サイエンス

月の裏側に電波望遠鏡を設置することにどんなメリットがあるのか?

by Ponciano

月は常に同じ面を地球側に向けており、地球上の人々は月の裏側を見ることができません。2019年には中国の小型衛星が裏側から見た月の写真を撮影したり、2000兆トンもある超巨大な金属塊が眠っていると報告されたりして月の裏側に注目が集まっていますが、天文学者らの中には「月の裏側に電波望遠鏡を設置する」ことに興味を持っている人々もいます。

Rovers Will Unroll a Telescope on the Moon’s Far Side - IEEE Spectrum
https://spectrum.ieee.org/aerospace/astrophysics/rovers-will-unroll-a-telescope-on-the-moons-far-side

電波望遠鏡は可視光線を観測する光学望遠鏡とは違い、天体から放射される電波を捉えて観測を行います。光学望遠鏡では観測できないほど遠くにある天体や、暗い天体であっても電波を受信してコンピューターによる解析を行うことで観測が可能となるため、電波望遠鏡は宇宙の秘密を解き明かす大きな武器となります。


しかし電波望遠鏡にも弱点が存在し、たとえば大気の上層部にある電離層は電波を反射する性質を持っているため、宇宙からの電波の一部を反射してしまうほか、地球活動などによる電波が観測を邪魔してしまうことがあります。また、人間の活動によって放出される電波も電波望遠鏡にとっては障害であり、過去には電波望遠鏡が観測した謎のシグナルの正体が「電子レンジ」だったという事例もありました。

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多くの電波望遠鏡は数百MHz~数百GHzの周波数を捉える仕組みになっており、100MHz以下の電波は電波天文学の分野において「低周波」とみなされます。さまざまな障害が存在する地球上では、30MHz以下の電波を望遠鏡が観測することはできないとのこと。

そこで、地球上では困難な低周波数の電波を観測するのに打ってつけの場所が月の裏側です。月の裏側では地球から放射されるさまざまな電波が常に月本体に遮られており、邪魔なノイズが入ることもありません。また、宇宙からの電波を遮る電離層もないため、電波望遠鏡の設置場所としては理想といえます。

近年では、宇宙から放射される低周波の電波に対する関心が増加しています。コロラド大学の宇宙物理学者であるジャック・バーンズ氏は、月の裏側に設置された電波望遠鏡が誕生したばかりの初期宇宙の理解を深めるために役立つ可能性があると指摘。初期宇宙が放射した電波は地球に届く時には宇宙の膨張によって赤方偏移しているため、初期宇宙についての観測を行う場合は10~50MHzという低周波帯の観測が重要になってくるそうです。

バーンズ氏は月軌道上にDAPPERという衛星を打ち上げ、月の裏側で宇宙からの電波を観測するというプロジェクトを進めています。しかし、より多くのデータを集める段階では何千ものアンテナを使用する必要があり、次のステップにおいては軌道上ではなく月面上にアンテナを設置する方が現実的だとのこと。「月面は安定しています」とバーンズ氏は述べ、月の裏側に電波望遠鏡を設置して観測を行うことが理想だと主張しました。

by bertomic

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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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