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サイエンス

ゾウがガンになりにくい仕組みが科学的に明らかに

by James Hammond

ゾウはガンになりにくいことが知られており、科学者たちはその仕組みを解き明かそうと長年研究を続けてきました。シカゴ大学の研究者たちによる最新の論文によると、ゾウは死んだ遺伝子を復活させて「ガン細胞を殺す」というタスクを割り当てることで、腫瘍を破壊するという驚がくのメカニズムを有していることが明らかになっています。

A Zombie LIF Gene in Elephants Is Upregulated by TP53 to Induce Apoptosis in Response to DNA Damage: Cell Reports
https://www.cell.com/cell-reports/fulltext/S2211-1247(18)31145-8

Elephants Hardly Ever Get Cancer, And We May Finally Know Their Secret
https://www.sciencealert.com/lif6-pseudogene-elephant-tumour-suppression-solution-petos-paradox

動物は細胞が多いほどガンを発症するリスクが増えると考えられており、例えば大型犬は小型犬よりもガンになりやすい傾向にあることが研究により明らかになっています。しかし、異なる種の動物を比較するとその概念は成り立たないことが明らかになっており、体の容積や相対的寿命とガンの発症率の間には相関関係がないそうです。「細胞が多いほどガンの発症率が高くなるはずなのに、体の容積とガンの発症率には相関関係がない」という矛盾した事実が多くの科学者たちを混乱させてきており、その最たる例がゾウでした。

2015年に公表された研究から、体の大きなゾウにおけるガンによる死亡率はわずか5%弱であることが明らかになっています。「細胞が多いほどガンの発症リスクが高まる」という理論から考えると、巨体のゾウは人間よりもがん発症のリスクが高いはずですが、実際は人間のガンによる死亡率(11~25%)よりもはるかに低い数字が出ており、ゾウがガンに対する強い耐性を備えていることは明らかです。2015年の研究では、ゾウがガン形成を抑制するp53遺伝子(TP53)の大量のコピーを持っており、これがDNAの損傷を発見し、細胞の修復や閉鎖を指示するための物質を生成していることが明らかになっていました。

人間を含めた大部分の哺乳動物は、p53遺伝子の一部が変化したコピーを2種類しか持っていないのですが、ゾウはなんと38種類も持っているため、ガンを早期発見して即座に対処することが可能であると考えられていました。

by Will Shirley

マウスを使った実験なら体内でどのようなことが起こっているのかを確かめることは簡単ですが、ゾウのような大型の動物でがん抑制遺伝子がどのように働くのかを理解することは容易ではありません。そこで、遺伝子学者のビンセント・リンチ氏と研究チームは、ゾウや同じ祖先を持つとされるマナティーのような動物の組織サンプルを採取し、DNA細胞に損傷を加える発ガン性物質を使って組織サンプルがどのように変化するのか観察しています。そして、観察の結果についてリンチ氏は「ゾウの細胞はDNAが損傷するとすぐに死んでしまうので、ガンになる危険がありませんでした」と語りました。

観察の結果、研究チームはガン抑制因子として働くこともできる白血病阻止因子(LIF)に目を向けます。ゾウの遺伝子を調査したところ、p53遺伝子と同様に、多数の「LIF遺伝子のコピー」が存在していることが明らかになります。

ゾウは「LIF遺伝子のコピー」のひとつであるLIF6を持っており、これは通常は非活性化しています。このLIF6はp53遺伝子と密接な関係を持っており、「p53遺伝子がLIF6を活性化させる」そうです。活性化したLIF6がガン抑制因子として働くことで、ガン細胞のアポトーシスを誘発させ、発ガン性物質によりDNAが損傷した細胞を積極的に細胞死させるので、体内でガン細胞が広まることは防がれるというわけです。


なお、自然界に生息する動物の中でガンに強い耐性を持つのはゾウやゾウに近い種だけではなく、メクラネズミも独自の秘密を持っています。

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in サイエンス,   生き物, Posted by logu_ii