研究者は「月面基地」をどのように建設しようと考えているのか?
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人類は1969年に打ち上げられたアポロ11号によって初めての月面着陸を果たし、その後も数回の月面着陸を実現させてきました。予算などの問題もあり、1972年に打ち上げられたアポロ17号を最後に人類は月面への着陸を行っていませんが、近年になってトランプ大統領が月面基地建設を指示するなど月面基地建設計画が現実味を帯びており、研究者らは基地建設のためにさまざまな構想を練っています。
How to build a Moon base
https://www.nature.com/articles/d41586-018-07107-4
ドイツ・ケルン近郊には、欧州宇宙機関(ESA)が建設した1000平方m以上にもなる「人工の月面」が存在しています。数百万ユーロ(数億円)もの費用で建設されたこの施設のプロジェクトマネージャーであり、宇宙飛行士でもあるマシアス・マウラー氏は、「月に関する技術をテストするためのエキサイティングな場所」だと語りました。
マウラー氏は2018年の時点で48歳ですが、「定年退職を迎える前に、私は月面を歩けるかもしれないという希望を捨てていません」と語っています。事実、2017年にトランプ大統領が「月面基地建設」を指示するなど、世界的な潮流はこれまで「コストがかかりすぎる」として敬遠してきた月面着陸や月面基地建設を行う方向に進みつつあるとのこと。
by Luna facility brings Moon to Earth / EAC
世界的に月開発への関心が高まっているとはいえ、今後数年間は月面に到達するのはロボットのみになると見られています。中国やインド、ロシアは2020年代前半までに宇宙探査用装置を打ち上げる予定としており、NASAやESA、ロシアや日本の宇宙機関は2020年代半ばまでに月の周回軌道上に宇宙ステーションを打ち上げる計画を進めており、トランプ大統領はNASAの宇宙開発に今後5年間で27億ドル(約3000億円)もの資金を費やす方針です。
また、研究者らは月で宇宙開発に必要な資源を採掘する方法についても研究を進めています。研究者の中には、「月の氷から貴重なエネルギー貯蔵媒体である酸素と水素を取り出し、宇宙での給油所にする」という考えを持つ人も多いそうです。コロラド鉱山大学で航空科学の教授を務めるジョージ・ソワーズ氏は、「水は宇宙空間における油であり、月面には経済的に利用可能な量の水があるという証拠も見つかっています」と語っています。
アポロ計画による月面着陸が行われていた当時は、着陸した人々の証言や採集したサンプルによって「月の表面は乾燥した不毛の土地だ」とされていました。ところが、近年になって月の表面には岩に混じって氷が存在しているという証拠が発見され、従来の考えが見直されています。インドが2019年に打ち上げを予定している「チャンドラヤーン2号」や、ロシアが2022年の打ち上げを計画している「ルナ-27」といった探査船は、月面の氷や水についての探査を行うとのこと。
ソワーズ氏によれば、4人が居住する月面基地を建設した場合、1年間に必要な水の量は数千トンにも及ぶ模様。しかし、ソワーズ氏は「近年のデータから推測すると、月の極地には100億トンもの水が存在していると考えられる」と述べ、月で宇宙飛行士が必要な水が調達できる可能性があるとしています。ソワーズ氏は月で採掘される水の大部分は酸素と水素に分離され、燃料として使用されるだろうと考えています。月の重力は地球よりも少ないため、地球よりも月を発射地点として長距離宇宙飛行を行ったほうが、はるかに低コストで宇宙飛行が可能だそうです。
月に氷があるという直接的な証拠が見つかる - GIGAZINE
月から水を採取するという計画の上で問題となるのが、採取に必要なエネルギーの確保です。氷は非常に寒冷な気候である月の極地に集中して存在しているとされていますが、掘削機械で地面を掘り進むには熱とエネルギーが必要です。そこで研究者らは、太陽の光をクレーターの上部に設置した鏡に反射させ、反射光を掘削機械に照射して太陽エネルギーを利用する計画を立てています。また、採取した水は太陽光発電した電気を利用して水素と酸素に分離し、燃料電池のエネルギーや掘削機械の推進剤として利用することが可能とのこと。
氷を採取することが困難な場合でも、月面には豊富な資源が存在しています。レゴリスとも呼ばれる月面の堆積層にはシリカと金属酸化物が含まれています。レゴリスの質量のうち、実に43%は酸素であるともいわれており、月面の至る所にあるレゴリスから酸素を取り出してエネルギーとして利用可能。副産物として希少金属を取り出すこともできるかもしれません。
一方でレゴリスから酸素を取り出すためには、氷を加熱するよりも大量のエネルギーを必要とします。科学者らは太陽光を巨大な鏡で集めて炉の表面を熱し、レゴリスを900度以上に熱して酸素を取り出す方法を考えているとのこと。2010年にハワイで行われた実験によってこのプロセスが実行可能であると証明されており、マウラー氏は「原理的な問題は証明済みで、数年以内に準備が整うでしょう」と語っています。
また、月面の氷やレゴリスからエネルギーが取り出せなかった場合でも、科学的な実験のために前線基地が建設される見込みはあるとマウラー氏は考えています。「経済的な問題から時間はかかるかもしれませんが、南極の基地建設などと同様に、純粋な学術的興味から計画が実行されるでしょう」と、マウラー氏は述べました。月に基地を建設することで月の研究が飛躍的に進歩し、月のクレーターを調べることで太陽系の形成システムが明らかになったり、月面の地質学的調査を行ったりできる可能性があります。
月の大気や隕石などから宇宙飛行士の身を守るため、月にはシェルターとなる建造物が必要です。月に存在する天然の穴や崖といった地形を利用する案もある一方、ドイツ航空宇宙センターでは、レゴリスからレンガを生み出して建造物が作れるのではないかと研究を進めています。レゴリスの粉を堆積させたシートに1000度以上の熱を与えることで固め、3Dプリンターのようにシートを堆積させて石こうと同程度の強度を持つレンガを作り出せるとのこと。
マウラー氏は月面基地の建設について、おそらく技術的な欲求ではなく、政治や経済的な力によって推進されるだろうと考えています。「それらの要素が両立した場合、人間が月面で半永久的に生活することも不可能ではありません」と、マウラー氏は語りました。
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