「アリータ:バトル・エンジェル」プロデューサーのジョン・ランドー氏にインタビュー、制作経緯や技術の進歩など色々と聞いてみた
木城ゆきと氏のSF漫画「銃夢」を原作とした映画「アリータ:バトル・エンジェル」が2019年2月22日に公開されます。この作品は、「タイタニック」「アバター」などを共同で制作したジェームズ・キャメロン、ジョン・ランドーのコンビが着想から15年以上もの年月を経て完成させた作品です。
今回、プロデューサーであるジョン・ランドー氏にインタビューする機会を得たので、「アリータ」についてだけではなく、ジョン・ランドー氏とジェームズ・キャメロン氏が手掛けた「アバター」から制作環境がどのように進化したかなど、様々な質問をぶつけてきました。
映画『アリータ:バトル・エンジェル』公式サイト 2019年2月22日(金)全国ロードショー
http://www.foxmovies-jp.com/alitabattleangel/
GIGAZINE(以下、G):
9年前、「アバター」公開時にインタビューした際、「前回の『タイタニック』からこの『アバター』まで10年以上時間が空いたように、次のジェームズ・キャメロン監督作品が世に出るまで、やはり10年以上の時間がかかると考えた方がよいのでしょうか?」と伺ったとき、「そうではないことを祈っています!」というお返事でした。しかし、「アバター」から「アリータ」まで実際に10年近くが経過しています。やはり1作制作するのにはそれだけの時間がかかるということでしょうか?
ジョン・ランドー(以下、ジョン):
「アリータ」の前に取り掛かった「アバター」の続編は、1本だけではなく4本制作しています。我々は台本を重要視しているのですが、今回はこの4作の台本を順序立てて書く必要があったので、それだけの時間がかかりました。計算すると「2年半で1本」のペースだということです(笑)
G:
9年前のインタビューの時点で、「アリータ」の制作を予定しているという話が出ていました。「アリータ」の脚本はどれくらい時間がかかったんですか?
ジョン:
我々が初めて木城ゆきと氏の「銃夢」を知ったのが1999年のことです。ジェームズ・キャメロンが日本に来て、木城氏と実際に会って話をしました。「銃夢」の映画化権を得たのが2000年です。「アリータ」の脚本が書き上がったのは2005年でしたが、ちょうどその頃「アバター」の話が出ており、「アバター」と「アリータ」のどちらを先にやろうかというのを考えた結果、「アバター」が先になりました。
G:
ロイター通信の記事によると、キャメロン監督が約2億ドル(約220億円)という製作費について「確かに巡洋戦艦並みの巨額予算で、大きな賭けだ」とコメントしています。今回の「アリータ」の場合、長さが2時間強なので、単純計算すると1分あたり1億円以上がかかっているということになっています。これだけの大きな予算をかけた映画をプロデュースする気持ちというのはどんな気持ちでしょうか?
ジョン:
我々のビジネスで1つ言えることは、「製作費がどれだけかかっても、消費者1人あたりが払う金額は変わらない」ということです。例えばホテルに泊まっても大きな部屋は値段が上がります。飛行機代もファーストクラスならばより高い値段です。寿司の値段もモノによって当然異なります。しかし、映画のチケットは全て同じ値段です。
ジョン:
気持ちの話をすると、少ない予算の作品だろうが、大作だろうが、やはり観客を「楽しませなければならない」ということはプロデューサーとして大きなプレッシャーです。同時に、制作サイドが誇りを持てる作品であるということと、原作者の木城ゆきと氏が誇りにできるものを作らなければならないということは、一番責任を感じる部分です。木城氏とはずっと連絡を取り合って、いろいろなものを制作中に見てもらっています。ちょうど2週間前、木城氏のためだけの試写会を開いて、完成した作品を見てもらいました。木城氏は、制作陣の苦労が報われるようなリアクションで、「約束以上の出来栄えになっている」と言ってくれ、安心しました。
G:
試写であのラストシーンを見たときに、「今すぐ続きを作ってくれ!」と言いたくなりました。予想もできないようなラストシーンになっていたんですが、あのエンディングはジェームズ・キャメロン氏率いる脚本陣の、制作開始時からの予定通りのものなのか、予定から変更したものなのかどちらだったんでしょうか?
ジョン:
続きについて確実に言えるのは「劇場に行ってこの映画を見てくれ。そうすれば制作サイドとしても続編を作らざるを得ないから」ということですね(笑)。エンディングに関しては制作当初から思い描いていたものです。私があのエンディングを何故好きなのかというと、実際の人生に似ているからです。我々の人生は決してクリーンな終わり方をするようなことはありえず、「やっと終わったけれど、これからどうなるんだろう」という将来に対する不安と期待を持って、明日へ臨むわけです。まさにそういった感覚をあのエンディングは持っていると思います。
G:
2018年7月の来日時にMovie Walkerのインタビューを受けて、「アリータ」から「アバター」続編への技術応用についての話をしておられます。
「映画はクローズアップが大事だ」と持論を展開しつつ、「『アバター』を先に作ることで、顔の演技のレベルが格段に向上したんだよ」と自信たっぷり。そしてもちろん『アリータ』で培った様々な技術を、今後4作品製作される『アバター』の続編に応用していく気も満々の様子。
今回の「アリータ」では、顔の表情の技術が格段の進歩を遂げているなという実感があったのですが、それ以外の点で「アバター」に応用できる技術とは具体的にはどの点なのでしょうか?
ジョン:
表情もさることながら皮膚表面の表現が進歩しています。光がどういう風に反射するとか、質感とか、ディテールですね。他には髪の毛です。覚えていらっしゃるかどうかはわかりませんが、「アバター」では髪の毛の表現を減らすために、登場人物の髪の毛は結わえてあったんです。ですが「アリータ」ではその必要はなくなって、アリータの髪の毛は結わえていません。
ジョン:
また、海の中に行くという話が「アバター」で出たものの実現しませんでしたが、「アリータ」において水中のシーンを実現できました。
予告編の約27秒ごろ、一瞬ですがアリータが水に入るシーンを確認できます。
映画『アリータ:バトル・エンジェル』日本オリジナル予告【天使降臨】編60秒2月22日(金)劇場公開 - YouTube
G:
日本の漫画を原作にした実写映画は日本でも多く作られていますが、あまり上手くいってないというのが現状です。今回「アリータ」は漫画のテイストを見事に取り込んでに映画化できていると思えました。原作漫画を映画で上手に消化できない事例については、どのような原因が考えられますか?
ジョン:
多くの原作となる作品は、特定の町や特定の場所を舞台として展開されていることが多いですよね。しかし、映画製作者としては、多くの人に受け入れてもらえるように普遍的なものを描かなくてはいけません。そのため、特定の場所を舞台にした作品では、普遍的になるように手を加える必要が出てきます。「アリータ」の場合、木城氏が生み出した「銃夢」の世界観が、すでに普遍的なものでした。
ジョン:
日本の原作から生まれた「アリータ」は、漫画という芸術を賛美していると思っています。元をたどれば日本で発信されたものを、我々は他の国の人々も楽しめるものとして「アリータ」を制作しました。今度は「アリータ」を見た日本の人が、「日本の漫画を原作にした上でできた作品なんだ」ということを実感して、誇りに思えるような出来になっていればと思っています。
G:
9年前のインタビュー時にも似た質問をしましたが、ジョン・ランドー氏の考える「『プロデューサー』として一番大事なもの」とは一体何でしょうか?
ジョン:
私にとって、プロデューサーにとって一番大切なことは、私自身が成しえるよりもはるかに能力の高い各分野の担当者を見つけ出して雇って、その仕事を任せることです。「任せるよ」と言って相手に自信を付けて、共に映画を創り上げるチームの一員として誇りを持ってもらう。それが大切です。
ジョン:
映画というのは共同作業です。絵を描くことや詩を書くことは1人でもできますが、映画制作はコラボレーションです。私であれ、ロバート・ロドリゲスであれ、ジェームズ・キャメロンであれ、我々は映画に携わった人たち、何千人ものスタッフ、キャストの肩の上に立っています。私が成しえてきたことは、「トゥルーライズ」で一緒に仕事をした人たち、または「タイタニック」で一緒に仕事をした人たちと今でも仕事をしているという事実が証明してくれます。それは何よりも私の誇りになってくれています。
映画「アリータ:バトル・エンジェル」は2019年2月22日(火)から公開。なお、本日・2月21日(月)の夜から「前夜祭」として一部映画館で3Dバージョン限定の特別上映がスタートします。
映画『アリータ:バトル・エンジェル』日本オリジナル予告【天使降臨】編60秒2月22日(金)劇場公開 - YouTube
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