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サイエンス

人間の知能が高いのは大脳皮質が大きいだけでなく「ニューロンの振る舞いが根本的に違う」から

by TheDigitalArtist

「人間が賢い理由は大脳皮質が大きいためだ」という説明がよく行われますが、マサチューセッツ工科大学(MIT)のMark Harnett氏らによる研究で、大脳皮質の大きさ以外に「そもそもニューロンの振る舞いが他の動物とは異なる」という理由が存在することが明らかにされました。

Electrical properties of dendrites help explain our brain’s unique computing power | MIT News
http://news.mit.edu/2018/dendrites-explain-brains-computing-power-1018

ニューロンの樹状突起はコンピューターでいうところのトランジスタの役目を果たすもの。トランジスタは電気を通すためのスイッチのような存在で、正しい電圧を与えることでプログラムの論理演算に必要な「1」と「O」の情報を伝えます。

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樹状突起はほかのニューロンから受け取った信号をニューロンの本体へと伝える役目を持っています。この電気信号が活動電位を起こし、他のニューロンへと伝わっていくことで、ニューロンで構成される巨大なネットワークが情報を交換しあって思考や行動が生まれていきます。

これまでの研究で、樹状突起が伝える信号の強さは、情報がどれだけの距離を移動してきたかに左右されると示されています。つまり、隣にあるニューロンから受け取った信号の刺激は強い一方で、はるか遠くのニューロンから流れてきた信号は弱くなるということです。

人の脳の特徴として、大脳皮質が分厚いということが挙げられます。ラットの大脳皮質は脳全体の30%ほどですが、人間の大脳皮質が占める割合は75%ほど。そして大脳皮質が分厚いがゆえに、情報を伝える樹状突起も他の動物より長くなっています。

人間の大脳皮質はラットの2~3倍の厚みがありますが、その構造は他の哺乳類と同じ6層のニューロンから作られています。5層目のニューロンの樹状突起は1層目のニューロンに届くほど長くなっており、これは、脳が進化する段階で、電気信号を届けるために長くなったのだとみられています。

by geralt

MITの研究チームは、樹状突起の長さが電気信号の性質にどのように関係していくのかをマウスと比較する形で調査しました。実験は、脳手術で前側頭葉の一部を切除したてんかん患者から脳の組織を採取し、実験に使用するという方法で行われました。なお、実験に使用した脳の一部は病気を患っておらず、正常に機能するものだったとのこと。また切除されたのは言語や視覚情報処理に関わる部分でしたが、患者は切除後も正常にそれらの機能を行えたといいます。

切除された後の組織は脳脊髄液を模した溶液に入れられ、酸素を与えられたため、48時間は正常に機能し続けました。研究者は、この間にパッチクランプ法を用いて錐体細胞と呼ばれるニューロンの樹状突起がどのように電気信号を測るのかを測定しました。

この結果判明したのは、「1層目のニューロンから5層目のニューロンに伝わった電気信号」は、ラットよりも人間の方が弱くなるということ。また、ラットの樹状突起も人間の樹状突起も電流を制御するイオンチャネルの数は同じですが、人間は樹状突起が長い分、その密度が低いことも示されました。これにより、それぞれニューロンが区画化され、1つ1つの計算能力が増しているそうです。研究者は生物物理学的なモデルを作成することで、イオンチャンネルの密度の違いが電気活動の強さの違いの原因となっていることを示しています。

「人間が賢いのはニューロンを多く持ち大脳皮質が大きいということだけが理由ではありません。根本的に、ニューロンの振る舞いが異なるのです」とHarnett氏は述べています。

by geralt

ただし、このような違いが人間の脳の力にどう関係しているかはまだわかっていません。Harnett氏の仮説は「密度の違いにより、人間の樹状突起のより多くの部位が入力信号に関わることができるようになる。これにより各ニューロンは情報に対してより複雑な処理が行えるようになる」というものだとのこと。

人間と他の動物のニューロンには、このほかにもさまざまな違いがあります。Harnett氏は今後の研究で、ニューロンが伝える電気信号のインパクトの正確性についてさらに調査を進め、人間独特の性質がどのように関わりあうことでコンピューティングの力を発揮していくのかを探っていきたいとしています。

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in サイエンス, Posted by logq_fa