なぜ「がん」は風邪や伝染病のように治せないのか?
by Simon Fraser University
私たちの体から自然に発生する病気「がん」は、日本人の2人のうちに1人が何らかのがんにかかるといわれるほど実は身近なところにある病気ですが、「がん細胞が免疫からどういう仕組みで生き残り、なぜ治すのが難しいのか?」という原因をよく知らない人は多いはず。その原因について、幅広い分野に関する専門家の講演を無料で公開している「TED」から、「がん」を治療することの難しさを描いたアニメーションが公開されています。
Why is it so hard to cure cancer? - Kyuson Yun | TED-Ed
https://ed.ted.com/lessons/why-is-it-so-hard-to-cure-cancer-kyuson-yun
TEDが公開している講演の内容は、以下のムービーで見ることができます。
Why is it so hard to cure cancer? - Kyuson Yun - YouTube
人類は高度な技術でさまざまな問題を解決してきました。例えば、世界中に恐怖を振りまいた天然痘を克服し……
ヒトゲノムを解析して人間の遺伝子に刻まれた秘密を明らかにしました。
しかし、数千億円以上の費用をかけて探しても解決しない問題があります。
それは世界中で数多くの人々と家族を悩ませている病気「がん」の解決方法です。
がんは、遺伝子のダメージや突然変異などが重なることが原因で、健康な細胞が「がん細胞」に変身するという病気。
多くの場合は細胞自身がダメージを修理するか、自滅する道を選ぶので、がん細胞に変身することはありません。
しかし、まれにがん細胞になるものが生まれます。そしてこのがん細胞が成長すると近くの細胞や……
離れた臓器にまで転移することもあります。一度転移したがんは多くの場合、治療することがほぼ不可能なものになってしまいます。
がんが発生すると、ほとんどのケースではがん細胞が存在する腫瘍に外科手術や放射線療法を施して大半を除去し……
残りのガン細胞に対し、化学療法やホルモン療法、免疫療法、そして分子標的治療などを組み合わせた処置を行います。
すると患者はガンから解放されますが……
この治療法では成功率が100%ではないのが現状です。
なぜ100%ではないのか、それは、実は「がん」という病気は単一の病気ではなく、100種類以上の症状がまとめて「がん」と呼ばれているからです。また、がんは驚くほど「複雑」な特性であることです。そして、すべての種類に効く魔法の特効薬は、まだありません。
がん細胞が持つ複雑さを3つ挙げると、1つめとして、腫瘍の中でがん細胞の突然変異が増えていくと「がん細胞は異なる特性をもつサブクローンを生んで増殖する」というものがあります。
この特性は「クローンの異質性」または「クローンの不均一性」と呼ばれ、治療を難しくします。
例えば、サブクローンAに効く治療薬でも……
サブクローンBには治療薬が効かないという特性です。
複雑さの2つめは、「周囲の健康な細胞に対して、自分に都合の良い情報を流す」というものです。
がん細胞が生きていくには、普通の細胞と同じように「栄養」が必要です。がん細胞は、普通の細胞に「腫瘍と血管をつなげる」ように都合の良い情報を流します。すると、つながった血管を使い健康な細胞から栄養を横取りし、さらに廃棄物を流して処理します。
さらに、体の免疫のシステムに対しても情報を送ります。
体の免疫の機能を低下させる情報を流すことで、異物である自分自身が免疫系に攻撃されないようにするのです。
複雑さの最後3つめは、除去されても腫瘍ごと復活させる「がん幹細胞」です。
理論上、がん細胞は治療をすると、腫瘍の残りは検出できないほど縮みます。しかし、がん幹細胞が1つ残っていると、そこからまた新たながん細胞を作りだしてしまいます。
まれに、化学療法も放射線治療も効かない「特別な特性を持ったがん細胞」が誕生することもあるので、多くの研究者からは「がん幹細胞を根絶する手段が必要」と言う声が挙がっています。
また、がんの「研究方法」も根絶を難しくしている理由の1つです。通常のガン研究は、研究室で人間のガン細胞を培養して実験を行います。
この方法で、がんの特性に多くの発見がありました。
しかし、研究室で増やしたがん細胞には「複雑さ」がありません。例えば、ある薬が研究室では効果があったとしても……
実際の患者の体にあるがん細胞には効果がないことが頻繁にあります。
科学者はがん細胞の特性を打ち破るために、がんが持つ複雑な構造に合わせて調整できる観測方法と、治療の手段を生み出さなければいけません。
もしも、科学でこれらの原因を解決しても、がん細胞は新しい適応方法を使い、新しい問題に直面するかもしれません。
しかし、良いニュースがあります。日々科学技術が進歩しているということです。統計上、ほとんどの種類のがんに対する平均死亡率は、1970年代から著しく低下して今も下がり続けています。新たな科学知識がガンに対する武器となっていくのです。
・関連記事
精子に抗がん剤をがん腫瘍まで運ばせることに成功 - GIGAZINE
TEDの高画質ムービーと字幕を無料でダウンロードしてオフラインで再生する方法まとめ - GIGAZINE
がんや糖尿病よりも精神障害になる可能性の方が高いと判明、「精神障害になりにくい人」は何が違うのか? - GIGAZINE
血中を移動して正確にがん腫瘍を攻撃できるナノロボットの開発に成功 - GIGAZINE
人間とチンパンジーのDNAは99%一致するというのは本当なのか? - GIGAZINE
がんにならず長寿で知られるハダカデバネズミは熱からくる痛みを感じないと判明 - GIGAZINE
日本人で初めて実名で個人全ゲノム配列を公開、ネットからダウンロード可能に - GIGAZINE
「がん」がヒトの進化の過程で作られてしまった経緯とは? - GIGAZINE
・関連コンテンツ