インタビュー

タツノコプロの世界にモンストからパンドラが遊びに来たお祭り映画「パンドラとアクビ」を生んだ大松裕プロデューサーにインタビュー


数々の名作アニメで知られ、誕生から半世紀以上という老舗アニメスタジオ・タツノコプロが新たなアニメーションレーベル「BAKKEN RECORD」を立ち上げました。第一弾作品として送り出されたのが、「モンスターストライク」のパンドラと「ハクション大魔王」のアクビが共演する「パンドラとアクビ」です。

なぜいま、新たなレーベル立ち上げに動いたのか。そして、とんでもないお祭り映画が生まれることになったのか、「BAKKEN RECORD」のプロデューサーである大松裕さんに、話をうかがってきました。

映画『パンドラとアクビ』XFLAG × タツノコプロによるオリジナルアニメ
https://dora-bi.com/

GIGAZINE(以下、G):
本作のアニメーション制作は「タツノコプロ」ではなく、新たなアニメーションレーベルである「BAKKEN RECORD」というクレジットになっています。アクビちゃんの出典元である「ハクション大魔王」や、ドロンジョが出てくる「ヤッターマン」、新しいところだと「KING OF PRISM」(キンプリ)のように多種多様な作品を手がけてきたタツノコプロが、創立55周年を超えて作る、クレジット表記を変えるほどの新レーベルというのは、どういった位置づけなのでしょうか。

大松:
新レーベルを立ち上げた理由は2つあります。僕は、今の社長に声をかけてもらってタツノコプロへ来て3年目です。そのときにここ10年ほどの作品を振り返ってみて、キンプリなどの素晴らしい作品は生み出しているけれど、制作部の視点だと正直「ちょっと停滞しているな」という印象があったのでそれを払拭したいのがひとつ。

G:
はい。

大松:
もう1つは、アニメーションのスタジオとしては輝かしい旧IPを守っていくことも大事ですが、一方で新しいものを作っていくこともまたとても大事だということです。ところが、新しいものを作っていこうとするとき、「タツノコプロ」という名前は偉大すぎる、重すぎるという側面もあるんです。そこで「タツノコプロという名前から解放されて新しいことに取り組むために、新しいレーベルをやりたい」と社長と話をしたら「それ、いいんじゃない。ある種のポストタツノコプロでいこうよ」みたいに言ってもらえました。これからももちろん旧IPの作品もやっていくんですけど、一方で、いろんな若いスタッフと新しい試みもやっていきたい。新レーベルである「BAKKEN RECORD」は、僕からすると「新しい会社のカルチャーを作りたい」という感覚なんです。

G:
おお、なるほど。

大松:
アニメ会社でうまくいっているところには、それぞれにカルチャーがあります。P.A.WORKSさんや京都アニメーションさんのように、東京からは離れたところに腰を据えて、じっくりと人を育てている会社もあるし、タツノコプロの近くにはProduction I.Gという、タツノコから出て、ハイクオリティな作品を丁寧に作ってるところもあります。僕自身もI.G出身で、いい会社にはカルチャーやカラーがあるということを強く感じています。タツノコプロは2017年に55周年を迎えた老舗ですが、代替わりもあって、今はいろんな意味で「無色透明」という感じがすると思っていました。そこに対してもう1回、「スタジオとしての文化」みたいなものをちゃんと作りたいなと。ものづくりに対する考え方や、スタッフの雇用の考え方、デジタル作画も含めたものづくりの状況、細かいところだと机はどうするか、椅子はどうするか、どういったところまで包括的に、いろんな意味で新しくしていきたいなと思いました。そうなってくると、名前も新しくして「こういう新しいことをやっていますよ」ということをわかりやすくアピールしたいとも思ったので、新しいレーベルに踏み切った、というところです。

G:
確かに……有名な作品が多いので「ハクション大魔王のタツノコプロ」「ヤッターマンのタツノコプロ」のように、前に「何々の」というのをつけてしまいますね。

大松:
そうなんです。今回の「パンドラとアクビ」にハクション大魔王のアクビが出てくるので「新しいレーベルなのに昔のIPのキャラが出てくるじゃないか」と突っ込まれるかもしれませんが、僕は新しいレーベルからタツノコプロに対してラブレターを出したような感覚があります。新レーベルをやるけれど、偉大な先輩方の作品、いろいろキャラクターを出させていただいて、僕ら若いスタッフはこのように解釈しましたがいかがでしょう?と。

G:
なるほど。そして生まれたのか、このお祭り映画だったと。

大松:
ここまでお祭り感が出るとは(笑)。XFLAGさんからは「『タツノコプロの世界にパンドラが遊びに来た』みたいな感覚でやってください」みたいにおっしゃっていただいたので、そこもお言葉に甘えています。やはり昔の作品は「©タツノコプロ」だからやりやすいというのもあります。昔のアニメは「作品によっては作った会社のもの」であるというルールがあったおかげなのですが、タツノコプロではそういった作品が多数あって、改めていろいろなものを使えて財産だなと思いました。

G:
「この作品からキャラを出したい」と思ったときに実際に出せる作品をたくさん持ってるということですもんね。

大松:
本当に、そういうことです。ただ、これだけ本数があると、恥ずかしながら僕も含めて若いスタッフだと見たことがないという作品もありまして……。

G:
作品数が多すぎるがゆえの悩みですね(笑)。生まれる前の作品となると、再放送をしていたりしないと見る機会はなかなかないですし……。

大松:
なので、過去の作品にすごく詳しいスタッフにも加わってもらって、みんなで相談しました。今回、いろいろなキャラクターが登場していますが、最初から「この作品のこのキャラを出す」と当て書きしていたわけではなく、「こういったキャラクター像にするとして、タツノコプロのキャラクターに合わせるなら誰だろう」という順番で進めていきました。

G:
そういう順番だったんですね。

大松:
いろんなアイデアが出てきて、「それならあのキャラにしよう」「いやいや、その作品はみんな知らないんじゃないか?」みたいな話もして決めていきました。ちょっと改めてまとめてみたんですが、モブまで含めたらかなりのキャラクター数なんです。

G:
劇場で見たら「あっ、アイツも出ている」となる感じですね。

大松:
中には1カットしか出ていないというキャラクターもいますが、詳しい人は見ればわかると思います。そんな点も面白がって頂ければ。。

G:
タツノコプロ創立55周年記念作品だった「Infini-T Force」が、タツノコ四大ヒーロー集結作品でキャシャーンなどが出ていたので「今度は敵のブライキング・ボスを出そう」みたいな感じで決まっていったのかと思っていました。

3分でわかる!「Infini-T Force(インフィニティフォース)」TVシリーズ紹介映像 - YouTube


大松:
「ボス?だったらブライキングだろ」みたいにスムーズに決まりました。あとは、主役であるパンドラの周りにはメジャーどころをと考えて、「マッハGoGoGo」から三船剛と、「ヤッターマン」からドロンジョと、という感じです。アクビとドロンジョは弊社の2大女性キャラみたいなところがあるので、その売れっ子2人が同じ作品に出るというのも面白いところかもしれません。

G:
「Infini-T Force」は「タツノコプロのヒーローが共演する」ということでわかるのですが、今回一緒になるのは「モンスターストライク」という、まったく別の会社のキャラクターです。こうしたコラボ作品が劇場アニメになるというのは相当異例だと思いますが、どうやってこんな企画が成立したんですか?

大松:
「モンスターストライク」って、よくゲームでコラボをされていますよね。そこで、我々も「コラボしませんか」と声をかけさせてもらったら、XFLAGさんから「我々もアニメを作っているので、アニメでご一緒しませんか」という話をいただいたという形です。いくつか出した企画の中の一つが「パンドラとアクビ」でした。

G:
確かに、モンストにはコラボで盛り上がっているイメージがあります。しかし、アニメは独自路線というか、YouTubeでの配信版と劇場版がありますが、ゲームのようにコラボしている作品ではなかったので、まさかこんな形の作品になって出てくるとは思いませんでした。

第1話「これが始めのストライク!」【モンストアニメ公式】 - YouTube


大松:
そうですよね。本当に売れっ子のパンドラとのコラボということで、ありがたいです。

G:
先ほどのお話からすると、「パンドラちゃんとコラボを」と話が進んだわけではなく、話をする中で「じゃあパンドラにしましょうか?」ということだったんですか?

大松:
パンドラはアニメでも活躍していますし、キャラクター性、それこそ「パンドラの箱」を持っていて話のネタになるという点もわかりやすいと思ったので。ご指名でお願いしたら受けていただいたという形です。

G:
まさにそのパンドラの箱は、配信版で箱を開けてしまって大変なことになるというエピソードがありました。本作でも、パンドラの箱がきっかけとなっていますが、何かアニメ同士のつながりはあるのでしょうか?

続・最終話「パンドラの箱」【モンストアニメ公式】 - YouTube


大松:
そこは特に考えませんでした。もちろん、モンストのアニメは見せていただいたのですが、逆に、変に引っ張られないように、それぞれでやっていった方がいいかなと思いました。

G:
それで、本作は「タツノコキャラクターがいる世界にパンドラがやってきた」という形で、モンストのアニメとは離れたものになっていると。

大松:
XFLAGさんからそのように言っていただいたのが、すごくありがたかったです。とはいえ、パンドラは売れっ子ですから、気を遣うところもありましたが(笑)、いろいろ配慮いただき、ストレスなくやることができました。

G:
パンドラとアクビの絡みは、まるで元からコンビだったのではないかという自然さでした。

大松:
お互いの年齢感が近いというのが大きかったです。ただ、僕は、この2人はバディモノとしてはあまり相性がよくないと思っているんです。なぜなら、ボケとツッコミじゃないですから。

G:
(笑)

大松:
ボケとボケなんですよ。本当だったら、バディものならコントラストをつけて描くのが基本ですよね。でも、コントラストがつかないというのはわかってやった部分もあり、むしろ「突破口にならないかな」と思っていました。実際にやってみたら、難しい部分もありましたが、2人を並べたときの親和性はすごくよくて、このムードを活かしていきたいと考えました。そこで、お互いにボケすぎるとなかなか成立しないので、パンドラの方にちょっと「お姉さん感」を持たせて、ボケとボケなんだけれど、ちょっとボケ風のツッコミというか、「ツッコミ」と言い切れるほどではないけれど「ツッコミ要素」ぐらいの部分をパンドラに担ってもらいました。

G:
それで、キャッチコピーが「凸凹(デコ×ボコ)コンビ」ではなく「凸凸(デコ×デコ)コンビ」なんですね。

大松:
これはいいキャッチコピーだなと思います。

G:
「凸凸」って、パッと見た瞬間は「何を言ってるんだ?」という感じですが、見てみたら納得です。凸凹でお互いに欠けた部分を補い合ってハマるという感じではなく、出っ張ったところ同士がぶつかりあうけれどナイスコンビという(笑)。大松プロデューサーが公式サイトに寄せたメッセージは、書き出しが「アニメ業界には今、強い風が吹いています」という言葉だったんですが、その吹いている風というのは追い風なんでしょうか、向かい風なんでしょうか?

大松:
これは2つ要素があるなと思っています。衣付きの製作と、衣が付かない制作がありますよね。衣付き製作というのはご存知の通り、わかりやすく言うとお金を出すところです。ここ10年くらいのビジネスモデルである「DVDやBlu-rayを売る」という形式がかなり崩壊してきて、代わりに入ってきたのが中国市場や配信系ですよね。そこでいままでとは違ったいろんな資本が入ってきたというのが僕は「風」だと思っています。それが向かい風になるのか追い風になるのかは、どんなパートナーと組むのか、どういうビジョンを共有するのかにもよってくるんですけど、製作的に大きな変化があったというのが「風」の1つです。

一方、衣が付かない制作では「デジタル化」が来ています。アニメの作り方をあまりご存知ない方だと、もしかしたら「もう紙なんて使っていなくて、完全にデジタル化されているのではないか」と思っている方もいるかもしれませんが、実際はまだまだほとんどが紙と鉛筆の世界です。それ自体は全然いいと思うんです。便利なツールだし、描きやすいという方はそれでいいだろうと。一方で、その先に4Kや8Kというものと映像業界は対峙せざるを得ません。そこがもう一つの大きな「風」です。仮に4Kをやるとしても「今のルックでいいの?」「このルックで4Kにして意味あるの?」という問題は、やっぱりあるだろうと思います。そう言った問題に立ち向かう為にも、僕としてはデジタル化は避けて通れないと思っています。ただ、アニメ業界は足並みが揃っているわけではないので、四苦八苦というところではあります。


この2つは、追い風という考え方もあるし、すごくしんどい向かい風だというて考え方もあります。それをなんとか追い風にしたいなと思って、作り方に関してもいろいろトライをしているし、新しいクライアントとのお付き合いの仕方もいろいろチャレンジさせていただいてるところです。レーベル名である「BAKKEN RECORD」はスキージャンプで、ジャンプ台の最長不倒距離という意味なので、上手く飛んでいきたいなと思っていますね。

G:
なるほど。デジタル化に関しては、どれぐらい進んでいるんですか?

大松:
タツノコプロでは僕が来る前からデジタル化に取り組んでいるのですが、やはり課題が多く、本作でもデジタルの部分はありますがすべてデジタルで作れてる訳ではありません。フルデジタルでやれればよかったのですが、まだチーム編成が上手くできていないというのが正直なところです。ただ、若い子たちがすごく出てきていて、本作の制作においては「デジタル化」よりも「若い力で作っていく」というのがテーマだったのではないかという気がするほどです。

デジタル・ネイティブの子たちって、多分僕らが思ってるような感覚とは違うものを持ってるんだろうなと思うんです。タツノコプロでも、最初の研修は紙でやって、その上でデジタルでやっていくんです。この作品ではまだ到達しなかったところですが、「紙の経験はあるけれどデジタル・ネイティブ」みたいな子たちが本当のフルデジタル作品を作るようになったとき、「新しい何か」がアニメに加わってくるんじゃないかって僕は感じています。だから、スタッフのボトムアップは本当にすごく大事にしています。彼らが中核になったときどういう表現が生まれてくるのか楽しみです。

G:
今回やっていて、結構いい力が出てきたなという実感はありますか?

大松:
それはもう、めちゃめちゃ思いますね。総作画監督の大倉啓右君も2年目なんです。

G:
ええ!?

大松:
やっぱりすごくいいデザイン描きますし、同じく2年目の女の子が2人いますが、その子たちもやっぱり上手だなと思います。「2年目でこんなに柔らかい絵を描くのか!」というのは本当に驚くレベルです。

G:
2年目というとかなり早い印象です。

大松:
これはスタジオの考え方にもよるところだと思います。たとえばufotableさんとかProduction I.Gさんとかのように、動画をみっちりやるというところもあります。ニュータイプに掲載されていたufotableの近藤さんのインタビューで、動画検査をされている3年目の方々を「この世代はすごく有望なんだ」と仰ってましてufotableさんは動画としてのキャリアを凄く大事にされているんだなと思いました。動画を何年もかけてやっていくというのも本当に大事な教育のビジョンだと思います。一方で、僕達は、正直中核スタッフがそんなにいないというとこもあり、若い子たちを早いタイミングでボトムアップしていかないと、本作のように新しくて勢いのあるものは作れないと思ったんです。ただ、キャラクターデザインに関してはベテランの方々も加わったコンペで勝ち取ったものなんです。

G:
すごい!

大松:
正直なところ、2年目の子をメインに据えることにはちょっと不安な部分もありました。でも、やっぱりすごく魅力的な絵だったし、XFLAGさんからも「この絵で行きたい」と言ってもらえたので「賭けてみよう」と。それでやってみたら、作品をやっている最中もグングン伸びていきました。

今回、作品に売りがいくつもあって、たとえば監督の曽我は映画やテレビの監督をするのは初なので、その初監督としての演出ぶりも見て欲しいですし,
撮影監督は僕の大好きな五十嵐慎一さんにやっていただいていて、その撮影もすごくいいです。美術会社Bambooの竹田さんとは「攻殻機動隊S.A.C」のときからお付き合いがあり、「カップヌードル」のCMも手がけていただいてますが、今回の美術もデザイン的で素晴らしいです。そして、やはり大倉くんのキャラクター。これらが今回の「チャームポイント」ではないかと思います。

G:
大倉さんが2年目というのが驚きです。キャラクターデザインというと、原画でもキャリアを積まれた方が担当されるイメージだったのですが、コンペで勝ち抜いたというのがまたすごい。

大松:
デザインに関しては「年功序列主義」は違うんじゃないかという感覚があります。「原画として上手い」と「いいキャラクターデザインができる」というのは違うんじゃないかと。だから、本当に魅力的なデザインが描けるんだったら、たとえ何年目でもやるべきだと前からずっと思っていました。ただ、層が厚いアニメ会社さんだと、若い子がいきなりやるのはいろんな抵抗があると思うんです。僕らの場合は今回、そういう部分がいい方向に働きました。

G:
それは新レーベルだからこそできたというのではなく、タツノコプロという会社だからこそできた、と。

大松:
そうですね、タツノコプロだからこそです。あと、今回の作品を作るにあたって、若くて活きの良い人にポンッと出てきてほしいって思っていました。それは声優さんでもいいし、スタッフでもいい、とにかく誰か出てきて欲しいなと。そういう意味で、大倉くんや原画の若い子たちが出てきてくれたというのはプロデューサー冥利に尽きることで、ありがたかったです。2年目の女の子たちに関しては「これは誰が描いたの?」「あの子たちです」「本当に!?上手いなぁ」みたいなこともありました。それと同時に、派手なアクションの部分ではベテランの力も借りていて「ここはやっぱりキャリアがある方が上手く抑えてくれたな」という部分もあるので、作画としても見所の多い作品になったのではないかと思います。

G:
なるほど。若さとベテランが両輪としてうまく回った作品だった感じですね。

大松:
まさにそうです。例えば松本淳監督にも結構カットを担当して頂きました。彼はそもそも激ウマのアニメーターでなんです。ちょうどその時映画の準備中で手が空いていたのでタイミングよく原画を手伝ってもらうことができました。夜な夜な、あの「ナゾの怪獣」が火を噴くカットをずっとやっていて、それを大倉くんたちが見て「やっぱりすごい」と、お互いに刺激を与え合うことになりました。あと、坂本龍典さんという素晴らしいアクションを描くアニメーターさんも、めちゃめちゃ手が早くて、すごいスピードで上がってくるんです。そういうところも大倉くんたちの刺激になったと思います。若い子たちの生きのいい仕事と、ベテランの方たちの今まで培った技術がかみ合いましたね。

G:
松本監督も入っておられたんですね。

大松:
はい。前編は西部劇なので馬が出てくるんですが、はっきり言って、馬なんてそんなに描けないですよ。でも、松本さんはさらっと上手く描くんです。レイアウトも上手くて、とても助かりました。

G:
動物は大変だと聞きます。馬まで描いておられたとは。

大松:
ブライキング・ボスが馬に乗っているところとか、本当に上手い人じゃなければ描けないので、さすがだなと思いました。松本さんにやってもらえたのは本当にラッキーでした。もちろん、僕らもスタッフワークはいろいろ計算しますけれど、いい作品が生まれるときにはある種「神風が吹く」というのか、「時の氏神」みたいな人が来て作品を盛り上げてくれるというのがあります。今回はそういうチャンスに恵まれたというか、天啓があったというか、そういう感覚がありました。

G:
プロデューサーとして「こういう作品になるのでは」と想定したものと、実際に上がってきたものではどういった違いがありましたか?

大松:
まったく上を行ってました。僕、このメインビジュアルがすごくいいと思っているんです。アニメのメインビジュアルはうまく行かないことの方が多いと思っているんです。それだけ、メインビジュアルは難しいです。ただ、この絵は構図の柔らかさやキャラクター配置、色合い、すごく上手くいったと思います。自画自賛するわけじゃないですけど、この文字の入れ方も踏まえて、なかなかこれだけうまく訴求力があるビジュアルってないなと思ってるくらいです。これだけ見ても、彼は本当にすごい仕事をしたなって思います。


G:
これも大倉さんが描かれたものですか?

大松:
はい。ただ、色彩設計の小針さんにもいろいろ調整いただいたので、大倉くん含め、みんなの力で作り上げられたビジュアルですね。

G:
後編のほうの、「ナゾの怪獣」を中心としてみんなが寄り添っている絵もいいですよね。


大松:
「ナゾの怪獣」とかカンタくんとか、近頃こんな顔をしたキャラクターはなかなかいないですよね(笑) みんな、描いててすごく楽しかったと言っていました。結局アニメって、シルエットがほぼすべてだと思うんです。「ど根性ガエル」なら、主人公のひろしは頭にメガネをかけていて、ヒロインの京子ちゃんは花をのせていて、みたいに漫画的にメリハリがついていました。「ナゾの怪獣」も、オリジナルは1960年代の作品ということで、今改めてやることで温故知新というか「やっぱりアニメってこうだよね」という感覚がありました。体の大きさを合わせるのに四苦八苦しましたが、あの怪獣と人間が共存できるというのはアニメの良いところだなと思いました。

あと、キャラクターがすごくチャーミングなんです。語尾に「だど」とか「だっち」とかがつくので、アフレコの時から楽しくて。今のトレンドでどう作っていくかというのを考えるのはもちろん大事なことなんですけど、ふと振り返って見たときに、先人がどういう発想でどういうものを作ってきたかということに触れられた感じがしました。

G:
語尾でいうと、パンドラも「ドラ」で負けてないですね(笑)。アフレコは変わったキャラクターたちが集った場になったのではないですか?

大松:
「ドラ」でいうと、パンドラ役の小倉唯さんから「パンドラって、もっと『ドラドラ』言ってるんですけど、今回はこれくらいで大丈夫ですか?」と言われたので、モンストのアニメと比べると「ドラ」は少ないかもしれません(笑)

G:
大松さんは先ほどお話しのあったように、最初はProduction I.Gにおられて、そのあとA-1 Picturesを経てタツノコプロへ来られたということなんですが、I.Gで初プロデューサーをしたころのエピソードが、P.A.WORKSのサイトに掲載されている堀川さんと石川さんの対談で触れられていて……。

大松:
チェロ弾いている写真のやつ、残っているんですね。ずっと「チェロ弾けるんですか?」って言われるんです(笑)

G:
それですそれです。石川さんが「制作プロデューサーが育つには、TVシリーズを回すことだと思った」という流れから、大松さんについて「担当プロデューサーの経験もなくいきなりだから」というお話をされています。大松さんは最初からアニメのプロデューサーを目指しておられたのですか?

大松:
全然そんなことはないです。僕がアニメ業界に入ったのは、大学のころからアニメを作っていたのでやってみたいなというのもありましたが、超就職氷河期だったのでどこにも行くところはないかということもあって、とりあえずアニメ業界に飛び込んだという感じです。神山健治監督の下で「攻殻機動隊S.A.C」の制作進行をやらせていただいた時に石川さんからもの凄く幸運な事に「こいつは将来プロデューサーとして育てたい」と思っていただきました。そこで「まず脚本を書け」という話になって、攻殻機動隊 S.A.C. 2nd GIGで脚本を書くことになりました。押井さんが監修されていたので、押井さんと神山さんの本読みに僕がプロットを出すという……今思い出しても金玉が縮み上がります。めちゃくちゃ怖くてとんでもないプレッシャーの中での仕事でしたが、すごくいい経験になりました。そして、当時盛り上がっていた土6の枠に「BLOOD THE LAST VAMPIRE」のテレビシリーズ(BLOOD+)をやるということで、僕が呼び出されて「プロデューサーやれ」ということになったんです。心の準備もないままで、今となっては怖いもの知らずでやったなという感覚があります。振り返ると、もっといろんなことが上手くできたんじゃないかとも思いますが、あの頃の若さだからこそ、オリジナル50本を乗り切れたのかもしれません。

G:
1年ですもんね。

大松:
今でもやれるかもしれないけれど、あの頃は「BLOOD+のために生きていた」「BLOOD+のことだけを考えてた」みたいな感じでした。MBSの丸山さんも、アニプレックスの落越さんも、みんな若くて、一緒にやれたのは青春だったなぁと思います。僕はいろいろいろいろ運が良かったと思っているんです。制作進行を4年やったあと、デスクを経験せずにプロデューサーになったんです。そのことで苦しんだ部分もありますが、抜擢していただいたおかげでいろんなことをやらせてもらうことができました。A-1 Picturesでは、会社の立ち上げの時期から10年間お世話になり「会社が立ち上がるとは」とか「現場を作るとは」ということを経験できました。

気が付けば40歳を超えて、もう誰のせいにもできないし、何の言い訳もできないと思っています。さっきの2つの強い風のこともあるし、アニメーターの環境のこともあるし、すでに待ったなしだなと。「業界が悪い」「いや、どこが悪い」と文句を言っている場合じゃないので、とにかく、新しいレーベルを作ると同時にその問題にも着手して、「業界全体を救おう」なんて思っているわけではないですが、目の届く範囲では、みんなが安心して働ける環境を作っていかなければいけないと思っています。

G:
作品を作りつつ、それを生み出すための環境全体のことも考えていかなければいけないというのは、激務ですね。

大松:
そうですね、それは全て1つに繋がっているという気がしてます。僕は本当は管理職なんかやりたくなくて(笑)、作品の企画や本を作ることだけやりたいという気持ちはありますが、繋がっているからやらざるを得ないだろうとも思うんです。タツノコプロは55年目という歴史あるスタジオですが、一方ですごく若いスタジオでもあって、制作に若い人も多いので、僕も踏ん張っていかないといけないなと。

G:
そこで生み出された「BAKKEN RECORD」で、どこまで飛んでいけるかというところですね。

大松:
ジャンプ競技の面白いところは、単に遠くに飛べばいいというわけじゃないところです。飛型や着地の姿勢も見られているので、美しく飛ばなきゃいけないんです。僕はそこが良いなと思ってて「遠くに美しく飛んでいく」というイメージでやれればいいなと思っています。

G:
まずはそのジャンプ1本目が「パンドラとアクビ」であると。

大松:
本当に、老若男女いろんな方々に見ていただける間口の広い作品になったと思います。可愛らしいビジュアルなので男性の「一人だと入りづらいな」みたいな声も聞こえますけれど、そこはそんなに気にせずに、タツノコプロの人情ものの部分をフィーチャーできたと自負する作品で、誰でも感情移入できるようなお話ですので、ぜひ足を運んでいただければ嬉しいです。

G:
ありがとうございます。

大松:
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4月19日(金)からは入場者特典第2弾としてステッカーセットの配布も決定。イラストは「よばれてとびでて!アクビちゃん」「アクビガール」でキャラクターデザインを手がけた吉田すずかさんによるものです。


◆「パンドラとアクビ」作品情報
・キャスト
パンドラ:小倉唯
アクビ:天城サリー

前編「荒野の銃撃戦」
ルイーズ(ドロンジョ):甲斐田裕子
三船剛:吉野裕行
ブライキング・ボス:天田益男

後編「精霊と怪獣の街」
カンタ:田村睦心
ナゾの怪獣:江原正士
冬の精霊:津田健次郎

・スタッフ
原作:XFLAG・タツノコプロ
監督:曽我準
キャラクターデザイン・総作画監督:大倉啓右
美術監督:竹田悠介
美術設定:高畠聡/田村せいき
撮影監督:五十嵐慎一
色彩設計:小針裕子
編集:長坂智樹
音楽:小畑貴裕
音楽制作:トムス・ミュージック
音響監督:田中亮
音響制作:ソニルード
主題歌:Shiggy Jr.「D.A.Y.S.」(ビクターエンタテインメント)
アニメーション制作:BAKKEN RECORD
配給:角川ANIMATION
製作:XFLAG
©XFLAG ©タツノコプロ

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