SpaceX・Falcon 9の発射&着陸まで完全再現した小型ロケットの自作に挑むアマチュアロケットエンジニアの熱意がすごい
イーロン・マスクCEO率いる民間宇宙企業SpaceXが打ち上げる、再利用を視野に入れた垂直離着陸可能なロケットが「Falcon 9」です。このFalcon 9に魅せられ、実物と同じように垂直離着陸が可能なモデルを48分の1というスケールで一から自作する猛者を、Motherboardがムービーで紹介しています。
The DIY Rocketeer Building SpaceX Replicas of Self-Landing Rockets - YouTube
噴煙をあげて打ち上がる1台のロケット。
まるで本物のロケットのようですが、ロケットの左にある一眼レフカメラと三脚を見てもわかるとおり、その大きさはせいぜい成人男性の身長ほどのサイズです。
Joe Barnard氏は、SpaceXのロケット「Falcon 9」を元にしたロケットを独学で制作しているアマチュアのロケットエンジニアです。
Barnard氏は「現時点で自作のロケットがかなりのレベルにまで進歩しているので、自分をアマチュアと呼んでいいかは分かりません」と自信満々にコメントしています。
確かにBarnard氏によるロケット打ち上げの様子を上空から捉えたところを見ると、実物のロケットの発射風景にしか見えません。
Barnard氏のロケットは、実物のFalcon 9と同様に上段が分離する構造になっています。
また、垂直着陸ができるように備え付けの足が開くようになっているところも再現されています。
本物のFalcon 9は全長がおよそ70mで、ちょうど17階建てのビルと同じくらいの大きさ。Barnard氏が作るロケットのスケールは48分の1で、およそ1.4mほど。
Barnard氏は初めからエンジニアリングの技術を持っていたわけではありません。Barnard氏はあの名門バークレー音楽大学を卒業し、作曲の学位を取得し、しばらくは結婚式用の映像・音楽制作の仕事に就いていました。
ある時、Barnard氏はFalcon 9の垂直離着陸実験のムービーを見て、自分もこんなロケットを作ってみたいと考えたそうです。そして「いつか月面に何かを届けたい」という夢を抱き、アマチュアながらロケットの開発を始めました。
ロケットを作るにあたり、Barnard氏は3Dプリンターを購入。ロケットの部品の多くは3Dプリンターで製作されています。
もちろん点火装置や……
打ち上げ台もすべて自作です。
ムービーが撮影された日は、最上段部の分離システムの実験を行っていました。
Barnard氏がスマートフォンで操作すると……
ボンッと火薬がさく裂し、見事に分離は成功。Barnard氏は「すばらしい!」と実験の結果に満足している様子。
「ロケット工場」とBarnard氏が呼ぶ自宅の工房には、ロケットの部品やさまざまな道具が所狭しと並んでいます。
キッチンの前にあるテーブルには、食事ではなくロケットの試作品が鎮座。
部屋の片隅に積まれているAmazonの段ボールには、さまざまなロケットの部品の試作品が山のように積まれていました。
部屋のあちこちにロケットの部品が置かれ……
部屋内の観葉植物にもロケットが立てかけられている始末。
Barnard氏はロケットを作るために、BPS.spaceという会社を設立し、自身が設計したアマチュアロケット用の制御システム「Signal R2」を349ドル(約4万円)で販売しています。
「これは『墓地』です」と言いながらBarnard氏が棚から引っ張り出した段ボール箱の中にはSignal R2の制御基板の試作品が詰まっていました。
精度や小型化を突き詰め、この基板1つでロケットのさまざまな制御を行うことが可能になったとのこと。
「すべては失敗と繰り返しの連続でした」とBarnard氏が物語る通り、Signal R2の完成に至るまでさまざまな試行錯誤があった模様です。
Signal R2の基板はスマートフォンとBlueTooth接続が可能で、スマートフォン上からセンサーにアクセスしたり、スラスターの角度を調整したりすることができるとのこと。
Barnard氏は左手に消火器、右手にドローンのケースを持って、試作品の打ち上げ実験のため公園に向かいます。
後部座席に横たわるロケットの試作品。
「宇宙に何かを飛ばすにはものすごくコストがかかります。しかし、それでも新しい民間宇宙企業が次々に登場しています。誰もが宇宙の民主化という目標に向かって努力しているのです」とBarnard氏。
Barnard氏のロケットは打ち上げは成功しているものの、垂直着陸はまだできていないとのこと。この日はその実験を行うようです。
ドローンにロケットを結びつけて……
スラスターの動作を確認。
三脚に固定した一眼レフカメラで着陸の様子を撮影します。この撮影は、実験失敗から得た教訓を確実に次の試作品へフィードバックさせるためのもの。
上空に飛び上がったドローンから切り離され、逆噴射をしながら地上に降りてくるロケット。
しかし、着陸は失敗。ロケットはスラスターから噴射を続けながら地面をバウンドします。
撮影していたカメラで確認してみると、着陸時にロケットの角度が変わって垂直ではなくなってしまったようです。この写真を見て、Barnard氏は「ランディングギアを開閉するモーターが熱で動かなくなってしまったのか、開くのが遅すぎます。たとえ着陸時の角度を微修正したとしても間に合わないでしょう。飛行制御ソフトウェアのアップデートをしなければいけません。また飛行データを見て何が間違っていたのかを調べることも必要です」とコメントしましたが、実験の結果には満足している様子。
どうやら回路を結ぶリード線が長すぎたことに問題があった様子。
「もしSpaceXであれば、この問題を科学と50万ドル(約5700万円)で解決するでしょう。でも私は青いテープで解決します」とBarnard氏。
不具合が生じてもわからない場合、インターネットで情報を集めたり、同じ問題に悩むアマチュア技師と議論を重ねたりすることもあるそうです。また、Barnard氏は試行錯誤を通じて得たノウハウをオンライン上で共有するために、ムービーにまとめて逐一自身のYouTubeチャンネルで公開しているとのこと。
例えば、アマチュアが小型の自作ロケットをまっすぐ飛ばすためには、姿勢制御用の翼をロケットに装着することがよくあります。
しかし、Falcon 9をはじめとする大型のロケットにはこういった翼はなく、スラスターを可動式にすることで姿勢制御を行っています。Barnard氏の開発したロケットには、スラスターの方向を制御できる小型モーターが搭載されているとのこと。Barnard氏は自身の開発したこのシステムにかなりの自信を持っているようです。
「ロケットの製作と打ち上げが趣味だ」とBarnard氏が人に話すと「なんで25歳にもなってオモチャで遊んでるの?」と言われることがよくあるそうです。しかし、Barnard氏によるとそれはまったく違う話で、「自分は宇宙を目指すことで得られる進歩や革命を目指しているのです」と語っていました。
後日、改修したロケットの垂直着陸の実験を再度行います。
ドローンから切り離されたロケットは……
逆噴射を行いながら、ランディングギアを展開。
噴射が少し高い位置で終わってしまったために着陸自体は失敗したものの、「脚から着陸したぞ!これは確実なデータが取れた!」と、懸念事項であったランディングギア展開の成功に喜びをみせるBarnard氏。
「私は小規模ながら、多くの進歩を作り出していくつもりです。宇宙事業には人類の成長のために無限の可能性があると私は考えています。『月面に何かを打ち上げる』という目標を達成するにはたくさんの段階を超えていかなければならないのです」とBarnard氏は語っていました。
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