奨学金申請書の記入に支援があると大学進学率が8％も向上する

貧しい家庭に生まれた子どもは大学などの高等教育を受ける機会を失うだけでなく就職の上でも不利になり、自分の子どもに高度な教育を受けさせることが難しくなる貧困の連鎖に見舞われてしまいます。このため多くの先進国では奨学金制度を設けており、アメリカにも「FAFSA(連邦学資援助無料申込)」という奨学金を申請するための制度があります。このFAFSAの申請書を、入力フォームなどを備えた書類作成ソフトで支援しただけで、進学率が8％も上昇することが明らかになりました。

Role of Application Assistance and Information in College Decisions: Results from the H&R Block Fafsa Experiment* | The Quarterly Journal of Economics | Oxford Academic
https://academic.oup.com/qje/article-abstract/127/3/1205/1921970

The Role of Application Assistance and Information in College Decisions: Results from the H&R Block FAFSA Experiment | The Abdul Latif Jameel Poverty Action Lab
https://www.povertyactionlab.org/evaluation/role-application-assistance-and-information-college-decisions-results-hr-block-fafsa

The Role of Application Assistance and Information in College Decisions: Results from the H&R Block Fafsa Experiment | Center for Education Policy Analysis
https://cepa.stanford.edu/content/role-application-assistance-and-information-college-decisions-results-hr-block-fafsa-experiment

FAFSAとは「Free Application for Federal Student Aid」の略で、一般に「連邦学資援助無料申込」と翻訳されます。ところがこのFAFSA、申請するには収入・貯蓄・政府給付の受給の有無・語学力など、100以上の詳細な質問に答えなければならず、さらに申請の際に内容に虚偽や誤りがあれば、罰金を課せられたり刑務所に入れられたりする可能性があると警告されます。このため、申請プロセスの簡素化が求められていると考えたスタンフォード大学のEric Bettinger教授らの研究チームがある実験を行いました。

実験はオハイオ州およびノー​​スカロライナ州の世帯収入4万5000ドル(約500万円)未満の家庭を対象に、参加者を3つのグループに分けて実施されました。最初の支援グループは納税記録から自動的にFAFSAの申請書を作成するソフトを使用し、不足している情報について専門家から説明を受けました。所要時間は8分程度で、参加者はできあがった書類を郵送するかオンラインで送信するか選んで申請し、必要なら後でコールセンターに質問することもできたとのこと。次の情報提供グループには、納税記録と近隣の大学の授業料の一覧を配布し、FAFSAという制度があると情報提供を受けました。最後の対照グループは大学に行くことを勧めるためのパンフレットだけを受け取りました。

実験の結果、支援を受けた家庭の高校生は大学進学率が36％になり、対照グループの28％より8ポイントも改善しました。一方、情報提供グループには改善は見られなかったとのこと。この実験結果についてEric Bettinger教授らは、ひとりひとりへの支援が多くのチャンスに結びつくだろうと述べています。