「リヴィジョンズ」を新たな代表作にするべく谷口悟朗監督と作品に取り組んだ制作会社・白組のスタッフ陣にインタビュー
アニメ「revisions リヴィジョンズ」のアニメーション制作を担当しているのが、映画「永遠の0」「STAND BY ME ドラえもん」などを制作してきた白組です。
白組がこの作品にどのようにして参加することになったのか、そして現場スタッフはどのような作業を行っているのか、井出和哉プロデューサーと撮影監督の高橋和彦さん、アニメーターの落合舞子さんにお話をうかがってきました。
監督・谷口悟朗さんとCG監督・平川孝充さんへのインタビューはこちら。
未来世界で人類を背負った戦いに身を投じる少年少女の姿を描くSFアニメ「revisions リヴィジョンズ」監督・谷口悟朗&CG監督・平川孝充インタビュー - GIGAZINE
GIGAZINE(以下、G):
まずは、みなさんが「revisions リヴィジョンズ」においてどういう立場なのか教えてください。
白組 井出和哉プロデューサー(以下、井出):
私はプロジェクト自体のプロデューサー兼アニメプロデューサーという形です。今回「revisions リヴィジョンズ」がオリジナルなので原作に入り、委員会にも入り、委員会と制作の両方に顔を出してコントロールをしていました。谷口監督がスケジュールの話をしておられましたが、それを一緒に回していました。高橋は「撮影監督」です。白組のプロパー、うちでいう中堅のスタッフです。落合は2年目で、アニメーターです。「revisions リヴィジョンズ」ではがっつりとアニメを付けてもらっています。
左から落合さん、高橋さん、井出さん。
G:
「revisions リヴィジョンズ」発表時のニュースリリースに「渋谷の町をCGで制作するにあたっては戦闘シーンでどこまで壊すかを慎重に考えました。人々がどう現代に戻っていくのかというドラマに力を入れていて学生、役人など、さまざまな立場のキャラクターがそれぞれどう生きていくのかを表現するために、表現や演技などは特に力を入れて作り込んでいます」とお答えになっていましたが、「どこまで壊すか」というのはどういったことでしょか?
井出:
谷口監督の話にもあったように、正直なところ、コスト面を考えながらやっているという部分もあるんです(笑)。CGなのでモデルとして作らないといけないのですが、「壊すべきところ」はそれぞれ2つずつ作らないといけないので、どこを中心に壊そうかということをまずCG監督である平川と相談しました。もうひとつ重要なのは、渋谷のスクランブル交差点についてです。世界の人が見たときに日本のメジャーな場所としてわかる「アイコン」だと思うんですけど、やっぱり看板のシルエットがあってこその渋谷なので、普通なら表記をもじるところですが、主要なところにはお声がけして使用していいか聞いています。……その前提が「ぶっ壊していいですか」という(笑)
第3話より、ぶっ壊された公園
G:
怪獣映画みたいな(笑)
井出:
作品はまだ作る前、どういう物語か開かされる前ですから細かいことは言えないんですけれど、「渋谷をぶっ壊すんですが看板使っていいですか」と(笑)。それで複数のところからOKをいただきました。壊さなきゃOKと言っていただいたところもあったのですが、平川と相談して「いや、やっぱり壊さなければダメでしょう」という結論になり、残念ながらダメだったというケースもあります。
G:
悩ましいところですね。
井出:
アクションものという側面もあるので、「壊す」ということについては結構検討しました。
G:
高橋さんはどういった形で作品に参加することになったのですか?プロデューサーから「やってみないか」と声をかけるのですか?
井出:
チームとして誰にやってもらうのが一番いいかということを平川の意見も踏まえつつ検討した上でオファーをしました。
G:
実際に「revisions リヴィジョンズ」で撮影監督をやってみて大変だったことはありますか?
撮影監督・高橋和彦さん(以下、高橋):
前回関わったTVアニメ「えとたま」や遊技機案件など、これまでやっていたセルルックCG制作の形からかなり仕組みを変えたんです。
G:
「仕組み」ですか。
高橋:
影の付き方とか、しわの入り方です。私は撮影やエフェクトだけでなく、リグの方を手伝ったりしていたので、ライティングの仕組みとかも結構変えました。今までだと、まず「しわが入ったりする」ということはまずしていなかったのですが、今回はしわを入れたり、今までのライティングから「描き影」、つまり手で描いた影のように表現したりという部分です。そうやっていろいろ変えたので、まとめるのが大変でした(笑)
第5話より、走るマリマリ
G:
(笑) 続いて落合さん、アニメーターとして具体的にどういったことをされたんですか?
アニメーター・落合舞子さん(以下、落合):
具体的には「キャラクターの動きをつけて、キャラクターに演技をさせる」というのがアニメーターの仕事です。「revisions リヴィジョンズ」では、ロボットや特徴的な敵キャラ、高校生や役人など、動き方にそれぞれのキャラクターの個性が強く、どうやって個性を際立たせていくかという点をチーム内で共有しながら進めました。CGではありますが、しっかり目に残る部分を作るため、皆で1から検討しながら演技や個性を出すことに重きを置いてやっていきました。
第8話の先行公開カットより、個性的な面々揃いの「S.D.S(渋谷・ディフェンス・サービス)」
G:
今回はモーションキャプチャーで作る部分と手付けで動きを付ける部分があったということですが、どちらがメインだったんですか?
落合:
1話から5~6話の前半ぐらいまでは一部モーションキャプチャーを土台として使っていました。私たちアニメーターもアクターさんが撮影しているところへ見学に行かせていただいて、谷口監督からこういう風に演技を付けていくんだと学ばせていただきました。最初のころは、現実とは等身などが違うアニメのキャラクターの動きと生の演技との間にどう折り合いをつけていくかを模索しながらやっていたのですが、後半は戦闘シーンやキャラクターの個性を際立たせるようなシーンが続いたので、変にノイズが入った動きより決めポーズをしっかり手付けで作って、ある意味ですっきりさせた形で演技を構成していくことに重きを置きました。前半と後半とでアニメーションのテイストもだんだん進化していったというか、作業しながらモーションキャプチャーの利点を学びつつ、手付けでしかできないところの使い分けをしていくことができるようになりました。私たちアニメーターたちも自社のモーションキャプチャー用のスーツを使って、自分たちもアクターになって、モーションを収録したり、いろいろな経験をすることができました。12話まで見ていただくと、どっちのいいところも取ったアニメーションの進化も見られると思います。
落合さん&撮影監督・高橋さん
井出:
……誰がプロデューサーだか分からなくなるような100点の答えでしたね(一同笑)
G:
井出さんの名刺には「新規コンテンツ事業部 副部長」とあります。
井出:
白組はオリジナルIPをそんなにやっていないのですが、この新規コンテンツ事業部は「オリジナルIPを作っていこう」という部署です。CGアニメには今すごく需要が出てきて、そういう作品作りというのが増えてきたという背景があります。副部長というのは、一応事業部制なので書いておくかぐらいの感覚で(笑)、偉くもなんともない白組のいちプロデューサーです。
G:
井出さんは「revisions リヴィジョンズ」の企画にはどの段階から関わっているのですか?
井出:
最初の頃からです。スロウカーブの尾畑さんから声をかけていただいたとき原案があって、お話作りから入らせてもらいました。
G:
脚本会議などにも出席して、と。
井出:
基本的には全部出ました。スケジュールという観点でいうと、制作が「これはできない」と言っていることを、委員会に対してダイレクトに「谷口監督とも相談し、このままではできないのでこうさせてもらいますね」と、レスポンスよくまとめることができるのはいいところだと思っています。
G:
「revisions リヴィジョンズ」はNetflix配信もある作品なので、第1話が放送されるときには全話完成しているということですよね。きっちりスケジュール通りという感じでしょうか。
井出:
最終話のV編の箱を押さえた時点でも予定通りで、みんな頑張ってくれました。
G:
制作していく中でもスケジュール通りでしたか?それとも、途中で調整しつつうまく収めたのですか?
井出:
調整しながらです。社内でもギスギスしたり……。
(一同笑)
G:
ギスギス(笑)
井出:
手描きのアニメの場合、たとえば「レイアウトが終わって、背景発注して、原画も終わったので、動仕に撒いて」という一連の工程が順番に抜けていく感じです。なのでどこのタスクで止まっているのか追いかけ易くもあります。ところが、CGだと大枠の順番はありますが、工程がセクションの間で行ったり来たり、または同時進行したりします。そうなると、「遅れているその作業をどのセクションチームでスケジュール吸収するのか」ということを常に話し合いながらやっていくことになるんです。うちのチームのやり方というのもありますが。
G:
高橋さんのところにしわ寄せが来るようなこともありましたか?
高橋:
結構ありました。
(一同笑)
G:
一番割を食いそうなところですよね。
高橋
それは、普段からそうなので。
(一同笑)
高橋:
今回、みんな思い入れが強くてやりたいことが多かったので、ギリギリまで粘ったりしたところが多かったですね。
井出:
白組はみんな映像制作が好きでやっている人たちなので、「自分の思ったカットをギリギリまで仕上げたい」とかそういうのは結構あるんです。平川はその筆頭です(笑)。最後までこだわるために、平川と制作と各セクションリーダーと私とで「いつまで落とせるの」というような話をしながらギリギリまでいい物を作っていこうとしていました。「何を妥協して、何なら落とせるのか」といったところや「ここはよく見せたいが、ここはこれで大丈夫だろう」といったメリハリを、有限のリソースの中でいかにバランスを取っていい物を作っていくか。テレビアニメは尺も長いので、予算的にもそういう調整が顕著に出てきます。今回はチームとしても成長が出来て、その点では良かったかなと思っています。
白組のスタジオ内はこんな感じでした
G:
モーションキャプチャーの話の中で、谷口監督が弁当が良かったと言っていましたが、そういうところの予算もしっかりしていたり……?
井出:
予算は制作に言って準備をしてもらっていましたので、そういう意識はありませんでした。お弁当の話も出てきてなんだかおかしな感じになっていますが、標準だと思います(笑)
G:
完全オリジナルの新規作品をやるということで、スタッフの気合いの入り方も違っていたとのことですが、スタッフ選びはどのように行われたのですか?
井出:
白組は「チーム制」になっていて、プロデューサーも得意分野がだいたい決まっています。例えば山崎貴監督の映画には二人三脚でやっているプロデューサーがいたりします。CMなどをメインで受け持っているプロデューサーなどもいて、うちのチームの場合はプロデューサーが私なので「今回この作品をやりますよ」と言って決まりました。もちろん、ほかのチームから助っ人が来てくれることもあります。
G:
「『revisions リヴィジョンズ』をやる」と伝えたときのみなさんのリアクションはどうでしたか?
井出:
最初に高橋を含めたセクションリーダーを集めて「これをやるよ」と言ったときは、みんな顔に出さないのでシーンとしちゃって(笑)
G:
(笑)
高橋:
さすがに「やったあ!」なんて言ったりはしないですけど、すごく面白そうだと思っていましたよ(笑)
井出:
私のチームはオリジナル作品の制作が多く、有名原作とかをあまりやらないし、オリジナルはそもそも最初のうちはどんなものか分からないので、どうしてもそういう反応になってしまうという気はします。
G:
谷口監督だから「ワー!」みたいな感じでもないんでしょうか。
井出:
歓喜した人はもちろんいますよ。アニメ好きとは言っても、落合のように「ディズニーが好き」というタイプの人もいるからというのはあるかもしれません。TVアニメファンの方々にも、「白組」という名前ではあまり刺さらないですよね。代表作として「永遠の0」を挙げていますが、A-1 Picturesさんやボンズさんのようにアニメーション制作スタジオとしてテレビアニメを見ているファンの方々に名前が浸透することを目標としているので、谷口監督とタッグを組んだ「revisions リヴィジョンズ」が新たな代表作になればいいなと思っています。
G:
プロデューサーの立場だと現場とはまた違った苦労があると思います。製作委員会で集まったときなどの一番印象的なエピソード、大変だったことはなにかありますか?
井出:
オリジナルだからというのはありますが、脚本がなかなか最終稿になっていかないのは大変でした。アセットとなるモデルデータなどは作っていかなくてはならないんですが、何が出るか決まらない限りは総物量が分からないので、予定も決まらないんです。委員会としてはより良いもの、脚本家さんもそうです。ただ、制作プロデューサーの立ち位置としては「これ以上話作りが進まないと終わらないですよ」と伝えました。そこで谷口監督は「これ以上は、1話は総集編になります」とズバッと本読みの時に言ってくださったりしてくれたんです。谷口監督のすごいところは、スケジュールに対してそういった意識があるところです。アニメーションプロデューサーとしてはすごく心強いところでした。
G:
なるほど。スケジュールを巡って現場からの声はどうでしたか?
井出:
作品制作を通して、常に紛糾した雰囲気はあって、怒号とかが聞こえたりすることもありました。どうしても、もめることはあるんです。
G:
それはクオリティに関して紛糾してしまうのでしょうか。
井出:
「クオリティ向上の追求よりも仕上げきらなきゃダメだよ」という話は、本当はしたくないのですが、どこかのタイミングではスケジュールを管理する者としては言わなければならないことです。「では、どこを落とすか」という話になると、いい意味でも悪い意味でもクリエイター同志で話してくれる現場なので、結果として言い合いに、と。このシーンは削りたくないけど削るかとか、ミサイルボンボンとかは削ろうとか。
ストリング・パペットの戦闘シーンが削られているというわけではありません。むしろ、毎回のように動きまくっています。
落合:
ああー……。
G:
締め切りとの戦いになったときに、ここは落としたらダメだろうとこだわったところはありますか?
高橋:
実写風な要素を入れたかったので、被写界深度、つまりボケをかなり入れていますが、それが大変でした。本来より浅めの被写界深度にして、手前にものが来たときはぼかしたりというようなところです。
たとえば、第3話のこのシーンでは手前にいるキャラクターにピントが合っており、奥に見えるシビリアンはボケて見えています。
井出:
谷口監督と平川も言いましたけど、普通のアニメより実写的な要素にこだわっているので、そこは注目してもらいたいですね。
G:
落合さんにもそういうこだわりはありましたか?
井出:
落合には「ニコラス」という、ぬいぐるみみたいなキャラクターを専任でやってもらいました。ディズニーが好きらしいので、「じゃあ、かわいいマスコットキャラを好きにしていいよ」って(笑)
左下、キリッとした顔で座っているのがニコラス。
落合:
ニコラスは4話から登場したキャラクターですが、ぬいぐるみみたいなキャラクターなので、ほかのキャラクターとはテイストが全然違います。ですので、どのようなスタイルにするかというところからスタートしましたが、「手描きならできるけどCGだと難しい」という表現がたくさんあったので、「ニコラスは手描きでやろうか」みたいな話もあったそうです。私はどうしてもニコラスのCGアニメーションをやりたかったので、初登場の自己紹介をするシーンで絵コンテにない動きを入れてみたりして「これがかわいいんだ」と思うことを詰め込みました。
落合:
それを平川さんが見てからCGでいくことが決まったと後から聞いて、こだわってよかったと思いました。最終話まで「CGでこういう動きはできるかどうか」とアニメ班のリーダーと相談したのに結局削られてしまったカットもあったりしましたが、それでも私が任されたところはのびのびできました。社内でも「こうするともっとかわいく見えるよ」とか話したりもしました。例えば、普通にくるっと顔を向けるだけじゃかわいくない、とかですね。
G:
どういった工夫をしたんですか?
落合:
リガーの方とも直接お話しして「こういう風に変形させたい」とか「ここはアオリにするとこういう風にかわいくなくなってしまうから、モーフでこうして欲しい」とか、具体的にやりとりしました。最初からリグがアップデートされた状態で進めていきましたが、そのリグの使い方もほかのキャラクターと全然違うので、まず私ともう一人の先輩でリグを使いこなせるようにして、社内で「こういう風にリグを使います」「このカットのこのポーズがかわいいと思います」と具体的なカットに意見を出しました。そうやって全話を通じてニコラスがかわいさを保ちつつ、作品の中で光るキャラクターになるように最後まで粘って取り組みました。
G:
となると、ニコラスはモーションキャプチャーを使っていないんですよね。
落合:
使っていません。ほかにも、CGだときれいになりすぎるので、わざと不細工な顔をさせたりとか(笑) ほかのキャラクターより表情のメリハリを大きくつけることを意識していました。
G:
ニコラスの動きは凝っているな、と思いましたが、実際に凝っていたんですね。最後まで、ニコラスを含めて注目して見ていきたいと思います。本日はお話、ありがとうございました。
井出プロデューサーには、作品企画時からともに作業しているスロウカーブの尾畑聡明プロデューサーとも一緒に、企画初期の話や、そもそもアニメに関する話についてもいろいろと語ってもらいました。
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