作品50周年を経ても映画「パンドラとアクビ」で活躍を見せるアクビちゃんを生み出したタツノコプロの笹川ひろしさんにインタビュー
「モンスターストライク」のパンドラと「ハクション大魔王」のアクビが凸凹コンビならぬ凸凸コンビで主役を務めるアニメ映画「パンドラとアクビ」が4月5日(金)からEJアニメシアター新宿ほかでロードショーとなりました。
アクビは「ハクション大魔王」で初登場したあと、「よばれてとびでて!アクビちゃん」「アクビガール」と主役作品が2つ作られた人気キャラクター。その誕生に携わったタツノコプロの顧問である笹川ひろしさんにいろいろなお話をうかがってきました。
GIGAZINE(以下、G):
今回、「パンドラとアクビ」という新しい映画にアクビちゃんが出るということで、ちょうど50周年でもある「ハクション大魔王」のお話を中心に伺えればと思います。いきなりですが、「ハクション大魔王」の制作当時の資料(初期企画書)には、アクビは「倅」と書かれていました。結果的には娘になったわけですが、どのように変わっていったのでしょうか。
笹川ひろしさん(以下、笹川):
お父さんが厳ついでしょう?だから、かわいくて優しい女の子を出した方がバランスがいいだろうということで、父と娘になったんじゃないかと思います。
G:
なるほど。
これは「パンドラとアクビ」のアクビ
笹川:
「ハクション大魔王」は最初に「くしゃみをしたら魔法使いが出てきて、その人の家来になる」という設定ができて、面白いのでいけるかなと思ったんです。でも難しかったのがキャラクターデザインでした。吉田竜夫さんに「ハクション大魔王は魔法使いで、壺から出てきて、一見怖そうなんだけど、優しい人というのはどうですか」と話をしたら、できあがったのがそれはもう恐ろしい、ひげもじゃの恐ろしい魔王だったんです。そこにカンちゃんとブル公が加わった形で制作が始まって、最初はアクビはいなかったですね。
ハクション大魔王 第1話 「出ました大魔王の話」 / 「モーレツブル公の話」 - YouTube
笹川:
だいたい、1本のお話で動画を4000枚ぐらい描かなきゃいけないので、どんどん描いていたら、途中で代理店からクレームがありまして(笑)
G:
もう作画しているのに。
笹川:
放送局も含めて、相手方の意見は「この大魔王のキャラクターではちょっと怖すぎて、いくら魔法使いだといっても、子どもが寄りつかないんじゃないか?」というものでした。そう言われると、こちらもそうじゃないかと考えた部分はあって、「困ったもんだ」と思っているうちに動画はどんどん進み、2000枚近く仕上がっている。「どうしましょう」ということで相談して「今ならまだ止められる」ということで思い切って「吉田さん、変えましょう」と。
G:
うわぁ……大変なことに。
笹川:
消しゴムで直すってわけにはいきませんから、今まで描いたものは全部使えなくなりました(笑) それで、新しいキャラクターをデザインしたんです。顔は、まるで電球をひっくり返したみたいでしょう。体も鼻も、ことごとく電球みたいなモチーフで統一して、ひげも変わった形にしたら、怖さもあるし、大きさもあるし、でもユーモラスというものになりました。それを代理店の方に見せたりして、もう一回やり直すことになりました。当時、そのロスは大変でしたが、そこで止めたからまだよかった。フィルムになっていたら大変ですよ。ただ、小さい場所にはもうちょっと問題はあって、たとえば大魔王の好物だとかね。
G:
当初はコロッケだったとうかがいました。
笹川:
アフレコのときに「いまどき、コロッケで喜ぶ人がいるだろうか?」という話になったんです。それで、ちょうど学校給食でハンバーグが出始めていたので、それに合わせてハンバーグにしませんかということになったんです。これは声優さんからのアイデアでした。コロッケを描いた絵がちょうど茶色くて、揚げたのか焼いたのかわからないだろうと(笑)
G:
(笑) なるほど。
笹川:
「ハンバーグ」といえばハンバーグにも見えるところだし、そんなにいっぱいあるカットでもないし「じゃあ、ハンバーグにしましょう」ということでみなさん納得してくれました。本当に、だんだんとできあがっていくという感じですね。タツノコプロの作品はマンガの原作がないオリジナルですから、いわば「行き当たりばったり」(笑)。都合が悪いと軌道修正していくんです。終わり方も最初から考えているわけじゃないんですよ。でも、長編になっていって1年ぐらい経過して、いざ終わらなければいけないという4、5本ぐらい前になると、不思議といいアイデアが出てくるんです。今までは「単にそういうものなのだ」と思っていたものが重要なネタだったりね。こじつけのところもあるけれど、何かあるんですよ。
G:
いっぱいばらまいておいたものの中から、実はこうだったというものを回収してくるわけですね。
笹川:
オリジナルで1話1話考えていかなきゃいけないのは大変です。シナリオライターの方と一生懸命話をするんですけれど、素材を与えられて「それを組み立ててください」みたいな、クイズみたいなものです。主人公はこういうキャラクターで、大魔王がいて、ブル公というこういうのがいて、面白い話はできませんか?って。ハクション大魔王って1回の放送で15分の話が2本ありますから、とにかく本数がいっぱいいるんですよ。30分でも15分でも、ストーリーを書く方からすると、文字面としては変わらないんですが、本数が多いだけにネタ出しはいっぱい必要でした。みなさんに集まってもらって、「こんなのはどうか」「こんなのは」と、簡単なシノプシスを作って、「これはいけそうだ」というものをシナリオにしてもらう。そこから絵コンテに入って、動画に入っていく。それは、オリジナルの楽しさでもありました。
マンガの原作があると、原作から拾ってアニメ用に書いていけばいいんですが、タツノコは特にオリジナルが多かったので、できあがってみないと面白いか面白くないかわからないんですよ。考えてみたら、よく放送していたなと思いますね。向こう側の注文が来るよりも先に作っちゃうんだもの(笑)。半分くらいできたところでお見せするけれど、向こうもセールスはしづらかったでしょうね。スポンサーの方も、半信半疑だったでしょう(笑)。吉田竜夫さんは漫画家として有名だったけれど、アニメの業績ではハクション大魔王の時点では手がけた本数は少なかったですからね。
G:
まだ「科学忍者隊ガッチャマン」や「新造人間キャシャーン」以前ですもんね。
笹川:
アニメーターの方は結構喜んで集まってくれました。吉田竜夫さんはアクションのかっこいい、筋肉や骨格もリアルに描かれる方で「マッハGoGoGo」等では絵が難しくて……。それが、「ハクション大魔王」だと比較的描きやすいという利があったんですね。その代わりに難しかったのがアイデアです。キャラクターができても笑いの種がないんです。シナリオの文字って、あんまり面白くならないんですよ。書いている本人は面白いかもしれないけれど、お客さんが見ている笑いの感覚とズレがあったり、絵にしてみると考え方が違ったり……。
G:
そういったギャップは、どうすり合わせていくんですか?
笹川:
それはもうしょうがないですね。
G:
しょうがない(笑)
笹川:
そのうちつられて笑ってくれるんじゃないかと思って(笑)。私はギャグマンガも描いていましたから、シナリオをちょっとだけ直させてもらったりしましたが、かといってあまり変えてしまうと、シナリオライターも気持ちを入れて書いているから「このセリフをなぜ飛ばした」と言われてしまうんです。いろいろと苦労はありましたが、「ハクション大魔王はクシャミをした人の家来になっていうことを聞く」「またクシャミをしてもらわないと壺に帰れない」という約束事は、うまい具合に面白さを作るもとになったと思います。
キャラクターも、慣れてくると「なるほど、こういうものか」というものができあがってきました。大平透さんが演じることで、優しさがあり、おっちょこちょいでマヌケでもあるけれど、どこか怖さもあるという。その怖さで子どもが引いちゃうかもしれないと思って、アクビという娘が出てきたのかもしれませんね。
G:
キャラクターを作られた時、大魔王の形は苦労して生まれたということですけど、アクビの姿はどうだったんですか?
笹川:
アクビちゃんは意外とスッキリできたと思いますよ。描いたのが誰だったかぱっと思い出せないですが、吉田竜夫さんだったかな?今から20年ほど前には「よばれてとびでて!アクビちゃん」というアクビが主役の作品を制作しましたが、これは吉田竜夫さんの娘さんである吉田すずかさんがキャラクターデザインをしています。昔のアクビと比べると目玉が大きかったり、ちょっとずつ違いはありますが、イメージは全然変わりません。すずかさんはアクビちゃんが大好きで、いまでも描いています。女の子が1人入ることでストーリーもいろいろ変わったものができますね。アクビの場合、変身できて鳥や蝶になったりして飛ぶこともできるし。
このキャラクターたちは、大事にしまっておく必要はないですから、今回の映画のようにどんどん出してもらったら嬉しいです。ハクション大魔王はそれこそ薬のコマーシャルにも出ましたし、実写ドラマも作られたし、使い方次第でいいキャラクターだと思います。放送50周年で、まだ使われているっていうのはすごいね(笑)
G:
今回、「パンドラとアクビ」にはアクビのほかにドロンジョ、三船剛、一発貫太くんなど、ほかのタツノコ作品のキャラクターたちも多数登場します。
笹川:
これはうまいコラボレーションの仕方だなと思います。一発貫太くんだとか、「ナゾの怪獣」だとか、懐かしい昔のキャラクターがいっぱい出てどう絡むのか。世界観さえできあがれば大丈夫だという安心感があります。アクビの魔法も活きますし。
G:
アクビが活躍する映画が公開されている中で「次は」と聞くのはなんですが、ほかにコラボが見てみたいキャラクターなどはありますか?
笹川:
コラボ相手がいての話にはなりますが、キャシャーンなどはどうでしょう。ああいう世界は広がってくる感じがします。キャシャーンとフレンダーのコンビに何を足すとよくなるのか、そこがうまくいけば……。タツノコにとって、アクションものは1つの柱だったと思いますので、もう一度、すごいアクションを作ってみたいという感じはしますね。タツノコのキャラクターは「目立つ」というか、しっかり描けば覚えてもらえるというキャラクターが多いですから、広がる余地はあると思うんです。今回、一発貫太くんまで出てますから。
G:
貫太くんには正直びっくりしました(笑)
笹川:
そういう意味では、まだまだ出てきていいんじゃないかというキャラクターはいっぱいいます。製作委員会方式の作品だと、いろいろ委員会で相談しながら作らなければいけませんが、タツノコはいろいろと自社権利の作品がありますから、自由にできるという強みがあります。それは、どんどん発見していかなければいけませんね。
G:
本作を第1弾として、次が続いていくというのは楽しみです。
笹川:
映画以外にもやり方はあるので、企画の方に大いに期待したいです。僕らが制作していたころは本当にテレビしかありませんでしたが、その後、映画も珍しくなくなって、その他の媒体にも広がっていっています。今や、入口はいっぱいあるわけです。一方で、映像の作り方も簡単ではないところはありますが、やはり挑戦していかないとダメだと思います。苦しいけれど、難しいことをやっていかないと。同じことだけをやっているとあまり進歩がないんです。ずっと見てきたアニメの世界の範疇ではなく、それをぶち壊して「ええっ!?」と驚くようなものを見せて欲しいな。
G:
見てきたものの、その外へ。
笹川:
タツノコプロには頑張ってきた先達がいますから、ぜひ続いて欲しいです。東京アニメアワードでは例年、アニメを一生懸命やってきてくれた方10名に功労賞を出しているんですが、2019年は大河原邦男、酒井あきよし、鳥海永行、二宮常雄と、タツノコに関連する人が4名も賞をいただきました。2009年に亡くなられた鳥海永行君は、「ガッチャマン」の監督として2年間大変な思いをした人で、僕が「ぜひ入れてあげたい」と推していたこともあり、他の方々が汲んでくださったのかなと思います。
G:
「ガッチャマン」は当時、アニメーターから描く方ではなくて見る方がいいと言われたなんてエピソードもありますもんね……。
笹川:
見るほうが良いですね(笑)。鳥海君は学生のころから時々タツノコに遊びに来ていて、卒業したらすぐに入社したんです。「宇宙エース」をやっていて、ちょっと「マッハGoGoGo」にも触っているぐらいの時期でした。それから3年ぐらい経って出てきた企画が「科学忍者隊ガッチャマン」でした。誰に演出監督を任せようかというとき、鳥海君に役が当たったんですね。彼も1年間なら頑張れると張り切ってやったんですが、視聴率がよかったから2年になって「もう1年!?」って、終わったら精も根も尽き果てていました。
それで続編の「ガッチャマンⅡ」の時には鳥海君がもう無理だということで、ほかにも誰もやる人がいなくて、「暫定だよ」ということで僕が立つことになったんです。大変ですよガッチャマンは……。作っていてももう穴が開きそうになって、最初の「ガッチャマン」のネガを借りてきて1本作りました。これは代理店に叱られましたが、視聴率がよかったので怒りが止まったという話があります。
G:
第9話「滅亡のベルクカッツェ」ですね。やっぱり数字がいいとそうなるんですね。
笹川:
ベルク・カッツェは人気があったので、けがの功名でした。
G:
「ガッチャマンⅡ」は、押井さんをはじめとした若い方を育てていたころですね。
笹川:
当時、演出家も外注さんを外から頼んでこないと間に合わないような状態が続きました。これじゃあもう駄目だということで、新しい人を育てようと大学卒の人たちに来てもらったんです。それが押井守、西久保瑞穂、真下耕一、うえだひでひとの4人でした。即やってもらいましたが、彼らは頭がいいから、先輩が作ったラッシュを見たり、動画や映画を見たりして、学ぶのが早かった。アニメーターの人たちに「こう描いてくれ」「こう動かしてくれ」と伝えるのも上手かったですね。絵コンテにはコマ割りの絵が描かれているので、見れば素人さんでもどう動くのかわかるような設計図になっています。ところが押井さんのは「これは健?ジョー?」ってなることがあった。でも、できあがりはピシッとしたものになっている。動かし方、スタッフの使い方というのが上手だったんでしょう。
G:
タツノコからはすごい人がいっぱい出てきていますよね。今回も、総作画監督の大倉啓右さんは2年目だということで、またすごい人が出てきたというところかもしれませんね。
笹川:
ぜひ、作品が成功するといいなと思います。
G:
本日はいろいろなお話をありがとうございました。
インタビューはタツノコプロの会議室で実施しました。この部屋の壁面にはいろいろなキャラクターが描かれており、ちょうど笹川さんの右手あたりにはアクビちゃんが描かれていました。
「パンドラとアクビ」は、「モンスターストライク」のパンドラがタツノコプロのキャラクターたちがいる世界に飛び込んだ、という形で描かれる「凸凸コンビ」の冒険活劇。かわいらしいコンビはどんな活躍を見せてくれるのか。
2人はいろいろなタツノコキャラクターたちと出会うことに。
「タツノコプロといえば」のこのキャラクターも姿を見せるようです。
映画「パンドラとアクビ」は4月5日(金)からEJアニメシアター新宿で公開中。4月12日(金)からはユナイテッド・シネマ札幌、109シネマズ名古屋、梅田ブルク7、T・ジョイ博多でも公開されます。
4/5(金)順次公開『パンドラとアクビ』予告 - YouTube
入場特典第1弾は「ミニ×ミニ キャラクターブック」(B7サイズ・32P)。
そして入場特典第2弾は、笹川さんの話に出てきた吉田すずかさんによる描き下ろしステッカー(5種類セット)。4月19日(金)から配布開始です。
タツノコプロが新たなレーベル「BAKKEN RECORD」で送り出す第1弾作品ということで、どんな挑戦になっているのか、ぜひ映画館で確かめてみてください。
◆「パンドラとアクビ」作品情報
・キャスト
パンドラ:小倉唯
アクビ:天城サリー
前編「荒野の銃撃戦」
ルイーズ(ドロンジョ):甲斐田裕子
三船剛:吉野裕行
ブライキング・ボス:天田益男
後編「精霊と怪獣の街」
カンタ:田村睦心
ナゾの怪獣:江原正士
冬の精霊:津田健次郎
・スタッフ
原作:XFLAG・タツノコプロ
監督:曽我準
キャラクターデザイン・総作画監督:大倉啓右
美術監督:竹田悠介
美術設定:高畠聡/田村せいき
撮影監督:五十嵐慎一
色彩設計:小針裕子
編集:長坂智樹
音楽:小畑貴裕
音楽制作:トムス・ミュージック
音響監督:田中亮
音響制作:ソニルード
主題歌:Shiggy Jr.「D.A.Y.S.」(ビクターエンタテインメント)
アニメーション制作:BAKKEN RECORD
配給:角川ANIMATION
製作:XFLAG
©XFLAG ©タツノコプロ
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