「求めている快楽」が近くシンクロ率の高い今石洋之監督&中島かずきさんにオリジナル新作劇場アニメ「プロメア」についてインタビュー
「天元突破グレンラガン」「キルラキル」で知られる監督・今石洋之と脚本・中島かずきのタッグが送り出すオリジナル劇場アニメ「プロメア」。炎を操る人種「バーニッシュ」と、対バーニッシュ用高機動救命消防隊「バーニングレスキュー」の熱い戦いが描かれます。
この作品がどう生み出されたのか、どんな点にこだわりを持っているのか、今石監督と中島さんに直接話を聞く機会が得られたので、質問をぶつけてきました。
映画『プロメア』公式サイト
https://promare-movie.com/
映画『プロメア』第二弾PV 制作:TRIGGER(5月全国公開) - YouTube
GIGAZINE(以下、G):
今回、お話をうかがうにあたって作品の脚本と絵コンテを事前に読ませてもらったのですが、絵コンテで誰がどこを描いたというのは具体的に描かれていませんでした。これは、今石監督がAパートを担当されているのですか?
「プロメア」監督・今石洋之さん(以下、今石):
Aパートは全部僕が描いていると思います。
G:
描いていてノリにノっていったのか、後半にいくにつれて何が描かれているのかだんだんわからないような感じに……
今石:
だいたいいつもそんな感じですよ(笑)
G:
これはAパート冒頭から順番に描いていったのですか?
今石:
今回は変則的な描き方をしたんです。一回、ラフコンテを最後まで通して描いて、それをもとに仮のアフレコロールを作って「ここを膨らまそう、ここは削ろう」と検証した上で清書しました。それが1~2年ぐらい前のことだったのですが、そのころ描いた絵がたまに残っています(笑) かっちりクリンナップしたものと、ふわっとしたものを残したものとありますね。
「プロメア」脚本・中島かずきさん(以下、中島):
実はラフコンテの時点ですでにシナリオは上げていたのですが、ラフコンテができてから「どうしましょうか」と相談して「エピソードとセリフ、こういう風に組み直したらいいんじゃないか」と手を入れました。
G:
なるほど、最初に脚本を書き上げたらそれで終わりというわけではないんですね。
中島:
わりといつも、セリフはギリギリまでいじらせてもらっています。
G:
絵コンテのどのパートを誰に描いてもらうというのは、どのように決めていったのですか?
今石:
ラフを描いたから下地はあるんですけれど、そのクリンナップや、アニメーターがカットを作れるように変更点をまとめる作業の時間が足りなかったので、勝手のわかる慣れた人達に手伝ってもらったりしました。それこそ、うちの社長の大塚にも絵コンテのまとめをしてもらったりしています。
G:
なるほど。絵コンテを見て、ころころと絵柄が変わっていくなぁと思っていました。
今石:
もう、コロコロ変わりますよ。だいぶ変則的です。
G:
今回、「プロメア」をこういった話にしようと決めたのは、お二人のどちらから出たアイデアなのですか?
中島:
「炎」は僕からです。「生きている炎にしよう」ということを、かなり早いうちに言いました。「生きている服の次は、生きている炎だ」と(笑)
G:
そういうことだったんですね(笑)
中島:
テッド・チャンの「あなたの人生の物語」を読んでいて、別の生命体は我々とは全然違う形でコミュニケーションしてきて、それが誤解を招くこともあるんだなと思いついて。つまり、「生きている炎」にとっては何かを燃やすことがコミュニケーションなんだけれど、人間にとっては迷惑だったりする。そういう発想が根本にあって、「じゃあ生きている炎とは?」と考えてバーニッシュというのが出てきました。
G:
なるほど。お二人が「天元突破グレンラガン」放送開始時に受けたWEBアニメスタイルのインタビューで、今石監督が中島さんに声をかけた理由について「Re:キューティーハニー」で愉快な部分も根っこの部分もシンクロ率が異常に高かったという話をされていました。「根っこの部分」というのはどういうところなのでしょうか?
今石:
「快楽をどこに求めるか」だと思います。求めている快楽の種類が近いんじゃないかと。
中島:
要するに「何を面白いと思うか」ということですね。お互い、あんまり説明しなくても「これ面白いよね」というのが感覚的に共有できて、話が早いんです。たとえば「肉っておいしいと思うんです」といったとき、野菜好きで肉を食べたことがない人相手だと「あんな固いものがおいしい?わからないです」ってなっちゃいますよね。でも肉好きなら「うんうん、肉うまいよね」で済む。そういうことなんです。
今石:
「あえて、固い肉がいいよね~」と、そういうところが合うんです。
G:
今回の「プロメア」だと、そういった部分でうまくいったところはどういう部分ですか?
中島:
むしろ、今回は苦労したんですよ。
G:
そんな2人なのに「苦労した」?
中島:
本当に、ここにたどり着くまでに大変でした。恒例ですけれど、僕の脚本が完成稿に来たところでこの人が破るんですよ。それは「天元突破グレンラガン」しかり、「キルラキル」しかりで、だいたい1話2話ができたなと思ったら、破る!
G:
破る!(笑)
中島:
「これじゃない!」って(笑) まず「これじゃない!」があるんですよ。だから、今回は自分から「これじゃないよね!」と破りながら出してみたんです。
(一同笑)
中島:
そうしたら「これでも!ない!!」ってさらに破かれて。
G:
さらに(笑)
中島:
そういうことが結構あったので、苦労しました。タッグを組んで3作品目、劇場作品は初なので「今までにないことをやりたい」と思いながら、一方で自分たちらしさをどう出すかと考えて、やってないことに振ってみたら「俺たちらしくないよね」と戻してみたり……今回、自分たちのモチベーションをどこに置くか、悩みましたね。
G:
今石監督が「これでもない」とさらに破った理由はなんだったんですか?何が気に入らなかったんですか?
今石:
うーん……?
中島:
破られたほうは覚えているけれど、破ったほうは忘れているものなんですよ!
(一同笑)
中島:
それはなにかというと、主人公の設定が複雑すぎて、2時間に収めるにはちょっと「遠い」ということだったんです。もっとシンプルにしないと、2時間の中でやりたいことができないんじゃないかと。それで、これまでにやらなかった方向を考えたんですが、やっぱりそうじゃないなと。ある程度作ってみて分かることもあるので。……ということだと思いますよ?
G:
この中島さんの予想はだいたいあってるんでしょうか?
今石:
僕からすると、中島さんの頭の回転スピードって異常に早くて、僕の5倍、6倍の速さで物事が進んでいくんです。だから、僕が結論を出す前にもう形になって出てくるんです。それ自体すごいことで、しかも相当なクオリティで「普通ならこのままやってもOK」くらいのものが上がってきて、でもその具体的な形があるからこそ冷静な判断ができるというか。ただ、もし、これが「明日から作画に入らなきゃならない」というタイミングで上がってくるのだったら、もうそのまま行くしかないんですが……。
中島:
それで思ったんです。「直しをしないためには、ギリギリまで出さなきゃいいんだ!」
(一同笑)
今石:
それはアニメーターがやる手段ですね、ギリギリに上げると作画監督が直せないぞという。
(一同笑)
G:
同じくアニメスタイルのインタビューで「自分が思い描いていた、理想のシリーズの監督像には近づいている?」という質問を受けた今石監督は「理想にはほど遠いですけどね。『画なんか1枚も描かないぜ!』みたいなスタンスでいきたかったんですけど。」と答えています。今回は理想の監督像に近づくことはできましたか?
今石:
いや、まったく近づいてないですね。
中島:
今でもそれが理想の監督像?
今石:
それはそれとしてですね……僕は1本のオリジナル映画を最初から最後まで作り上げるというのはこれが初で、テレビとは作業の順番や勝負どころが全然違うので、頭ではわかっていたけれど全然やれなかったというのがあって……。そんな話は、映画を見る前から聞きたくはないですよね。
中島:
そうやって苦労したがゆえに、フィルムはすごくいいものになっているということですよ!
(一同笑)
G:
今石監督は以前、コミティアで同人誌を頒布していましたことがあります。あれは、大学時代に描いていた作品を集めたものですよね。
今石:
一部、卒業してから描き直したものがありますが、大半は学生時代のものです。
G:
このマンガが非常に上手くて驚いたのですが、なぜマンガ家にはならなかったのですか?
今石:
むしろ、あれを描いて「マンガ家にはなれないな」と思ったんです。「話」と「テーマ」がないんですよ。
中島:
ああ、絵の快楽ってことだ。
今石:
僕は「絵」と「演出」の快楽はあって、「この流れでこうなったぞ、面白いなぁ」というのはあるんですが、「言いたいこと」というのはあんまりないんです。「娯楽として楽しい」しかなくて、「それが何を意味するのか」みたいなことがない。僕は大学時代、美大で映像を専攻していたので、テーマをもとに何かを作るということはやってきたのですが、実際に自分でテーマから作ると地味になりがちで。絵を描きはじめると今度は「このカッコいい絵を描いているだけで楽しい」となってしまって、テーマとかまで頭が行かずに手が止まってしまう。それを痛感しました。
中島:
でも、それを学生時代に判断できるというのが凄い。
G:
本当、そうですよ。
今石:
やらしいことを言ってしまうと、マンガ家からアニメーターになるのは大変だけれど、アニメーターからマンガ家になれる可能性は、前例がいっぱいあるから、とか学生なんで甘いこと考えてましたね。
中島:
宮崎駿さんだって「風の谷のナウシカ」描いているから。
今石:
そう、逆だと大友克洋さんぐらい凄くないとダメなんです。
中島:
いやいや、手塚治虫先生だっていますよ。
今石:
手塚先生!それは無理じゃないですか!(笑)
(一同笑)
G:
続いては中島さんにもお話をうかがいたいのですが、脚本やシナリオで文字として読んでいる分には違和感がないのですが、いざ声に出して読むと違和感が出てくるというケースがあります。中島さんの脚本の場合、今回の「プロメア」を含めて、声に出して読むとまったく違和感がなくスムーズに聞こえるのですが、これは何か意識しているのですか?それとも、演劇を手がけているから、自然とこういう風に書けるのですか?
中島:
これはやはり、人が声を出して演じるものを40何年書いているからですね。自分の頭の中で再生して、気持ちいいリズムで書いています。
G:
リズムなんですね。
中島:
はい、字ではなくリズム、音で書いています。
G:
文字で読んだときに「なぜこんなセリフなんだろう?」と感じたものが、声に出してみるとスッキリ「なるほど」というものがあったので。演劇を書き始めたのは高校生ごろだったと見かけましたが、もうその頃からリズムを意識して書いていたのですか?
中島:
そうですね、自分の気持ちいいリズムで書いていました。
G:
中島さんは以前、AERA dot.連載のコラムの中で「時代劇を書いている時に、台詞でつい『なにを、さぼっている』とか『敵のアジトを攻めよう』とか書きたくなる時がある。でも『さぼる』は『サボタージュする』の短縮形だし、『アジト』は『アジテーティング・ポイント』の略。もとがドイツ語と英語なので、時代劇にはあまりふさわしくない」と書いていました。本作でも、このように気をつけた言葉というのはありますか?
中島:
僕がいつもやっているのは、もし英語でしゃべっているのを翻訳するなら格言も日本風のものに変えるだろうから、カタカナ名の人が「雉も鳴かずば打たれまい」と言っていたとしても、それは本人がその格言を知っていて言っているわけではなく、日本語に置き換えるならそれが適当であろうということで置き換えられているのだと、自分の中で理屈を作るということです。そういう、自分の中に作ったルールに照らし合わせて考えます。「新感線」で時代劇をやるとすると、先ほど例に出された「さぼる」とかは避けた方がいいけれど、ギャグ寄りの内容ならアリということもあります。作家が一生懸命考えても役者がアドリブでカタカナ語を入れたら終わりだもんね、というある種の諦めも持ちつつ戦っていくという感じです。
G:
同じく連載コラムで、脚本家専業になってからの執筆スケジュールについて「今までは、昼間出勤して、夜、原稿を書いていたので、夜更かししがちで、だいたい午前5時くらいに就寝して、午前10時から11時頃に起きて出勤していました。会社を辞めたら、もう少し早寝早起きにしようかなと思っていたのですが、つい今までのペースで仕事をしてしまい、寝るのが5~6時くらいになってしまう。当然起きるのは、昼頃です。」と書かれていました。今も同じようなタイムスケジュールなのですか?
中島:
今はもうちょっと早くて2~3時に寝て、9時~10時ぐらいに起きますね。
G:
締め切りはかなり守るとのことなのですが、守るためになにか特別にやっていることはありますか?
中島:
これはもう性格的なことで、僕は「自分が死なないために締め切りを守っている」だけです。締め切りを破ると、周りの人に迷惑をかけたなぁと思って胃に来るんです。だから、自分がしんどい思いをするぐらいなら締め切りを守った方がいい、ということで締め切りを守っています。自分が潰れてしまうから。
G:
あちこちで「締め切りを守らないと」と書かれているので、なぜこんなに書いているのだろうかと思っていました。
中島:
僕、寝てるときの夢というと「どこかに行かないと行けないけれど、トラブルが起きてたどり着かない」という内容しか見ないんです。
今石:
そこは僕はまったく反対ですね。締め切りはわりと破ってしまう方なので…。年々腰が重くなり、同じあやまちを何度もくりかえしています。
中島:
やっぱり自分が大事ですから、大事にするためにどう生きるかという話ですよ。編集者上がりの作家って2パターンいて、「俺はこんなひどい目に遭ってきたんだから、お前らをもっとひどい目に遭わせてやる」というタイプと、「だいたい事情は分かっていて、君の後ろにはたくさんの人が待っているよね。OK、締め切りはちゃんと守るよ」というタイプに分かれます。僕は後者です。
G:
中島さんは雑誌社を辞めるまで、28年も編集者と脚本家の二足のわらじを履いていたわけですが、なぜそんなにも長い期間、両立することができたんですか?
中島:
人は二本脚でないと歩けないんですよ。
(一同笑)
G:
うまいこと言いますね!
中島:
中身は何にもないけど、「そうかな?」って思わせるという(笑) 僕は、両方ともやりたかったんです。中学生のころから編集者をやりたくて、高校の時に演劇に出会ったので、編集者になりたいという夢の方が先だったぐらいです。会社の仕事も面白くて、自分のやりたい仕事をやれてたんですよ。その上で、芝居は趣味。皆さんが麻雀をやったり、お酒を飲んだり、社交ダンスをしたり、山に登ったりする時間が、自分にとっては脚本を書く時間だったんです。
G:
それで続けられたんですね。では最後に、「プロメア」公開に向けてのメッセージをお願いします。
今石:
今回は全年齢向けで、ストレートなアクション映画として作っていますので、安心して楽しんでいただければと思います。
中島:
全年齢向けでさっと見ると気持ちの良い作品ですが、エッジは立てていて、こういうものが好きな人向けにいろいろなところに隠し味があってフックは作ってあります。自分たちの総決算であり、また、新たなスタートを切る「決戦」の作品にもなっていると思いますので、楽しんでいただければと思います。
G:
本日はありがとうございました。
このタッグがいったいどんなオリジナル劇場作品を生み出したのか、「プロメア」公開をぜひ楽しみにしてください。
2019年6月、作品公開に合わせて再び今石監督と中島さんにインタビューを実施しました。読み比べると、答え合わせになるような一面が見つかるかもしれません。
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©TRIGGER・中島かずき/XFLAG
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