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SpaceXの衛星インターネット「Starlink」が田舎の公立学校で導入され始めている


イーロン・マスク氏が率いる宇宙開発企業のSpaceXは、人工衛星を用いた衛星インターネットサービス「Starlink」を展開しています。アメリカのニュース制作会社・NBCニュースは、工事を必要とせずアンテナを設置するだけでインターネットを利用できるStarlinkが、アメリカの田舎にある公立学校と手を結び始めていると報じています。

Elon Musk’s satellite internet flies under the radar at public schools nationwide
https://www.nbcnews.com/tech/internet/elon-musks-satellite-internet-flies-radar-public-schools-nationwide-rcna44318


Starlinkは大量に打ち上げられた専用人工衛星と地上のアンテナを利用し、インターネットインフラが十分に整っていない遠隔地や船舶飛行機などにインターネットサービスを提供することが可能です。また、ロシアの侵攻を受けたウクライナでもStarlinkが利用可能となって話題を呼びました。

衛星インターネットサービスは、国土が広くインターネットインフラが整っていない地域も多いアメリカにおいて大きな需要があります。インターネット業界の研究団体であるBrodbandNowが2021年に行った調査によると、アメリカでは4200万人もの人々がライブストリーミングやビデオチャットなどが利用できるブロードバンドインターネットにアクセスできていないとのこと。

通常、こうしたインターネットインフラのギャップを埋めるためには、遠隔地まで新しいケーブルを施設するための長期的な工事に投資する必要があります。しかし、こうしたインフラ工事には長い時間がかかるため、即効性のある解決策とはなりません。


そんな中、2020年に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックが発生すると、多くの学校は閉鎖されてリモート教育への切り替えを余儀なくされました。しかし、遠隔地に住んでいて十分なインターネットアクセスを持たない人々にとっては、インターネットを通じてリモート授業を受けることは容易ではありません。そんな人々が十分なインターネットアクセスを手に入れる最速の選択肢が、アンテナを設置するだけでいいStarlinkでした。

記事作成時点ではアリゾナ州・ニューメキシコ州・ノースカロライナ州・オハイオ州・サウスカロライナ州・テキサス州・バージニア州の公立学区が、Starlinkの導入を発表するかすでに導入しているとのこと。学校の高速インターネットアクセスをサポートする非営利団体・EducationSuperHighwayのCEOを務めるEvan Marwell氏は、「Starlinkは明らかに多くの場所、特にアメリカの農村部でより多くの選択肢を提供しています」「Starlinkが解決策となる世帯が100万か、それ以上あっても驚きません」と述べています。

Starlinkは2022年8月、「条件を満たすインターネット速度を実現できていない」として、アメリカ連邦通信委員会(FCC)から9億ドル(約1300億円)規模の補助金申請を却下されて打撃を受けました。そんな中、遠隔地の学校と提携して多くの住民にインターネットサービスを提供することは、Starlinkにとっても恩恵があるとのこと。


しかし、学校とStarlinkとの提携で問題となるのが、「Starlinkは持続可能なソリューションになり得るのか?」という点です。Starlinkの利用にはアンテナを含む機器一式を599ドル(約8万6000円)で購入した上で、110ドル(約1万6000円)の月額料金を支払う必要があります。急浮上したインターネットインフラのギャップを埋めるため、最初の機器購入や一時的な料金支払いは行政が負担したとしても、料金を永続的に行政が負担することは困難です。

たとえばバージニア州南西部では、複数の郡にまたがった約400世帯で合計640人の生徒が地元の学校システムを通じ、Starlinkの衛星インターネットサービスを利用しています。バージニア州ワイズ郡の学校テクノロジーディレクターを務めるScott Kiser氏は、「私たちは生徒のためのソリューションを今すぐ必要としていました。陸上の光ファイバーが敷設されるのを待つ余裕はありませんでした」と述べています。

バージニア州政府はこの費用を負担するために50万ドル(約7200万円)を支出し、各郡から拠出された費用も利用して2年間分の契約を結びました。しかし、この契約が終わった後は再び料金を支払わないとインターネットを利用できないため、行政が新たな財源を見つけるか、各居住者が自分たちで月額料金を支払わなくてはなりません。

また、ニューメキシコ州北部のキューバ独立教育学区では約400世帯で700人の生徒が、連邦政府のCOVID-19関連救済金を用いてStarlinkサービスの利用を開始しています。中には学校から50マイル(約80km)以上も離れた場所に住む生徒もいることから、高速なインターネットへのアクセスは非常に重要です。しかし、技術ディレクターのTim Chavez氏は「現在Starlinkインターネットにアクセスしている生徒は、必ずしも裕福とは限りません」「私たちが撤退して資金の負担が彼らにのしかかった場合、サービス利用を継続できるかどうかわかりません」と述べました。


StarlinkのセールスマネージャーであるBianca Reinhardt氏はNBCニュースのインタビューで、COVID-19のパンデミック以来、学区や郡との提携はサービスの優先事項になっていると認めています。「学校は実際に閉鎖されたので、生徒が学校に参加するためには自宅にインターネットが必要となりました」「そのため、私たちは学区と協力して、生徒が自宅からインターネットに接続できるようにすることに集中しています」と、Reinhardt氏は述べています。Starlinkのビジネス運営上級ディレクターであるLauren Dreyer氏は、「私たちは企業として、常にコストを引き下げようとしてきた実績があると思います」と述べ、いずれStarlinkのサービス料金が引き下げられる可能性があると示唆しました。

もちろん、遠隔地にも陸上インターネットインフラが整えば、インターネット速度や料金との兼ね合いでユーザーは他の選択肢に乗り換える可能性もあります。しかし、一部のStarlinkユーザーはインターネット速度に十分満足しているとのこと。バージニア州テイズウェル郡でStarlinkを利用するBrandon Honaker氏は、「もし光ファイバーがこの地域まで拡張されたら、価格次第では乗り換えも検討します。しかし正直なところ、Starlinkは私たちが必要とするすべてのことをやってくれます」とコメントしました。

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in ネットサービス, Posted by log1h_ik

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