-reach-with-a-shovel/

水は人間の生存や宇宙船の燃料にとって欠かせないものですが、重い上に体積も大きいため、特に地球から火星までのような超長距離を輸送するのは困難です。そこで宇宙開発を目指す研究者たちは、「火星にある氷を利用する」というアイデアを検討しています。

「火星には氷がある」という事実は、2008年に打ち上げられた探査機・フェニックスによる火星表面の掘削調査や、火星探査機によって撮影された氷が露出した地表の高解像度写真などによって確かめられています。NASAのジェット推進研究所の研究者であるSylvain Piqueux氏は、新たに「火星の地下にある氷の場所を示す地図」を作成しました。

by skeeze

火星の大気は薄いため、水や氷が大気に触れると大気圧の関係で簡単に蒸発してしまうと考えられています。そのため、火星の水や氷の多くは地下に存在するものとみられています。事前に火星のどこに氷があるのかを特定することは、宇宙船の着陸場所を選定する上で重要なポイントです。

地下に埋もれた氷は火星の表面温度に影響を与えることから、Piqueux氏はNASAの火星周回軌道探査機であるマーズ・リコネッサンス・オービターのMars Climate Sounder(火星気候サウンダ)や、2001マーズ・オデッセイのThermal Emission Imaging System(熱放射撮像カメラ)といった、熱に敏感な機器によって収集されたデータを分析。さらにこれらのデータを、レーダーの観測データや流星の衝突後に観測された氷の貯留層データなどと相互参照し、氷のある場所やその深さをマッピングしました。

Piqueux氏の研究チームが作成した「火星の地下にある氷の位置、深さマップ」が以下のもの。マップ上の色が青や紫の寒色であれば地表からわずか30cm未満の深さに氷があり、黄色やオレンジの暖色は深さ60cm以上の場所に氷があることを示しています。予想どおり極地に近い中緯度・高緯度地域に氷が集中していることがわかり、アルカディア平原をはじめとする一部の地域では、地表からほんの数cmの場所に氷が存在している模様。また、黒い部分は宇宙船の着陸に適した地表を表しています。これらの情報を基にして、白い線で囲われた部分は、「特に宇宙飛行士を派遣する上で理想的な場所」といえるとのこと。

Piqueux氏は、「この氷を掘るためにバックホーのような掘削機械は必要ありません。あなたはシャベルで氷を掘り出すことができます」とコメント。今後もPiqueux氏は調査を続け、季節によって埋もれた氷の豊富さが変化するのかどうかといった課題にも取り組んでいく予定です。