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「地球の双子」ともいわれる金星への注目度が急上昇中、金星探査船ラッシュの到来も

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金星は太陽系で太陽に2番目に近い位置にある惑星で、地球に最も近い公転軌道を持つ惑星でもあります。最も地球から近い星でありながらも、調査という点では火星に大きく遅れを取っている金星ですが、近年は地球と非常によく似た惑星として金星への注目度が上昇し、探査船ラッシュが到来する可能性も指摘されています。

Venus is Earth’s evil twin — and space agencies can no longer resist its pull
https://www.nature.com/articles/d41586-019-01730-5

金星は地球型惑星であり、太陽系内で最も地球と大きさや平均密度が似ているため、時には「地球の双子」ともいわれます。しかし、二酸化炭素の温室効果によって金星は地表の温度が最大で500度近くにまで達するため、宇宙飛行士の着陸も現実味を帯びている火星と比べて注目度の点で大きく劣っていました。


ところが、近年では各国の宇宙研究機関が金星へ注目しており、金星探査船の打ち上げを相次いで計画しています。インド宇宙研究機関(ISRO)は2023年に金星周回軌道探査船を、アメリカ航空宇宙局(NASA)も2025年に探査船の打ち上げを計画している他、欧州宇宙機関(ESA)やロシアの宇宙開発国営企業ロスコスモスなども、2020年代後半から2030年代前半にかけて金星の探査を予定しているとのこと。

これほど金星への注目が急上昇しているのは、金星の探査が生命誕生に必要な条件についての理解を深めると見られているからです。金星は地球にとてもよく似ており、かつては海が存在した可能性もあると考えられているにもかかわらず、現在では生命にとって非常に過酷な環境となっています。この金星と地球の環境を決定的に分けた原因について分析することで、続々と発見されている太陽系外惑星に生命が存在するかどうかの評価に役立つと考えられているわけです。金星を取り巻く新たな環境について、パリ天文台の研究者であるトマス・ヴィーデマン氏は、「金星にとっての新たな10年間となるかもしれません」と述べています。

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金星の探査は冷戦下で宇宙開発競争が活発だった1960~1980年代にかけて盛んでしたが、多くの探査船は金星の過酷な環境に長時間耐えらませんでした。金星の表面に着陸して最も長く活動した探査機は、ソ連が1981年に打ち上げたベネラ13号であり、その記録は127分間となっています。なお、日本でも宇宙航空研究開発機構(JAXA)が2010年に金星探査機「あかつき」を打ち上げて金星の探査を行っており、これは金星の大気について立体的な分析を行うことに貢献しています。

そんな中、ISROはレーダーを使って金星の大気を通り抜け、地表のマッピングを行う金星探査機の計画を発表。まだISROが実績の少ない研究機関であることから、科学的な面よりも工学的な面に焦点が当てられている概念実証的な探査になる可能性も指摘されていますが、金星の基本的な情報すらよく理解されていないため、どのような探査であっても金星への理解を進める重要な一歩となり得るとのこと。

金星の地表について初めて明らかにしたのは1989年にNASAが打ち上げた探査船・マゼランであり、これ以降30年にわたって金星の地表について新たに調査されたことはありません。研究者らはこの少ない手がかりから、「金星の表面ではかつてプレートが動いていたかもしれない」と推測しています。プレートが適切に動くことによって大気と地中の二酸化炭素濃度が適切に保たれ、サーモスタットのように温度が一定に保たれることから、プレートが動いていたことが判明すれば、かつて金星は今よりも生命が住みやすい環境であった可能性が高まるそうです。

また、金星の表面を覆う岩の種類についても研究者らは注目しています。玄武岩花こう岩はマグマが冷え固まってできる岩石ですが、玄武岩と違って花こう岩は大量の水がないと作られません。そのため、研究者らは金星の表面に花こう岩を発見できれば、かつて金星に大量の水があった証拠となると期待を寄せています。

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金星表面での長時間探査を可能にするため、NASAのグレン研究センターでは少なくとも60日間は金星表面で耐えられる機器を開発しました。金星探査船に搭載可能な炭化ケイ素を使用した単純な電子機器を開発したエンジニアのフィリップ・ニューデック氏は、「これは金星探査におけるゲームチェンジャーです」と述べました。

研究チームはこの耐久性の高い電子機器を使い、Long-Lived In-Situ Solar System Explorer(LLISSE)と呼ばれる静止表面探査機を既に開発済み。大きさはトースターほどに抑えられているとのことで、グレン研究センターのエンジニアであるゲーリー・ハンター氏は、「金星を探査するどのようなミッションであっても、LLISSEの使用を歓迎します」としています。

LLISSEは小さなサイズながら気温や気圧、風速、風向、太陽光の量、大気中の化学物質などを測定可能。ゲーリー氏はこれまで最も長く金星にとどまった探査機・ベネラ13号の寿命が127分だったことを引き合いに出し、「127分だけ屋外にいて、それだけで『地球の気候がわかった』と言うのを想像してみてください」と述べ、現在の金星探査状況は非常に遅れていると指摘しました。

既にロスコスモスの研究者らがLLISSEに興味を示しており、NASAと共同で金星の表面をこれまでにない長期間にわたって調査する、Venera-Dolgozhivuschaya(Venera-D)プロジェクトに取り組んでいます。アメリカやロシアに限らず、多くの研究機関が金星に興味を持っているため、今後数十年間で金星は大量の探査船による訪問を受けることになるかもしれません。

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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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