自殺者数を40%引き下げた取り組みと、その過程で判明した知られざる「自殺者の傾向」とは?
By rebcenter-moscow
現代では世界各国が自殺者の増加に苦しんでおり、アメリカでは近年25%も自殺率が増加しています。そんな自殺者の増加傾向に反し2012年から2018年にかけて自殺者数を40%も引き下げたというアメリカのオレゴン州ワシントン郡で、自殺防止プロジェクトを主導したキンバリー・レップさんの活動が注目されています。
Suicide Data Reveal New Intervention Spots, Such as Motels and Animal Shelters - Scientific American
https://www.scientificamerican.com/article/suicide-data-reveal-new-intervention-spots-such-as-motels-and-animal-shelters/
人が自ら死を選ぶことの背景には、さまざまな原因と複雑な過程が横たわっています。2012年にワシントン郡当局から自殺に関する調査を任じられたレップさんは、自殺に関わりのある検死官や精神科医ではなく微生物学者です。専門外の案件の担当となったレップさんは、まずアメリカ疾病予防管理センターが公開している自殺に関する統計データの解析を始めます。統計データを読み込んでわかったことは、年配の白人男性が最も自殺率が高いということ。しかし、「統計データの情報だけでは何の役にも立たない」とレップさんは考えました。
そこでレップさんは郡の検視官に同行して、実際に起こった死亡事件の死因などの調査について学ぶことを決意。レップさんは1年以上にもわたって同行を続け、政府が公表している統計には含まれていないような数々のデータについて実地に学びました。
レップさんは、死亡事件に関する実際の知見を元に、死亡者に関して「年齢」「死因」「アルコール乱用の証拠があるか」「人に暴力を振るった経験があるか」「健康に問題を抱えていたか」「失業していたか」を検視官に記入させるチェックリストを作成。さらに自殺の原因を詳しく追跡調査するプログラムも始め、郡内の死者に関しての情報収集を行いました。調査の結果判明したこととは、モーテルやホテルなどの宿泊施設での自殺の発生数が非常に多く、自殺した人は死の1週間以内に立ち退きや差し押さえ、ないしは往診を受けていたことがわかりました。また、自殺する可能性が高い人は自分のペットを動物保護施設に定期的に送っていることも判明しました。
By Pressmaster
調査に関して、レップさんは「点ではなく面で捉えること」がアイデアの基礎になっていると語ります。自殺者を個別に特定することはほぼ不可能ですが、「自殺しやすい人の傾向」ならばわかるということです。ワシントン郡の自殺予防コーディネーターであるデブラ・ダーマタさんは、レップさんの調査結果を受け、これまでは教師やカウンセラー、牧師などにしか提供されてこなかった「自殺予防ガイドライン」をホテルの受付員や清掃員、動物保護施設の職員などにも提供し、「自殺者が最後に会う可能性が高い人」に対して「自殺者を見分ける方法」を教示し始めました。
ダーマタさんによると、ワシントン郡内で自殺予防の訓練を受けた人は2014年以来4000人以上にものぼるとのこと。こういった訓練に加えて、自殺などの直接的な引き金になりやすい立ち退きや差し押さえの際に、記入書類に相談窓口や地元の精神科の電話番号を表記したり、医療機関に患者の自殺を予防する手続きを追加しました。
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その結果、オレゴン州ワシントン郡は人口60万人と母数が少ないものの、郡内の自殺者数は40%減少したそうです。レップさんは「郡内で得られたデータがそのまま他の地域に当てはまるとは限りません」と語っていますが、手法自体はどこでも有用です。レップさんの取り組みを報じたサイエンティフィック・アメリカンは、アメリカの他の地域でもレップさんの自殺予防策から学び、新たなプロジェクトを開始していると述べています。
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