サイエンス

「新型コロナウイルスは人為的に作られた」という陰謀論に科学者が反論


アメリカやイギリス、オーストラリアの研究者らが、「新型コロナウイルスは自然環境下で進化したものと示唆されており、研究室内での何らかの操作により生み出された可能性はありません」との論文を共同で発表しました。その背景には、「新型コロナウイルスは遺伝子操作により人為的に生み出された兵器だ」との陰謀論が広がりを見せつつある現状があります。

The Proximal Origin of SARS-CoV-2 - Novel 2019 coronavirus / nCoV-2019 Evolutionary History - Virological
http://virological.org/t/the-proximal-origin-of-sars-cov-2/398

Coronavirus: Scientists hit back at rumours humans engineered the deadly contagion | South China Morning Post
https://www.scmp.com/news/china/society/article/3051167/scientists-hit-back-rumours-engineered-coronavirus

2019年12月に中国の湖北省武漢市で発見された新型コロナウイルスは、2020年2月に感染者数が1週間で6倍以上に増加したことが報告されるなど、猛威を振るっています。そんなウイルスの起源になったのはコウモリだと見られていますが、人間に感染するようになった直接の原因はこれまでヘビのほか、タヌキやジャコウネコといった野生動物が候補として挙がっているものの、記事作成時点では統一的な見解はありません。


そんな中、一部でまことしやかにささやかれているのが、「新型コロナウイルスは中国にある研究施設で生み出された兵器だ」という説です。アメリカ・アーカンソー州選出のトム・コットン上院議員は、2020年2月16日に出演したニュース番組Fox Newsで「武漢市の生鮮市場からほんの数km離れた場所に、中国で随一の『バイオセーフティーレベル4のスーパーラボ』があり、ウイルスはそこから来た可能性があります」と発言。ウイルスが実験室内で生み出されたものだということを示唆しました。

コットン上院議員が指摘した研究施設とは、武漢市武昌区にある武漢ウイルス研究所のこと。確かに、この研究所にはバイオセーフティーレベル4の格付けを受けている最高度安全実験施設の「中国科学院武漢国家生物安全実験室(通称:武漢P4ラボ)」が設置されています。

また、過去には武漢P4ラボは管理体制がずさんであると指摘されたこともあるため、新型コロナウイルスの出現と武漢P4ラボを結び付ける向きも少なくありません。これにより、アメリカだけでなく中国国内においても「新型コロナウイルスは武漢P4ラボで作られた」とする見方が広がっており、中国のインターネット上では武漢P4ラボの主任研究員の石正麗氏に対し「悪魔の母」との非難が集中。石氏がSNSで「命にかけて誓いますが、新型コロナウイルスはラボとは関係ありません」との声明を発表し、対応に追われました


こうした説に対して「新型コロナウイルスが、実験室での操作を通じて発生した可能性はありません」と真っ向から否定しているのが、スクリプス研究所の免疫学者クリスチャン・G・アンデルセン氏らの研究チームです。研究チームは、新型コロナウイルスがヒトの細胞に侵入する際に使用するたんぱく質の突起「スパイク」に着目。このスパイクを生成する遺伝子の配列が、既にヒトに感染することが知られているウイルスのものとは違うことを突き止めました。

クイーンズランド大学でウイルスのたんぱく質構造について研究しているロイ・ホール教授は、「もし新型コロナウイルスが遺伝子操作で作られたものなら、既にヒトに感染して病気を引き起こすことが判明しているウイルスの遺伝子構造が使われているはずです。しかし、アンデルセン氏らが発見した新型コロナウイルスの特徴は、未知のものでした。従って、このウイルスは自然の中で進化したものだと言えます」と述べています。

また、アンデルセン氏らの研究には携わっていませんが、フレッドハッチンソンがん研究センターのワクチン研究者トレバー・ベッドフォード氏も、「突然変異の状態を見ると、新型コロナウイルスの遺伝的な変異は、自然進化の中で生じる変異と一致しているようにみられる」と述べて、ウイルスが人工的な環境ではなく、自然環境の中で進化したとの見方を示しました。

Looking at mutation distributions, it appears that the genetic differences in #nCoV2019 are consistent with differences expected to arise during natural evolution, as I would expect engineering to have a distorted AA to nuc ratio and to focus on changing a subset of genes 9/9

— Trevor Bedford (@trvrb)


研究チームによると、新型コロナウイルスが進化した経路は、「ヒト以外の動物の体内でヒトに感染可能なウイルスに進化した」か「既に、ヒト以外の動物からヒトに感染した『progenitor virus(始祖ウイルス)』からゲノムを獲得した」かの2通りが考えられるとのこと。

研究チームは「新型コロナウイルスの起源を明らかにするには直接の感染源を特定し、そこから採取されたウイルスの遺伝子配列を調べる必要があります。新型コロナウイルスに最も密接な動物を突き止めることができれば、ウイルス研究の大きな助けになるでしょう」と述べて、直接の感染源となった動物の特定が急務だと指摘しました。

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in サイエンス, Posted by log1l_ks

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