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なぜ慈善事業に携わる「よき人々」が悪行に手を染めてしまうのか?

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アイルランド出身の詩人・劇作家であるオスカー・ワイルドは、1891年に発表した「社会主義下の人間の魂」という評論の中で、「慈善事業は多くの罪を生み出す」という直感に反するような格言を残しました。そんなワイルドの言葉を裏付けるかのように、2018年にはイギリスのチャリティー団体であるPresidents Clubにイベント会場でのセクハラ騒動が持ち上がり、貧困と不正を撲滅するための活動を行う国際的団体のオックスファムの職員による売春や性的虐待疑惑が明らかになるなど、多くの悪行が慈善事業に携わる人々によって行われています。いったいなぜ、慈善事業に携わる『よき人々』が悪行に手を染めてしまうのかという疑問について、ジャーナリストのAbbas Panjwani氏が解説しています。

Why Doing Good Makes It Easier to Be Bad
http://nautil.us/blog/-why-doing-good-makes-it-easier-to-be-bad

慈善事業に携わることは社会的に立派な行いであり、周囲から「あの人は慈善事業に積極的で偉い」と見られがちです。しかし、時にはそんなよき人々が悪い行いに手を染めてしまうことがあるのも事実であり、「なぜあんないい人が、プライベートでは悪い人間になってしまうのだろう」と不思議に思う人は少なくないはず。


Panjwani氏はこのメカニズムについて、「よい人間の中には、自分自身に『悪いことをするライセンス』を与えることがあります」と述べています。シカゴ大学の経済学者が2017年に発表した論文によると、社会的意義を持つ会社で働くことが、従業員が不正を行うモチベーションをアップさせることを報告しています。

研究者は、印字されていない短いドイツ語のテキストを転記するという仕事を人々にさせる実験を行いました。その際、報酬の10%を前払いして残りの90%は仕事が完了するか、「ドイツ語の文字が読みにくいために転記できない」と宣言した場合に支払うという契約を被験者と結んだとのこと。

そして、一部の人々には「報酬の5%にあたる金額がユニセフの教育プログラムに寄付される」という情報を伝えたところ、寄付について知らされなかったグループと比べて仕事において不正行為をする割合が25%も上昇しました。不正行為の中には10%の前払い金だけを受け取って残りの仕事を遂行しなかったり、文字が読みづらいと主張して仕事をせずに全額の報酬をもらうといったものが含まれていたとのこと。

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研究者らはこの結果を受けて、人々は自分たちの行動が慈善事業につながるという大きな意義を感じた時、慈善事業のために雇用主から報酬を詐取するような「モラルのライセンス」を感じたと主張しています。社会に対して善となる仕事は、労働者に「会社や雇用主に対して不正を働いてもいい」と感じさせるとのこと。

しかし、これだけでは慈善事業を行う団体がイベント会場で性的暴行を起こした事例について説明できません。上記のような「モラルのライセンス」理論は、自身の行いが個人的にはよい行いだと合理化できる場合か、あるいは善悪の判断が曖昧な場合にのみ有効となります。

by Pavel Kunitsky

ロンドンビジネススクールの組織倫理の専門家であるDaniel Effron氏は、「モラルのライセンス」には2種類があるとしています。そのうちの一つが「モラルの信任状」メカニズムであり、上記で説明したような、自身の中で不正行為の合理化や正当化が可能な場合に多く見られるものです。自分はよき行いをしてきたのであり、倫理的に曖昧な行動をしても外部からは自分がよき人間であるように見えるだろうという心理が働いています。

もう一つのライセンスとしてEffron氏が考えているのが、「モラルの残高」メカニズムです。これは銀行の預金残高のようなものであり、人々はよい行いをするたびにモラルの残高を積み立てていき、自分が悪いことをした場合には、積み立てたモラルの残高から悪いことをした分だけ引き出すというイメージで働きます。この場合、問題となるのは「自分が過去に善行を積み上げており、十分な残高がある」という点だけであり、実行する悪行が合理化的できないものであっても問題にはなりません。

Effron氏が提唱する「モラルの残高」理論は、Presidents Clubやオックスファムの職員が行った不祥事の説明となります。不祥事をした人々は、少なくとも自分自身の中で悪行が合理化できる程度には善行を積み上げたという意識があったと考えられるとのこと。

「慈善事業だけがこのようなモラルのライセンスに対して脆弱なのではありません」とEffron氏は指摘しており、同様の事例は多くの分野で確認できるとしています。研究によればたとえ「環境に優しい製品を買った」という程度のささいな行いであっても、消費者がモラルに反する行動へライセンスを与えることがあるそうです。

by Lukas

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in メモ, Posted by log1h_ik

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