月のレゴリスから酸素を抽出する効率的な方法を科学者が開発

by NASA's Marshall Space Flight Center

近年はアメリカ航空宇宙局(NASA)が2024年までに人間を再び月面に送る「アルテミス計画」を発表するなど、月へ進出する気運が高まっています。月面は人間の生存に適した環境ではありませんが、研究者らはさまざまな方法で月の環境を改善する方法を模索しており、「月面の堆積物(レゴリス)から酸素を効率的に抽出する方法」を、科学者が開発しました。

Proving the viability of an electrochemical process for the simultaneous extraction of oxygen and production of metal alloys from lunar regolith - ScienceDirect
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0032063319301758

Scientists Have Figured Out How to Extract Oxygen From Moon Dirt
https://www.sciencealert.com/scientists-have-figured-out-how-to-extract-oxygen-from-moon-dirt

酸素は人間が生きるために必要不可欠なものであり、月には酸素がないと思われがちです。しかし、実は月の表面を覆っているレゴリスには多くの酸素原子が含まれているため、レゴリスから酸素原子を抽出することで、人間にとって住みやすい環境を整えることができる可能性があります。

月で採取されたレゴリスのサンプルを分析した結果から、レゴリスの重量のうち40～45％が酸素原子であることが判明していますが、酸素原子を利用する上で大きな問題があるとのこと。グラスゴー大学の化学者であるBethany Lomax氏は、「酸素は非常に貴重な資源ですが、酸化物として鉱物やガラスと科学的に結合しているため、すぐに使用することができません」と指摘しています。

そこでLomax氏らの研究チームは、レゴリスから酸素原子を抽出する方法を開発して実験を行いました。実際のレゴリスサンプルを実験に使用することはできませんが、分析されたレゴリスの科学的特性や粒子サイズを地上の物質で再現した「模擬レゴリス」を実験に使用したとのこと。

by Wikimedia Commons

模擬レゴリスから酸素を抽出する以前のアプローチでは、水素原子を使って酸化鉄を還元して水を生成し、次に水を電気分解して酸素を分離するといった手法が用いられていました。しかし、これらの技術は過程が複雑な上に効率が悪いか、効率を高める場合はレゴリスが溶けるほどの高温に熱する必要もあるため、あまり実用的ではなかったそうです。

研究チームは化学還元により水を生成するプロセスを省き、粉末状の模擬レゴリスを直接電気分解する手法を採用しました。「酸素抽出は溶融塩電解という手法を用いて行われました」とLomax氏は述べており、従来の手法よりも高い効率を達成できるとのこと。

Lomax氏らはまず模擬レゴリス粉末をメッシュで裏打ちされたバスケットに入れ、電解質として塩化カルシウムを添加し、混合物を摂氏950度に熱しました。そして電流を流すと電気分解が起こり、酸素が抽出される仕組みとなっています。

by Lomax et al

実験の結果、最初の15時間で75％の酸素を抽出できたそうで、およそ50時間で模擬レゴリス粉末から96％の酸素を抽出することに成功しました。抽出された酸素の3分の1が再利用可能な状態で検出され、残りは反応容器の腐食により失われたそうですが、それでも従来の手法より高い効率で酸素を抽出することに成功しています。なお、腐食により抽出した酸素が失われてしまうという問題は、手法の改良によって解決可能とみられています。

また、模擬レゴリス粉末から酸素が除去された結果、残った物質が合金として生成されたとのことで、合金を別の目的に再利用することも可能です。欧州宇宙機関(ESA)の月戦略責任者のJames Carpenter氏は、「このプロセスにより、月面の開拓者は燃料および生命維持に必要な酸素へアクセス可能となるほか、現場製造用の幅広い合金にもアクセスできます」とコメントしました。

by NASA's Marshall Space Flight Center