サイエンス

スマートフォンでマウスの脳を制御できるワイヤレスデバイスが開発される

by Gerd Altmann

ワシントン大学医学部と韓国大田科学技術大学院の研究チームは、脳に埋め込んだワイヤレスデバイスを無線通信規格のBluetoothでコントロールし、マウスの行動を制御することに成功しました。

Wireless optofluidic brain probes for chronic neuropharmacology and photostimulation | Nature Biomedical Engineering
https://www.nature.com/articles/s41551-019-0432-1

Scientists can now manipulate brain cells using smartphone -- ScienceDaily
https://www.sciencedaily.com/releases/2019/08/190805143525.htm

以下の画像は、ワシントン大学医学部のエイドリアン・ゴメス氏らの研究チームが開発したワイヤレスデバイスの写真。実際に脳に埋め込まれるのは赤枠で囲った部分で、この部分だけに限れば髪の毛サイズの極小サイズです。


ワイヤレスデバイスの本体はマウスの頭部に固定されます。この端末とスマートフォンなどの電子機器をBluetoothで接続することで、ワイヤレスデバイスを遠隔地から操作可能となり、本体に搭載されている薬剤をマウスに投与することが可能になります。


脳に埋め込まれることとなる部分の先端には極小サイズのLEDが埋め込まれており、赤や青の光を出すこともできます。


ワイヤレスデバイスが発光するのは、この装置が光で脳神経に刺激を与える光遺伝学技術を採り入れているためです。神経活動を操作する方法としては電気刺激によるものが主に使用されていますが、この技術には電極の周囲にあるすべての細胞が刺激を受けてしまい、高精度な制御が困難だという課題がありました。

光遺伝学技術を使用すれば、遺伝学的手法により光に反応するタンパク質を特定の細胞に導入することができるため、精度が高い神経系の制御が可能となります。しかし、光遺伝学技術にはこれまで、ケーブルを接続したままにしなければならず、対象となるマウスの動きが阻害されたり、金属製のワイヤレスデバイスが脳にダメージを与えてしまったりといった欠点がありました。


研究チームが今回開発したワイヤレスデバイスは、Bluetoothで制御できるためケーブルが不要で、軟性の素材でできているため脳へのダメージも少ないという点に特徴があります。また、薬剤が封入されたチップもカートリッジ式で交換可能なため、薬剤を補給するためにワイヤレスデバイスを摘出する必要もありません。これにより、従来のワイヤレスデバイスよりもはるかに長い期間の連続使用が可能になったとのことです。


研究チームはこの装置をマウスに装着して、GABA-A受容体遮断薬を投与しつつ光による刺激を与える実験を行いました。その結果、50cm四方の部屋の中を一定方向に回転させ続けるという実験に成功したとのこと。

以下の図はマウスの行動をヒートマップにしたもので、色が赤色に近いほどその場所に長くいたことを表しています。左端は操作を受けていない状態のもので、部屋の角以外が青色なことや、部屋の中心部にも色が付いていることから、部屋の中をランダムに動き回っている様子が分かります。一方で、術後1週間おきに行った4回の実験では、赤い模様が四角形を描いており、操作を受けたマウスが壁伝いに回転し続けたことがうかがえます。


共著者である韓国大田科学技術大学院のJae-Woong Jeong氏は「今回の実験により、脳内の神経伝達物質がどのように行動を制御するかを確かめる事ができました。我々は現在、この知見やナノスケールの工学技術を応用した脳ワイヤレスデバイスの開発に焦点を当てています」と話し、将来的にはパーキンソン病やアルツハイマー病などの治療に活用できるとの見方を示しました。

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in サイエンス, Posted by log1l_ks

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