取材

最新型フルカラー3Dプリンターで可能になった新しい造形の最前線を「ウルトラモデラーズ」展覧会でのぞいてきました


アーティスト、講師、学生など、モノづくりのさまざまな領域で活躍する人たちによるクリエイター集団「Ultra Modelers」による、デジタル造形ソフトと最新のフルカラー3Dプリンターで出力したさまざまな作品の展覧会が、2018年11月23日から25日にかけて大阪・日本橋で開かれました。この展覧会は、クラウドファンディングで50万円の目標額に対し、67万9000円を集めて実現したとのこと。どんな作品があるのか、実際に会場へ足を運んでのぞいてきました。

3Dモデル造形師集団 | Ultra Modelers
https://www.ultramodelers.site/


大阪は日本橋にやってきました。


展示会が行われていたのは、ボークス 大阪ショールームの8Fです。


エレベーターで8Fに上がると、巨大なポスターがお出迎え。


作品はそのままで展示されていて、近くに寄って細かいところまでしっかりと見ることが可能。作品の撮影は自由となっていて、見に来た人がスマートフォンでお気に入りの作品をパシャパシャと撮影していました。


東アジアで初めてZBrushの公認インストラクターの資格を得たBLESTARこと和田真一さんの作品「密林の追跡者」


追跡者はこんな感じ。盛り上がった筋肉に刻まれた入れ墨は後からプリントしたものではなく、3Dプリンターで成形時に彩色されたもの。体本体は、いくつかのパーツを組み立てたものではなく、フルカラー3Dプリンターによる一発成形。


追跡者が抱える槍はイノシシの大腿骨(だいたいこつ)から作られていて、毒蛇の猛毒を注入する機構が備わっていて、獲物を容易に動けなくするという設定。槍は長いので3分割して、真ちゅう線で保持して作っているそうです。


口からよだれをたらしながらも鋭いにらみを見せる相棒のイノシシ。鎧(よろい)の皮や金属の質感もしっかり表現されていますが、なんとこのイノシシもフルカラー3Dプリンターによる一発成形とのこと。


吉本大輝さんの作品「Pablo Picasso」です。吉本さんは京都造形芸術大学で油画を専攻していましたが、在学中にZBrushによる造形に出会い、2018年に大学を卒業した後はホビーメーカーでデザイナーを務めているそう。


闘牛士の顔は20世紀を代表する芸術家、パブロ・ピカソにそっくり。吉本さんはピカソの作品から着想を得てこの作品をデザインしたそうで、フルカラー3Dプリンターの能力を最大限に引き出すことも目標に設定していたとのこと。


ピカソに仕留められている牛には深々と剣が刺さっています。苦痛にゆがむ牛の顔はキュビスムの技法で表現されていて、「Dying BULL」を思い起こすデザインになっていました。


同じく吉本さんの作品「八方睨み鳳凰図」は、長野県上高井郡にある岩松院の本堂天井を飾る葛飾北斎晩年の名作「大鳳凰図」を立体化したもの。元作品にも負けない迫力で、会場の隅にあるにも関わらず異様な存在感を放っていました。


羽の模様一枚一枚も丁寧に描写。3Dプリンターで作ったといわれても信じられないほど、細かいところもしっかり成形されています。


「大鳳凰図」の作品には後ろ足は描かれていませんが、吉本さんは想像力を働かせ、清らかな泉に休みにくるという鳳凰の伝説から、泉の大岩をがっしりとつかむ力強い後ろ足をデザインしています。


大上竹彦さんの作品は、「妖怪少女 -モンスガ-」より綾辻轆花(あやつじろっか)です。ふなつかずきさんの同名漫画のキャラクターで、この作品を作るためにふなつさん本人からイラストを描き下ろしてもらったとのこと。


髪の毛の細かいラインや、肩にのっかっている河童の細かい表情もしっかり出力されています。


もちろんスカートの中もしっかりと成形。体のパーツによる分割ラインがないのも、フルカラー3Dプリンターによる一発成形の恩恵です。


足下の芝生にはキノコが生えていました。


同じく大上さんの作品「Arnee【アーニー】 Flower version」


Arneeは水牛を意味するとのことで、頭には立派な角。頭にはバラの花が載っています。陶器のようになめらかで繊細な質感で、見ている人も思わずため息をもらすほど。


ベールの上にも散るバラ。3Dプリンターによる出力とは思えないほど淡い色合いと薄さです。


ベールは透明感を演出するために、クリア素材を使って出力しているとのこと。肌もすべすべでとても柔らかそう。


独学で3DCGを習得し、フリーランスでデザイナーとして活動を続ける加茂恵美子さんの作品「立体模写 黄道十二宮 byアルフォンス・ミュシャ」です。正面から見ると、二次元の作品のようですが……


斜めから見るとこんな感じ。枠・女性・背景と、立体的な構造になっている作品となっています。背景に描かれている草花や女性の髪も立体に成形されています。


長いまつげや髪飾りの宝石や鎖などもしっかり出力されています。憂いをたたえたなんともいえないほほえみは、粘土をこねたりけずったりして原型を作ったのではなく、PC上で3DCGモデルを制作してから、3Dプリンターで出力しているとのこと。


ワンダーフェスティバルなどイベントで活躍する原型師のクッキー草さんの「天道様」です。この作品は2018年夏にはワンダーショーケースにも選ばれています。


「天道様」は、ジョン平さんのイラストを元に制作されています。左手に銅鏡を持ち、細部まで緻密に作り上げられた翼が特徴的。半透明の羽衣が、荘厳でミステリアスな雰囲気をあおります。


右手には七支刀。背中に背負っている満月のような丸い板は……


左手に持っているものと同じ銅鏡になっていました。


バーチャル美少女原型師のジムさんが手がけた作品「Virtual Sculptor(ヴァーチャルスカルプター)」です。ジムさんも2018年夏のワンダーショーケースに選ばれた作品の原型を務めています。


ジムさんによると「自身を立体化、コンテンツ化することで創作の縛りからの脱却を目指しています」とのこと。背景のケーブルは、クリアパーツの中に線が通っていますが、これもフルカラー3Dプリンターで一発成形したもので、バーチャルの世界で見たこと、感じたイメージをフィードバックした結果だそうです。


足元で波打っていたのはWacomの液晶ペンタブレットでした。


ホタルコーポレーションのチーフクリエーター兼印刷オペレーターであるSOMAさんの作品「Shin-ka」は、日進月歩で発達していく印刷技術をアートで表現したものとのこと。


3Dプリンターによるなまめかしい女性の体と、3DのUV印刷とレーザー加工機によるアクリル彫刻とカッティングを複合したもので、まさに印刷オペレーターとしての技術力が総動員された作品。


ステンドグラス部分は表裏あわせて6回に及ぶ重ね刷りが行われているそうです。また、3Dパーツ部分はカラーインクのみのパーツ、クリアインクのみのパーツ、カラーインクをクリアインクでオーバーコートしたパーツと、3種類で構成されているとのこと。


特に作品の背後に展開されるアクリルの白い枝がスポットの照明を浴びてキラキラと輝いていているのが印象的でした。


デザイナー、アーティスト、そして世界で初めてPixologic公認のZBrushCoreのインストラクター・マスターの資格を得てプロの講師としても活躍する福井信明さんの「この世界とあの世界の狭間でもなくそこいる」


福井さんによると「ここでもそこでもなく、どこでもなく、この世界でもあの世界でもない。かといって確実に存在し、寂しく横たわる世界」を表現したとのこと。


BLESTAR和田さんは「どこから見ても物語が見える」と評していました。細かいところに小さなキャラクターがさまざまな表情や動きを見せていて、いつまでも見ていて飽きない不思議な魅力を持つ作品でした。


なお、この作品はZBrushでモデリングと彩色をすべて済ませてしまっているとのこと。


アクセサリーの個人ブランド「NORWORKS」を抱える彫金造形作家中野範章さんの「Ric Camera(リックカメラ)」は、リクガメとカメラが合体した、かわいらしい怪獣です。


背中の甲羅にはカメラのファインダーがくっついていました。


手足を覆ううろこは、リアルに作るために中野さんが飼育するリクガメを見ながら造形されたそうです。


画像では少し分かりづらいですが、中野さんは「おなかのレンズ部分は透明にすることで、絞りの作り込みが見えるようにしました」とコメントしています。プリンターで出力したホタルコーポレーションの担当者によると、おなかのクリア樹脂とファインダーのはめ込みで苦労したとのこと。


中野さんの作品「Hardboiled Cat & Wild Gekko」です。「DNA操作で生まれた獣人がごく当たり前に人類と共存する世界で、ネズミのマフィア専門のヒットマンである猫の『ニコ』と、その相棒であるヒョウモントカゲモドキの『月光』の二人組」という、サイバーパンクのような世界観が設定されています。


デザインは、コナミの名作ゲーム「スナッチャー」「ポリスノーツ」のデザインに参加したイラストレーターのヨシオカサトシさんによるもの。メカニカルなジェットバイクにまたがったニコが、口にたばこをくわえてハンドルをしっかりと握っています。


クールな表情を決めるニコに対して、ニヒルな笑顔を浮かべる月光を見つめていると、この二人の凸凹コンビっぷりを何らかの作品で見てみたいという気持ちになります。


AKIRA」の金田がまたがるバイクと同じ「成田山」のステッカーが貼られているのを発見して以降、月光の顔が「ピーキー過ぎておまえにゃ無理だよ」と言っているようにも見えてきてしまいます。


大学で造形を学びながらワンダーフェスティバルなどにもディーラー参加するなど、原型師として活躍する谷岡和樹さんの「歌川芳藤氏作 五拾三次内 猫之怪 立体図」は、歌川芳藤の浮世絵を立体化した作品。遠目から見ると大きな猫の妖怪ですが……


近づいてよく見ると、猫がぎっしり集まってできています。


猫の表情や体のなまめかしさもしっかり表現されています。


造形集団「Ultramodelars」の主宰を務めるワクイアキラさんの「Sigularity(シンギュラリティ)」は、今回の展示会のチラシにも大きく掲載されている作品。カラフルでメカニカルな仏像は確かに観客の目を引きます。


「シンギュラリティ」という作品名には、AIがいずれ人間を超えてしまうかもしれないという技術的特異点を表す言葉です。ワクイさんはシンギュラリティの「AIが人間を超えてしまうのが怖い」と考える人もいれば、「面白そう」と楽しみにする人もいるという部分に注目。この二項対立はやがて「天使と悪魔」という相反するイメージへ変化し、最終的に菩薩(ぼさつ)像に昇華していったとのこと。


ワクイさんによると、インターネットにある3DCGモデルを購入してブラシに登録し、「コラージュのような感覚でスピード感を重視して作っていったらどうなるか」と思うがままに作っていったそうです。幼い頃から好きだったプラモデルの組み立てや解体が、作品創作の根幹になっているとワクイさんは語っていました。


色はポリペイントで作っていったとのこと。とにかくカラフルかつ複雑な造形で、見ているものを圧倒する情報量を持つ作品でした。


アニメーション制作会社のGONZO出身でフリーランスの「ポストデジタル・アーティスト」としてCGアニメーションや3Dプリント作品を発表している小林武人さんの「シランパカムイ」です。小林さんは「3Dプリンターでなければ不可能な表現や造形」を創作のテーマとしているそうです。


小林さんは「フルカラー3Dプリンターの『3DUJ-553』はSLSプリンターとは異なる考え方で作品が作れる。すべてのパーツを結合する必要がないので、より実際のCG/ヴァーチャルの世界に近いパーツの組み方をした。ポリゴンモデリングならではのラインの美しさと、パーツが繰り返されることで生まれる密度と美しさを意識した」と述べています。


「シランパカムイ」はアイヌ民族の樹木の神とのことで、小林さんは「伝統・宗教・習俗に敬意を払いながら、コンテンポラリーな視点からアップデートすることで未来へとつなぐ作品」と位置づけています。


圧巻だったのは足元に渦巻く、今にも動き出しそうな雰囲気のある透明な草木。透明なクリア樹脂で作られているのですが、先の細い部分までしっかりと成形されています。3Dプリンター特有の積層もほとんど見られず、言われなければ3Dプリンターで出力したとは思えないほど繊細です。


同じく小林さんによる作品「不動明王」は、縄文土器的な炎をモチーフにした不動明王像です。メラメラと燃え上がる炎の動きを瞬間的な形に凝結した作品で、すさまじい迫力を感じます。粘土では難しい造形も、3DCGモデリングと高性能3Dプリンターで可能になりました。


この「不動明王」は、小林さんがワンダーフェスティバル2018冬に参加した際、手で作られた数々の素晴らしい作品を見て「絶対に負けない」と触発されたところから生まれた作品だそうです。頭部はポリゴンメッシュの美しさを強調するため、メッシュをベベル、面取りを施しているとのこと。


右手には梵字の刻まれた剣を持ち……


左手には首輪がつながれた鎖を持っていました。


小林さんが創作していたアニメーションプロジェクト「project Kakusha」の主人公であるKakusha-覚者-をモチーフとした作品「celestal psicodelico -Kakusha 最終形態-」は、全身クリアパーツで作られている意欲作。


Kakushaは自身の存在理由の根源を知るために旅をする者で、大悟した形態がこの最終形態とのこと。重なり合う透明なピラミッドの中に開く巨大な目が印象的。


腹部には陰陽太極図をモチーフにした球体が埋め込まれています。


透明なボディーの中に神経の経路が通っているという設定で、まるで毛細血管のように編み目に神経が走っている様子が表現されています。表面ではなく内部にプリントするというデザインは、フルカラー3Dプリンターによる成形だからこそ可能となっています。


「Ultra Modelers」主宰のワクイさんによると、高性能なフルカラー3DプリンターやVR・ARなど、進歩したテクノロジーが作家がやりたいことに追いついてきたと気づいたとのこと。伝統的技法の向上を追い求める道には「上には上がいる」というピラミッド構造があると感じていたワクイさんは、その果てしないヒエラルキーを登っていくよりも、さまざまな人や企業とコラボレーションを行うことで、人それぞれがもつ得意な部分で補い合う方に魅力を覚えたとのこと。そして、自分だけでなく他の人も主役になれるような「ひとつの大きな創作の場」を作りたいと思い至り、「Ultra Modelers」を立ち上げたそうです。

ワクイさんは「人にはできることとできないことがあります。葛飾北斎が『大鳳凰図』を描いた時に娘や弟子の力を借りて作品を完成させたように、人の手を借りなければできないことがあり、関わり合うおもしろさがあります。人は常に他人とコラボレーションしているかもしれません。展覧会を見に来た人は『これはアートなのか?それともフィギュアなのか?はたまたサブカルチャーなのか?』と戸惑うこともあると思いますが、その迷いの中を模索することで何かがあぶりだされることに期待しています」と語っていました。

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in 取材,   デザイン,   アート, Posted by log1i_yk

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