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体内にマイクロチップを埋め込む「マイクロチップ・インプラント」は危険なのか?何を可能にするのか?などをまとめたガイド

by Pixabay

自分の体を使って生命科学の実験をするバイオハッキングが流行し、DIYで自分の脳をハッキングする人がいれば、マイクロチップを体に埋め込む身体改造を行う人もいます。SF作品のテーマにもなってきた「マイクロチップ・インプラント」が現実のものとなってきたわけですが、「実際に健康上の危険はあるのか?」「何があるのか?」「空港の金属探知機に引っかからないのか?」といった気になる疑問に答えるガイドが公開されています。

A practical guide to microchip implants | Ars Technica
https://arstechnica.com/features/2018/01/a-practical-guide-to-microchip-implants/

◆マイクロチップとは?
マイクロチップ・インプラントと呼ばれるものは通常シリンダー型で、マイクロチップのほか、生物学的に安全なエポキシ樹脂、無鉛のホウケイ酸ガラスなどで包まれた銅のアンテナが含まれています。2018年1月現在、ペットや人に対してマイクロチップ・インプラントが使われていますが、これらはバッテリーや動力源を持たないもの。そのため、磁界に通信できるデバイスがない限り、インプラントは不活性状態になります。


これらのインプラントはRFIDを利用するのが一般的です。RFIDには低周波帯をカバーするもの、高周波帯をカバーするもの、極超短波をカバーするものなどがありますが、市販のインプラント用チップに使われているのは通常、高周波帯・低周波帯のものとなっています。RFIDは電波を使用するものとして識別され、NFCはそのうち高周波を使用するものとなっています。

このようなマイクロチップ・インプラントを人間の体内に埋め込む試みとしては、2017年7月にアメリカ・ウィスコンシン州に本拠を置くThree Square Market(32M)という自動販売機メーカーが、従業員の体にマイクロチップを埋め込みクレジットカードや現金がなくても軽食を買えるようにする取り組みを始めたことが報じられています。

マイクロチップを従業員の体に埋め込んで現金やカードなしでも軽食を買えるようにする企業が出現 - GIGAZINE


また、バイオハッカー向けツールを扱う「Dangerous Things」ではRFIDタイプのチップとNFCタイプのチップを両方販売しています。RFIDタイプのチップを使って鍵なしで家や車の扉を開けたり、ノートPCにログインしたり、NFCタイプのチップを使って仮想通貨Bitcoinを扱えるようにしたりする人も登場しています。

仮想通貨Bitcoinを扱えるマイクロチップを両手に埋め込んだ男性が登場 - GIGAZINE


◆健康上のリスク
では、マイクロチップ・インプラントは生物にとって危険ではないのか?というと、ペットに対して積極的に利用されていることからもわかるように、今日のマイクロチップは健康上安全だと考えられています。

ただし、人間がマイクロチップを体内に埋め込む場合、正しい方法を取らなければ感染症の危険性があるとのこと。特にMRSAというブドウ球菌の一種は多くの抗生物質に対して抗体を持ち、感染すると死に至る危険性があります。ただし、専門家が適切に処理することによって感染症になるリスクは低下するので、インプラントの埋め込みは自分で作業せずに専門家に頼る必要があるとDangerous ThingsのCEOであるAmal Graafstra氏は語りました。


インプラントを埋め込むと、その後1日~数日は患部が腫れますが、2週間から4週間でインプラントはコラーゲン繊維に包まれます。一時的にかゆみや違和感が感じられることがありますが、2年もしないうちにインプラント周囲の傷は癒えるとのこと。傷が癒えた後は皮膚の下にあるインプラントの存在を感じないようになるそうです。

Dangerous Thingsで販売されている最も安価なインプラントは、生体適合ガラス容器にチップを内蔵しており、親指と人差し指の間に埋め込まれるもの。これらのマイクロチップはMRIと互換性があり、空港の金属探知機も反応しません。また、動物用のチップとは違って人間用のチップは組織切片用接着剤などでコーティングされていないので、「やっぱり取り出したいかも」と考えを変えた時にも簡単に取り出せるとのこと。


Graafstra氏はときどき「意志に反してチップを体内に埋め込まれ、人の声やフラッシュライト、さまざまな現象を体験するようになった」という話を聞くそうですが、これらは精神障害の患者や詐欺師によるもので信憑性は薄いとのこと。

◆セキュリティリスク

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ハリウッド映画では、インプラントを使って人を追跡する様子が描かれることがありますが、現実のインプラントではペットを探すこともできません。今日のチップはGPSやバッテリーを搭載しておらず、通信できる範囲も限られているためです。もしそれらの機能をインプラントに搭載すれば、かなりサイズが大きくなってしまうのに加え、常に充電し続け2~3年に1度は交換する必要がでてきてしまいます。

ただし、理論的にはインプラントを利用して個人を追跡するという行為は不可能ではありません。攻撃者が特定のエリアで人の体にインプラントを埋め込み、遠方からでもチップを活性化するほど強い誘導電流を送るデバイスを組み立てればチップによる追跡は可能。ただしエリア内のいたるところにリーダーを設置する必要があり、ターゲットを追跡する安価で簡単な方法は他にも存在することから、実用化にはいたっていません。

一方で、ハッキングに利用されるリスクは存在します。2010年にイギリスの科学者であるMark Gasson氏が自分の手にウイルス感染したマイクロチップを埋め込み、外部デバイスにウイルスを感染させることができるかを調べたところ、実験は成功しました。また、ハッカーのSeth WahleさんはNFCチップの脆弱性を利用してスマートフォンにリンクを開かせ、リモート環境にあるコンピューターに接続することに成功しています。

マイクロチップが家の鍵として使われるなどした場合であっても、「窓を割る」「合鍵を作る」といった容易な方法がある限り、マイクロチップのハッキングという手法が家に侵入する方法として用いられる可能性は少ないと見られています。ただし、ビジネスとしてこれらの攻撃方法を計画する誰かが現れる可能性はあります。そしてこのとき、マイクロチップを個人的に使っている人がターゲットになりやすいとのこと。

実際に安全性の低いRFIDを利用した社員証は現在でも問題になっています。知識と技術のある攻撃者であれば、簡単にRFIDを複製し、社員として会社に入ることができてしまうためです。このような事態を防ぐには安全性が高いプロトコルを用いたRFIDのカードを利用することのほか、RFIDと生体認証を組み合わせて使うことが提案されています。実際に、Graafstra氏はBitcoinのやりとりや支払いを安全に行えるようにすべく、「VivoKey」という暗号化されたプラットフォームを使用した新しいマイクロチップを開発している最中とのこと。

by CPOA

◆マイクロチップ・インプラントは浸透するのか?
マイクロチップが技術的に確立されたとしても、実際にインプラントを行おうと考える人は少数であるとGraafstra氏は考えています。Graafstra氏が初めてマイクロチップを手に取ったのは2005年で、そこから13年経過した2018年現在、チップに対応したリーダーは10ドルと(約1100円)となりましたが、浸透はしていません。「技術の発展は速くとも、規範や応用はそういうわけにはいかないのです」「スマートフォンのようにはいきません」とGraafstra氏は語りました。

Dangerous Thingsで販売されている「xNTi」というマイクロチップのデータ保存期間は10年間で、書き込みサイクルは最大10万回となっています。しかし、クレジットカードの支払いでデータは数年で失効し、送金システムはしばしば特定のチップを使えなくします。このことから、マイクロチップを体に埋め込む人は、老朽化の問題について考える必要もあるとのこと。

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マイクロチップ・インプラントは、適切な処理をすれば人体に大きなリスクがあるものではありません。しかし、2018年現在において、体に埋め込んだマイクロチップの使い道は「支払い」「鍵としての利用」「パスワード認証」などがメインであり、劇的に日常を変えるものではなく、その可能性は今後の技術の進歩と社会規範の変化次第といえます。

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in ソフトウェア,   ハードウェア, Posted by darkhorse_log

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