メモ

なぜ育児にこんなにもお金がかかるようになってしまったのか?

by Felix Koutchinski

「子どもへの投資は社会保障というよりもインフラであり、将来的に税金と社会的利益という形でコストを回収できる賢い投資である」ということで、作家のデレク・トンプソン氏が高騰するアメリカの育児支出の原因と解決策について論じています。

Why Child Care Is So Expensive - The Atlantic
https://www.theatlantic.com/ideas/archive/2019/11/why-child-care-so-expensive/602599/

(PDFファイル)2013年に発表された論文によると、1970年代から2000年代までにアメリカにおける1人あたりの支出は倍増したとのこと。しかし、子育てへの支出と限定すると、その規模は比べものにならず、過去40年間で2000%も増加したことがわかっています。

これは20世紀後半に多くの女性が労働力に加わり、子どもの世話が「在宅の親」ではなく「給与による労働」によって行われるようになったことが主要な原因です。1970年代から1980年代にかけては、女性の労働参加率が最も急速に増加した期間で、育児支出の加速は最大になったとのこと。

一方で、育児支出がほかの消費財やサービスよりも高価になる速度が速いのも、原因の1つとして考えられています。アメリカ合衆国国勢調査局は、1990年から2011年にかけて中流階級の給与増加率が停滞していた時期に、育児支出は40%増加したことを明かしています。1990年代から育児支出はインフレ全体の2倍の速度で増加し、カリフォルニアでは一般的な保育所はシングルマザーの年収の約半分にまで値上がりしているとのことです。2019年時点でフルタイムの保育プログラムの平均費用は1年あたり1万6000ドル(約170万円)ほどであり、一部の州では大学の授業料よりも高額になっていることが指摘されています。

by stem.T4L

アメリカでの育児支出がこんなにも大きくなる理由として、トンプソン氏は3つの理由を提示しています。

ます1つ目の理由は、人件費にあります。育児労働者の賃金の中央値は高くないものの、労働者をアメリカ国内で用意する必要があるため、海外に工場を建てて安価な労働力を使うことができるような工業製品とは異なり、インフレによるコスト増加の影響をもろに受けるわけです。


また、育児業界は厳しく規制が行われていることも理由です。厳格な労働法を持つ州は、保育所などの施設の利用価格が高くなることが調査で判明しており、乳幼児3人に対し1人の介護者を必要とするマサチューセッツ州では育児所に子どもを預ける費用は年間170万円にも達することが判明しています。これに対し乳幼児5人に対し1人の介護者を必要とするミシシッピ州では5000ドル(約54万円)未満です。介護者の給与は低いため離職率が高く、企業は常に労働者の訓練に対し支出し続ける必要があります。さらに、育児施設は子どもを預ける親からの訴訟に対処するための弁護士費用や、労働者の損害を補償するための保険費用なども支払わなければならず、これらが育児サービスを高価にする一因となっているそうです。

3つ目の理由として、不動産の問題があります。高額の育児施設は商業地区や高級住宅地の近くにあり、土地代や不動産代が非常に高くなります。また、法律により育児施設は子どもを遊ばせるのに十分な広さが必要となるため、運営が苦しいからといって施設の規模を縮小することもできません。

by Gautam Arora

このような背景を受け、Googleなど一部の民間企業は従業員に保育所を提供するといった施策を開始しています。また、保育園のAirbnbともいえるWonderschoolというサービスも生まれています。一方で、国家的な解決策はいまだ存在しません。これまでの科学研究から、子どもが生まれてから最初の5年間は論理と言語スキルの発達において非常に重要であることが判明しており、ヨーロッパの中には幼児のケアと教育にアメリカの(PDFファイル)3~5倍の予算を費やしている国も存在します。

アメリカの子どもは幼稚園に入学してから州立大学やコミュニティカレッジを卒業するまでに公的補助金を受け取ることができますが、生まれてから5歳の誕生日まで、公的な扶助を受けることができません。若い両親はキャリアを確立しておらず、最も資金を必要としている時に、子育ての大きな負担を強いられることになります。

2015年の経済顧問評議会では幼児教育に1ドル(約110円)を費やすごとに8.6ドル(約930円)の社会的便益が得られることが示されており、ハーバード大学の研究からも、低所得の子どもの健康と教育へ投資することは歴史的にみて(PDFファイル)最大の価値を持っていることが示されています。しかし、政府が育児に介入することに対する批判も存在します。この理由の1つは「政府が介入することで子どもと親の絆が弱まる」といった内容ですが、他方で、子どもをケアするために必要な介護人が不足しており、質の高いシステムを作るには何年もかかるという批判もあります。実際に、安価な育児へのアクセスを拡大しようとしたカナダのケベックでは、母親の労働率を高めることに成功した一方で、プログラムを通じて育った子どもは「自己申告での健康や人生への満足度が著しく低下した」と報告されています。

それでも、国による育児への介入は重要だとトンプソン氏は述べています。育児への支出は社会保障というよりもインフラに近く、税金と社会的利益という形でコストを回収できる賢明な投資とのこと。両親が財政的な困難にある現代において、アメリカが未来で成功を収めるためには、子どもへの投資を行うほかないとトンプソン氏は主張しました。

by S&B Vonlanthen

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in メモ, Posted by darkhorse_log

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